AI利用は国ごとに文化や制度、主要企業のAI技術開発の程度によって、その浸透度合いに違いが生じてくる。例えば、AI分野の先進国であるアメリカはOpenAIやGoogleなど主要企業を抱え、AI技術の研究開発で世界をリードしており、また資本主義として市場原理が上手く作用し、商業化・民間利用の先進事例が多い。また中国は国家戦略としてAI開発を推進し、行政・社会インフラにも広範にAIを導入しており、政府主導の管理体制が敷かれている中で、国民のデータ利用に対する認識や受容性も独特であると考えられる。また欧州各国もAI利用は盛んであるが、中でもドイツは経済大国であり、製造業やインダストリー4.0の文脈でAI活用が進んでおり、EUにおける厳格なAI規制(AI Act)の枠組みの中でAI利用が浸透している国である。
そこで野村総合研究所は、日本におけるAI利用の現状をこれら諸外国と比較し現在の立ち位置を確認すること、および今後日本におけるAI利用が浸透した際の生活者像を考察するため、2025年9月に日本・アメリカ・中国・ドイツを対象としたアンケート調査を行った。なお、中国に関してはインターネット調査の特性上、北京市・上海市・広州市・大連市・南京市・ハルビン市・西安市・成都市居住の人に回答頂いているため、比較的都市に住んでいる人の回答が多いことに留意してもらいたい。
AI利用状況では中国が突出、日本はAI利用が遅れている
まず、生成AIの利用頻度を見ると、「月に数回以上」使う割合は中国が約86%と突出して高く、アメリカとドイツはともに6割弱、日本は約35%にとどまる。この差は、職場環境における導入のスピード、言語最適化されたツールの充実度、教育・業務プロセスへの組み込み度合いなど、複数の要因が重なって生じていると考えられ、結果として中国では日常的な道具として広くしているものと考えられる。
図1 生成AIの利用頻度

出所)NRI「AI利用に関する国際比較調査」2025年
有料版のサービス利用率も国ごとの差が大きい。中国では65%が有料版を利用しており、アメリカは39%、ドイツは32%、日本は15%で最も低い。中国における有料版の利用の高さには、国外サービスへのアクセス制限が影響していると言われる。まず、ChatGPTなど海外の無料版に中国本土からアクセスしづらい事情がある。また、中国の大手(Baidu、Alibaba、ByteDance、iFlytekなど)は無料版の利用範囲を意図的に絞り、速度、トークン量、先進機能などで有料版を明確に優位化している。無料版では業務利用に耐えにくい仕様が多いため、結果として有料版の利用比率が高くなる構図となっている。一方、日本は企業におけるAI導入の判断や情報セキュリティの審査に時間がかかることが一般的であり、費用対効果の面で導入判断の厳しさなどが重なり、有料版の普及が遅れている。また無料版でも日常的な問い合わせや要約には十分という認識があることも、有料版利用率が低いことにつながっている。
生成AIの主な利用目的を見ると、仕事で使う割合は日本47.6%、アメリカ48.4%、ドイツ46.1%に対し、中国は66.4%と際立って高い。中国で仕事に生成AIをよく使う背景には、いくつかの要因がある。まずは企業のデジタル化投資が活発で、RPAやクラウド、社内ポータルと生成AIの組み合わせが進んでいることや、中国語向けに最適化されたモデルや専用ツールが豊富で、検索・資料作成・翻訳・コード補助まで一連の業務が一本化されやすいことが挙げられる。また、SaaSの価格競争とAPI供給が旺盛で、システムへの組み込みコストが比較的低いことだけでなく、業務効率やKPI改善に直結する成果が明確に示されやすいことも、組織的な導入がトップダウンで進みやすい要因と考えられる。
アメリカ・ドイツではAIに対する不信者も多い
AIへの信頼度について、「AIの判断・提案をどの程度信頼するか」を1点(全く信頼していない)から10点(完全に信頼している)で尋ねたところ、平均は日本5.1点、アメリカ5.2点、ドイツ5.2点に対し、中国は7.6点と高い。アメリカとドイツでは「全く信頼していない」と回答した層が1割を超えており、評価の二極化が見られる。米欧で信頼が割れる背景としては、後述するようにプライバシー・著作権・偏り(バイアス)・説明責任への強い関心と、規制の議論が社会的に盛んに行われる傾向にあることが挙げられる。専門職やクリエイティブ領域では、生成物の品質や法的リスクに対する懸念が根強く、慎重派が一定数いる。一方で、エンジニアやデータ職では生産性向上効果が明確なため、積極活用層が厚くなる。結果として、職種・関心領域・価値観によって評価が分かれやすい構造になっている。
図2 AIに対する信頼度

出所)NRI「AI利用に関する国際比較調査」2025年
規制の面では、アメリカではAI開発は基本的に"自由競争"が前提であり、OpenAIやAnthropicなど、多くの生成AIスタートアップが台頭しており、政府の関与は最小限に抑えられている。一方で、2023年にはバイデン政権が「AIに関する大統領令」を出し、"セキュリティ・倫理・差別"などに対する自主ガイドラインの強化を促している。また、EU(ドイツ含む)では2024年に「欧州(EU)AI規制法」が可決され、世界で初めて包括的なAI法が誕生した。この法律では利用用途ごとにリスクを評価するスタイルをとっている。例えば、医療や公共インフラは高リスクと判断し厳格に規制、画像生成など創作系は中リスクと判断し柔軟に運用することとしている。迷惑フィルターやチャットボットなどは低リスクとして制限なく使用できるとして整理されている。しかし、AI利用に対するガイドラインや規制が整っていても、例えばアメリカでは2024年の大統領選挙などを通じて、AIで作成されたディープフェイク画像や音声、偽情報が氾濫したことからも、AI利用の実態は個人の使い方に依存し、そのことからアメリカやドイツではAIへの信頼度が低い人が一定数存在するものと想定される。
また「以下の人やモノがAI・ロボットに置き換わった場合、どれぐらい利用したいと思うか」という設問では、4か国とも「子ども」や「配偶者・恋人」の置換は「許容できない」と答えた割合が高かった。次いで「裁判官」や「政治家」など権限と責任の重い役割でも、慎重な姿勢が強い。人間の関係性や倫理的判断、公共の意思決定は、AIの効率や正確性だけでは代替しがたいという考えが各国で共通している。一方で、中国はほぼすべての項目で「無条件で利用したい」の割合が相対的に高く、AIやロボットへの置換に対する受容性が顕著に高い。効率性への期待、生活サービス領域での実用的な成功体験、行政・企業によるデジタル施策の浸透が、前向きな態度を支えているとみられる。
産業のAIトランスフォーメーションに対する生活者受容性
知的資産2026年1月号の特集「産業のAIトランスフォーメーション」(https://www.nri.com/jp/knowledge/publication/chitekishisan_202601/index.html)では各産業におけるAIの影響について論じた。NRIでは、様々な産業におけるAI活用の萌芽事例を収集し、AIが産業に及ぼす影響について研究を進めている。なかでも、活用が進んでいる製造業、流通業、通信業、ヘルスケア、公共サービスについて、それらの産業がAIによってどう変化するか変化するかを、AI1.0,AI2.0、AI3.0の3つのAI化フェーズに分けて整理した。
| AI 1.0 | 業務高度化フェーズ | 個別業務の効率化や高速化にAIを活用する段階 |
| AI 2.0 | 業界再定義フェーズ | 業務プロセスや組織構造がAIによって変化する段階 |
| AI 3.0 | 社会変革フェーズ | 3DプリンターやXRなど他技術の進化とAIが融合して社会を一変させる段階。SFシナリオ。 |
本章では各産業におけるAIトランスフォーメンションの具体像を整理するとともに、アンケート調査から得られた生活者の受容性について紹介する。調査ではそれぞれの分野において、項目の数は異なるが概ね上から順にフェーズ1.0からフェーズ3.0におけるAI化フェーズを下記のように整理した。
図3 各産業分野におけるフェーズ別のAIトランスフォーメーション内容

日本ではコミュニケーションやリアルの買い物行動がAIに置き換わるのに抵抗感が強い
本稿では「AI受容性」を、各産業分野のAI化フェーズの内容に対して「好ましい」「やや好ましい」「やや好ましくない」「好ましくない」に分け、前者2つの割合が高い場合は「AI受容性を高い」とし、後者2つの割合が高い場合には「AI受容性が低い」とする。
日本においてはAIトランスフォーメーションの内容によりその受容性は41.5%から76.7%までと幅が広い。AI受容性が低いのは「SNS上での他者とのやりとりや、インターネット上のコンテンツを楽しむ代わりに、パーソナルAIとの対話を楽しむようになる」(41.5%)や「店舗での会話はAIアバターと行うことが一般化し、ARグラスおよびバーチャル棚で商品を確認」(49.0%)であり、人とのコミュニケーションやリアルの買い物行動がAIに置き換わってしまうことに対する抵抗感は強い様子が伺える。
流通分野ではフェーズ1.0に該当する「“待ち時間の少なさ・お得さ・手軽さ”等の魅力があるAI店舗が登場する」は受容性が高い(76.7%)が、AI化フェーズが進むほど受容性が下がる傾向がある。一方で、ヘルスケア分野ではフェーズ1.0に該当する「AIによる創薬やアバタードクターが普及し、医療現場でAIがサポートする」が比較的低い(59.3%)のに対し、フェーズ2.0に該当する「AIによる疾病予測に基づく予防医療や遺伝子治療を享受できるようになる」が高い(69.1%)など、AI化フェーズが進んだ方が受容性が高まる分野も見られた。流通分野や行政分野では、利便性が高まることに対するAI受容性が高く、それがフェーズ1.0で実現されるが、フェーズ3.0のようにリアルな行動が代替されてしまったり、AIが法令の改廃に関わるということには抵抗感を感じる人が多いように思える。一方でヘルスケア分野ではフェーズ1.0の方が受容性が低い傾向が見られたが、これはフェーズ1.0のように現実的なシチュエーションという場では自身の治療というものに直接AIが関わることのリアルさに抵抗を感じるが、AIによる予防医療や遺伝子治療などの近未来的な要素は実感が沸きにくく、抵抗感も高く出なかったのではないかと考えられる。
図4 産業のAIトランスフォーメーションに対する生活者受容性(日本)

出所)NRI「AI利用に関する国際比較調査」2025年
また、このAI受容性は生活者の生成AI利用頻度の程度によって異なることが分かっている。具体的には図1で示した「生成AIの利用頻度」の結果に基づいて、AI利用頻度の高・低を定義すると、図4におけるAI受容性(「好ましい」+「やや好ましい」の計)はAI利用頻度の高い人の方が受容性も高くなる結果が得られた。またこの傾向は程度の差はあるが、どのAIトランスフォーメーションの内容においても同様の傾向が得られている。つまり、各産業分野のAI化フェーズに対する受容性は、生活者のAI利用浸透度合いによっても変化するため、どの分野のどのフェーズのAI化が生活者にとって受け入れられやすいのかを適切に把握するためには、今後の生活者におけるAIの浸透に伴いウォッチしていくことが求められる。
調査概要

プロフィール
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林 裕之のポートレート 林 裕之
マーケティング戦略コンサルティング部
外資系コンサルティングファームを経て、2015年にNRIに入社。同年から「生活者1万人アンケート調査」に関わり、2018年より取りまとめ役に。
子供の頃の夢は科学者になることで、大学ではプラズマ物理を研究。しかし、マーケティングや生活者研究に興味を持つようになり、コンサルティング業界に進んだ。
今の仕事を通じて社会に恩返しをすることが、日々の原動力となっている。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。