&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
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  • 日本の人手不足問題は2014年以降慢性化し、今後も拡大していくことが予想されるが、職種による需給のミスマッチ問題も同時に抱えている。
  • 2024年にIT大手企業がAIエージェントのサービスを次々と発表した。容易にデジタル労働力を生み出せる存在として人手不足問題の救世主として期待されている。
  • NRIの試算では、日本企業が生み出すAIエージェント数は2030年に延べ180万~900万体にのぼるが、単純に日本の人手不足を解消するとは考えにくい。
  • AIエージェントが人手不足を解消するためには、(1)技術面:AIエージェントが担えるタスクの範囲が十分に広いこと、(2)経済面:AIエージェントの導入コストが十分にリーズナブルなこと、(3)労働需給とのマッチング面:人手不足が深刻な職種においてAIエージェントが提供されること、の3つが必要となる。

日本は2014年を境に慢性的な人手不足の時代へ

人手不足問題が深刻化している。求人と求職のバランスを示す有効求人倍率は、2014年以降11年連続で1.0を上回り続けていて、求人数>求職数、つまり職を探す人よりも人を探す企業のほうが多いことを示している。

日本の有効求人倍率は1.0を超える時期が戦後4回あった。1度目は1967年から1974年までの8年間で、「いざなぎ景気」の期間と重なっていて、2度目は1988年から1992年の5年間で、不動産バブルの時期と重なる。3度目は2006-2007年の2年間で、このころ日本経済は緩やかな経済成長期に入っていて、雇用、設備、債務の解消が終わった日本企業が積極的な雇用を再開した時期でもある。しかし米国発の世界金融危機を発端に、2008年には1.0を下回ってしまう。そして4度目が2014年から現在に至る時期だ。

2014年からの人手不足は、景気の過熱に伴う労働需要の増加というよりは、純粋に人口減少による労働供給のひっ迫が原因といってよい。これまでの日本経済は、不景気になると有効求人倍率が1を必ず下回っていたが、コロナ禍が勃発した2020年は1.2と依然として1を上回り、不景気下においても日本全体としては「人手不足」が続いたのである。

職種による需給のミスマッチも

人手不足が原因による倒産件数も増加している。東京商工リサーチによれば、2024年の1年間に、人手不足が原因で倒産した件数は282件にのぼり、2022年の4倍以上に増えた1。産業別にみると、サービス業、建設業、運輸業など労働集約型の産業で多いという。

そこで有効求人倍率を職種別にみると、職によって大きなバラツキがあることがわかる(図1)。有効求人倍率(求人数/求職数)が高い職種としては、保安職=7.4、建設・採掘職=5.6、サービス職=3.2などで、人手不足倒産が多い業種と一致している。これらの職種は人材を探すのが極めて困難になっている。サービス職は、人手不足の絶対数も大きく、2024年12月時点で35万人にのぼっている。実はサービス業の人手不足の大半は介護サービス職で16万人の人手不足となっている。

図1 職種別にみた有効求人倍率と求人/求職数ギャップ(2024年12月)

出所)「職業業務安定統計」厚生労働省よりNRI作成

図1を見ると、職不足の職種もあることがわかる(図中の左側)。事務職や運搬・清掃・包装職だが、特に事務職については求職数が45万人に対して、求人数は21万人しかなく、24万人の「職不足」となっている。職種による需給のミスマッチだ。ちなみに、保安職、建設・採掘職、輸送・機械運転職の人手不足数の合計は約24万人なので、仮に事務職を希望して職を得られなかった人が、保安職、建設・採掘職、輸送・機械運転職になってくれれば、これらの職種の人手不足問題は、数字の上では解決してしまう。もちろんこれは机上の空論で、必要なスキルセットは違うし、労働環境や雇用条件も全く異なるので、そう簡単に職種の需給ミスマッチは解決しない。

AIエージェントの登場

そのような状況下で2024年を境に登場したのがAIエージェントと呼ばれる存在である。AIエージェントについての決まった定義は存在していないが、簡潔に「ユーザーがやりたいことを伝えると、ユーザーのために複雑なタスクをこなしてくれるソフトウェア」としておこう。ユーザーと対話し、ユーザーの目的を理解し、それを達成するためのプロセス/タスクの構造化をして、それを実行する存在だ。画面上で人間の姿形(アバター)をまとって登場するケースもあるし、アバターは持っていないが、例えば機械(例:冷蔵庫)にAIエージェントが搭載され、人間と自然言語で会話するケースもあり得る(ハードウェアをまとったAIエージェント)。

AIエージェントと、これまで登場したRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やチャットボットとの違いは何かといえば、機能的にはそれらの進化系ということになるが、特にユーザーの目的の理解力や、タスクを分解し手順を指示されることなく自力でゴールに向かう力、さらには学習した知見を次に生かす力が優れている。

例えば、商品の返品処理をしてくれるAIエージェントを考えてみよう。顧客(人間)が「先日購入した商品を返品したいのですが」と画面上で話すと、そのAIエージェントは以下のような行動をとる可能性が高い。

(1)ユーザーが商品の返品および返金を求めていることを理解し、ゴールに至る手順を構造化する(=目的の理解とタスクの構造化)。
(2)購入商品の特定化、次いで返品処理方法の確認とユーザーへの伝達、さらに返金ポリシーの確認や、どのようにユーザーに返金されるかを伝え、顧客の返事に従ってゴールに至るプロセスを順にたどる(=自律的な行動)。
(3)当該商品の返品率のデータを更新し(高くし)、その商品が他と比べて将来的な返品率が高いことを予測する(=学習を重ねる)。

2024年はAIエージェント元年に

2024年、セールスフォース、マイクロソフト、サービスナウなど大手IT企業が立て続けにAIエージェントのサービスを発表した。奇しくも、日本の人手不足の慢性化が始まった2014年からちょうど10年後の出来事である。いずれもユーザー企業が容易にAIエージェントを構築できることをアピールしている。そこでその代表例としてセールスフォースが提供するAgentforceについて紹介しよう。

セールスフォースはCRM(顧客関係管理)ソフトウェアで世界トップのシェアを持つ企業である。同社資料によれば、Agentforceは「デジタル労働力を生み出すプラットフォーム」であり、顧客の労働力を強化するだけでなく、顧客体験の向上、売上拡大にも資するツールとうたっている。

セールスフォースのAgentforceには、強みが少なくとも2つあるように見える。1つ目は、Agentforceが同社のデータ基盤であるデータクラウド、そして様々なCRMツールを含むCustomer 360の上に被さるように構築されていることだ。これによって、Agentforceで生成されたAIエージェントは、顧客を360度理解するための構造化/非構造化データと、それを分析する潤沢なツールが手元にそろっていることになる。他方、そのような条件がそろっていない中で顧客を理解するためのツール導入が別途必要になるAIエージェントと比べれば、性能と導入効果や価値を享受できるまでの時間効率が良いことは容易に想像できる(人間の従業員であってもデータとツールがなければよいパフォーマンスは生み出せない)。

2つ目の強みは、「Einstein Trust Layer」という仕組みを通じたAIエージェントのセキュリティと質の担保にも注力していることだ。人間と自然言語で会話するAIエージェントの場合、間違った回答や不適切な発言をしてしまうリスクは常にある。そのリスクを可能な限り低くするために自社AIであるEinsteinを活用した仕組みである。

AIエージェントの作成も容易だ。AIエージェントが担う仕事の定義やタスクの設定などを自然言語で行う「エージェントビルダー」、プロンプトを定義できる「プロンプトビルダー」、そしてパフォーマンスのテストや評価をするための「テスティングセンター」という機能が装備されている。

Agentforceの具体例として、顧客からの問い合わせ対応をするAIエージェントを考えてみよう(図2)。顧客との会話で、「注文した商品はいつ届きますか」と聞かれた場合、AIエージェントは「注文管理」という最適なカテゴリーを選び、その指示に従いながら計画をたてる。そしてデータを参照しながら必要なアクションを実行し(ここでは「注文状況の確認」というアクション)、顧客に結果を回答するという流れである。会話→計画→実行→成果と進むイメージだ。セールスフォースがノウハウを有する顧客対応の代表的なシナリオについて標準機能として提供されているのもAgentforceの強みと言えるだろう。

図2 Agentforceの仕組みとイメージ

出所)セールスフォース社資料より

日本企業のAI導入率は2030年頃に50%を超える

労働力を拡張する存在であるAIエージェントは、日本の人手不足問題を解消してくれるのだろうか。その答えを考える前に、まずは日本においてAIエージェントがどのくらい登場しそうかについて考えてみよう。ここでは企業を対象に議論を進める。

野村総合研究所は不定期にアンケート調査を行い、日本企業におけるAIの導入状況を調べている。図3には3時点の数値を記載しているが、2023年7月時点では7.6%、同年12月には11.3%、2024年12月には13.1%の企業がAIを導入していたと見ている。これらの過去のデータをもとに、AI浸透率の普及曲線を推計したところ、2030年ころにはAI導入率が50%を超えるという結果になった(R2=0.98)。

図3 日本企業のAI浸透率の将来見通し

出所)過去の数値はNRIのアンケート調査より。点線はそれらのアンケートデータを用いて普及曲線(ロジスティクス曲線を想定)を推計

日本企業が生み出すAIエージェント数は2030年に180万~900万体?

図3を用いて、2030年における日本企業のAIエージェント数を試算してみよう。まず2030年の日本企業のAI浸透率(予測)は52%である。次に2030年における日本の法人数をトレンド予測したところ約340万社となった。さらに2030年頃のAIはすべてAIエージェント的なものになっていると想定すると、AI浸透率≒AIエージェント浸透率となり、2030年時点で340万社×52%=約180万社がAIエージェントを導入している。

次に各社がAIエージェントを何体生成するかについてだが、これは企業によってかなりバラツキが生じる可能性が高い。1体しか作らない企業もあれば、細かいプロセスごとに異なるAIエージェントを作る企業もあるだろう。そこで今回はかなり保守的な想定をした。下限値としては、各社が自社を代表するAIエージェントを1体だけ生成するケースで、上限値としては、企業の主要機能である、研究開発、生産・物流、企画・管理、営業、サービスの5つの機能で1体ずつを生成するという想定だ。ゆえに180万社×1体~5体=180万体~900万体となる。

さてAIエージェントが仮に900万体も生まれたら、それだけで日本の人手不足は解消するのだろうか。リクルートワークスによると、日本は2030年に340万人の人手不足が生じるというが2、数字を単純に比較するとAIエージェントが不足分を埋め合わせてくれそうな印象を受ける。しかしAIエージェントが人手不足を解消するためには、3つの条件がそろっている必要がある。

AIエージェントが人手不足を解消するための3つの条件

1つ目はタスク的な条件である。人間が担っている多くの職業が複数の業務(タスク)から成り立っていて、AIエージェント1体が、ある職業で必要となるすべての業務をこなすことができるとは限らない(むしろ難しい)。トロント大学のアグラワル教授らは、「医療における画像診断AIの登場によって放射線科医の仕事はなくなるのか」という問いに対して、明確にNOと答えているが、その理由として、放射線科医の仕事は30の業務から構成されているが、AIが担う画像診断はその中の1つに過ぎないからと述べている3。AIエージェント1体が人間1人分を担えるとは限らない。

つまり1体のAIエージェントが担えるタスクの幅が広がっていくか、複数のAIエージェントの活用によって人間1人分の仕事をこなさない限りは、人手不足を埋めるまでには至らない。そしてAIエージェントが担える業務の比率は職業によって大きな開きがあるだろう。米国のAI開発企業であるアンソロピック社は、自社AI利用履歴から、業務の半分以上でAIを活用している職種は全体の11%しかいないと分析している(例:外国語教師、マーケティングマネジャーなど)4。現時点では、AIエージェントが丸々担えそうな職業は非常に少ないということだ。

米国では職業別に、その職業に就くための難易度(高等教育や訓練がどの程度必要か)を5段階で評価している。アンソロピック社の分析によれば、レベル1から4にかけて職業の難易度が高くなるとAI活用が深くなる、つまりAIが担える業務比率が高まる傾向にあるものの、一番高いレベル5の職業(例:麻酔科医、産婦人科医)ではAI活用比率はかなり低くなるという。これはこのカテゴリーに多く含まれる医者が、フィジカルな動きも求められるからだろう。AIが担えるタスクの広さを縦軸に、職業の難易度(あるいは複雑度5)を横軸にとると、山型の曲線を描く。

AIエージェントが人手不足解消に貢献するための2つ目の条件は経済的な側面である。具体的にはAIエージェントの導入コストで、ある仕事にAIエージェントの導入を検討する場合、その導入費用が人間を雇うコストよりも高ければ人間のスタッフに任せたほうが良い、となる。

AIエージェントは、ソフトウェアと同じく限界費用(追加費用)ゼロで好きなだけ人数を増やせるという議論があるかもしれない。しかし一定水準以上の品質を出せるAIエージェントを導入するには、AIによる非構造化データの分析力向上と、関連データへのアクセスが欠かせないが、AIのアクセスをどこまで許すかという問題が生じる(各社員のメールをAIに読ませてもよいのか)。また安全性や信頼性を担保するための仕組みの整備も必要だ。さらにAIエージェントをトレーニングするような人間も必要になるだろう(AIエージェント・トレーナーという新しい職業の登場)。さらに、フィジカルな動きが必要になる仕事の場合は、躯体(ロボット)のコストもかかるため、なおさら導入ハードルが高くなる。技術面はクリアしていても経済面から導入が難しいケースも出てくる。

そして3つ目の条件は労働需給とのマッチングだ。図1に示したように、日本では職種ごとに労働需給のミスマッチングが起きている。サービス職や専門職・技術職では人手不足が多い反面、事務職はむしろ人余りが起きている。経営者からすれば人余りの分野でAIエージェントの可能性を提示されてもあまり魅力的に映らないだろう。

AIエージェントの活用領域と今後の見通しについて考えてみると、足元ではどちらかといえば社内向け事務業務での利用が先行しているように見える。対顧客業務(例:販売職、販売支援職)については、安全性や信頼性、品質の観点から社内向けよりもハードルが高いが、セールスフォース社のような例が登場しつつあり、今後AIエージェントの性能向上や導入コストが低下していけば、人手不足解消には貢献できるだろう。

しかし改めて図1を見ると、日本の人手不足問題の多くは、(介護職をその中心とする)サービス関連職、保安職、建設職など、体を動かす仕事で多く、これらの人手不足を解消するには、躯体が必須となる。そうなるとコストがかかることから、技術面よりも経済面の方がネックになる。

ビルなどを警備する保安職の場合、人手不足を補うための保安ロボットの導入が進んでいるが、人間の警備員がやる仕事をすべて担っているというよりは、「動く監視カメラ」的なタスクに絞っている。特定のタスクに絞って(単純化して)、AIロボットに担わせている。それに対して教育職や介護職の場合はこのやり方は難しい。むしろ中心となる対人業務は人間が担うが、周辺業務(各種事務処理など)をAIエージェントに担わせることで、中心業務に集中できるような対策をとる。

「人間のコア・コンピタンスへの集中」と「業務の単純化」が進む

ここまで書いたように、AIエージェントが日本の人手不足を解消するには、3つの条件が必要だ。AIエージェントが担えるタスクの幅広さが第1の条件。次に導入コストがリーズナブルであるという経済面が第2の条件になる。特にハードウェアを要するAIロボットの場合は、高い導入コストが壁となる。さらに日本で起こっている職業別の労働需給とのマッチングの問題もある。人手不足が深刻な分野でAIエージェントが提供されるかというのが3つ目の条件である。

このような条件があるなかで、職業自体が変化することで人手不足に対応するというトレンドも生じるのではないか。大きく2つある。1つ目は、教育職や介護職の例で挙げたように、AIエージェントが周辺業務を担うことで、少ない人間でも中心業務を担えるようにする、という対策。言い換えると人間が「コア・コンピタンス」業務に集中する方向性。2つ目は、保安職の例で挙げたように、「業務の単純化」を通じてAI(ロボット)が担えるようにしてしまう、という方向性である。その意味では、①人間のコア・コンピタンスへの集中、②職業(業務)の単純化という2つのトレンドが、AIエージェントの導入とあわさって、今後促進されるのではないか。

  1. 1「人件費高騰」の倒産が急増、人手不足が深刻に 2024年の「人手不足」倒産 過去最多の289件、東京商工リサーチ、2025年2月3日
  2. 2『未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる』リクルートワークス研究所、2023年3月28日
  3. 3『AI経済の勝者』アジェイ・アグラワル他、早川書房、2024年
  4. 4Kunal Handa 他、“Which Economic Tasks are Performed with AI? Evidence from Millions of Claude Conversations” 2025年
  5. 5職業の複雑度という視点では、例えば長松奈美江、阪口祐介、太郎丸博『仕事の複雑性スコアの構成 ―職務内容を反映した職業指標の提案―』、理論と方法、2009, Vol.24などが職業別の複雑度についてスコア化している。

プロフィール

  • 森 健のポートレート

    森 健

    未来創発センター 未来社会・経済研究室長

    慶應義塾大学経済学部卒。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)にて修士課程(経済学)、一橋ビジネススクールにて博士課程(経営学)を修了。
    専門はデジタルエコノミーなど、経済と技術の相互関係を踏まえた未来洞察。
    2012年から2018年には、野村マネジメント・スクールにて「トップのための経営戦略講座」、「女性リーダーのための経営戦略講座」のプログラム・ディレクターを務める。
    主な著書に、『デジタル資本主義』(2019年大川出版賞受賞)、『デジタル国富論』、『デジタル増価革命』(いずれも東洋経済新報社、編著)がある。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。