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「現代のAIデータセンター」は「1990年代の光ファイバー網」への投資を想起させる

100兆円以上と一国のGDPにも匹敵する投資規模は過去にもあっただろうか。思い当たるのが1990年代の光ファイバー網への投資である。当時の状況はドットコムバブルと呼ばれ、インターネット利用者が100日で倍増するとの見通しのもと、光ファイバー網への投資が過熱した。ところが実際にはインターネット利用者の増加ペースは想定に及ばず、敷設された光ファイバーの5%未満しか使用されず供給過剰に陥った。多くが未使用のまま遊休しており、光が通っていない様子からダークファイバーと呼ばれ、投資に関わった企業の負債を累積すると当時の為替で100兆円以上と言われている1

ただしこれらのダークファイバーも長い目で見ると有効活用されている。一時的に供給過剰に陥ったことで、二束三文で光ファイバー網が売り渡されたことでかえって膨大な通信インフラが低価格で提供可能となり、後のモバイルインターネットの普及を支えるインフラとして活用されたのだ。現在利用されているYouTubeやNetflixといった大容量の動画ストリーミングサービスやAWSのようなクラウドサービスは先人たちの遺産を底値で利用することで成立した。

光ファイバー投資とデータセンター投資の違いについて量的な観点と質的な観点で考察してみたい。まず量的な観点として供給過剰か供給過少か、という点についてであるが、世界最大のデータセンター市場である北米で空室率が過去最低水準にまで低下していることや事業者が電力網に接続するまでの平均待ち時間が4年超となっていることを鑑みると現在のデータセンターは供給過少にあり、光ファイバーが一時的な供給過剰に陥っていた状況とは対照的と言える。

一方で質的な観点については光ファイバー網への投資と異なりデータセンター投資はイノベーションによって価値が減価する可能性がある。データセンターの建物、土地、電力網といったインフラ部分の価値は減価しにくい一方でその中のチップの価値は技術革新で急速に低下する可能性があり、現在主流であるLLMが今後も主流であり続ける保証がない。実際に米国の認知科学者のゲイリー・マーカス氏は光ファイバー網への投資については次世代のイノベーションの下地になったことから「建設的な資本の誤配分」であったとする一方で、現在のハイパースケーラーが行っているのは「価値が低下するチップに対する投資」のため回収が困難になる可能性を指摘している。

まとめるとデータセンターは現時点では供給過少ではあるものの、チップや主流となるモデルの技術革新によっては突如としてその状況が変わる可能性もゼロではない。例えば電力効率やセキュリティ、遅延性の観点から現在主流であるパブリッククラウド側で処理するAIではなく、デバイス側で処理するエッジAIが主流になるというシナリオも考えられるが、そうなるとデータセンターも供給過少ではなくなるだろう。

なお予定されているデータセンター建設計画は予定通りのペースでは進まないことも考えられる。筆者は2024年の「AIが拡張する6つの知力 | 知的資産創造 2025年1月号 | 野村総合研究所(NRI)」においてAIが機能するためのキーリソースとして「学習データ、半導体、電力、水」の4つを挙げたが、データセンター建設という観点でも半導体、電力、水の確保には不確実性を伴うと考えている。例えば過去にGoogleがウルグアイでデータセンター建設を計画した際には反発を受けている。ウルグアイでは干ばつが深刻で一部地域では塩分を含む“塩辛い水”を生活に使っている時期もあったことから大半が蒸発してしまう冷却水として水を大量消費することから反対されたのだ。また電力についても、地域の既存電力源だけでは不十分であることも多い。例えばグーグルはネクステラ・エナジーと2020年に閉鎖されたアイオワ州の原子力発電所を再稼働2について合意したが、スムーズに電源を確保できる地域ばかりではないだろう。

中長期的には次世代型のデータセンターとしてSpaceXが掲げる太陽光発電型データセンター衛星のような「宇宙データセンター」や、商船三井とキネティックステクノロジーズが手掛ける発電船を活用した「洋上データセンター」などの普及も考えられるが、当面は陸上で適切な地域を選んだ上でさらに電力の目途付けと周辺地域住民の理解を得るプロセスを経るはずだ。

ハイパースケーラーの投資による収益機会と地場企業の賃金上昇

ダークファイバーの歴史を鑑みるとメガテックにとって今回の投資はハイリスクハイリターンであり、投資回収は可能か、また計画通りに建設が進むか、という点が気になるものの、データセンター建設は半導体製造や設備製造業などの関連企業にとって着実な収益機会となっていることは確かである。象徴的なのはチップを販売するNVIDIAやキオクシアであろう。NVIDIAは2026年度決算では営業利益率が約64%(売上高が約2,159億ドル、営業利益は約1,304億ドル3)と驚異的な収益率となっている。日本でも2026年6月にフラッシュメモリとSSDの製造を行うキオクシアの時価総額が50兆円超となった。これは2024年2月に日本で初めてトヨタ自動車が時価総額50兆円超企業となった以来、2社目の到達点となる。

ハイパースケーラーによる巨額の投資に伴って半導体業界の他にも、電力業界、建設業界、部品製造業など周辺産業の経済活動も活性化している。例えば米国ではメタが約32.1兆円を投じルイジアナ州に「ハイペリオン」を建設するに伴い地元の電力会社であるエンタジー・ルイジアナは電力需要に対応すべくガス火力発電所10基を新設する計画で、メタが110億ドル(1.77兆円)の建設資金を提供予定である4。米国全体ではデータセンター建設地域と他地域では賃金に差も出始めており、電気技師や配管工などの建設に関連する職種の賃金において約7%程度のプレミアムが生じている5

AI時代にも“ツルハシやショベルを売る”企業が成長

1849年以降、カリフォルニア州では砂金をとるために多くの鉱夫が集まった。だが当時のゴールドラッシュで最も儲かったのは金の採掘業者ではなく、採掘業者にツルハシとシャベルを販売していたサミュエル・ブラナン氏、ジーンズを販売したリーヴァイ・ストラウス氏と言われている。既に一部の企業はAI時代の“ツルハシやショベルを売る”機会で成長しはじめている。日本で恩恵を受けているのもキオクシアだけはない。データセンターの建設、電力供給、オペレーションに伴う受配電・電力制御、冷却システム、バックアップ電源、熱・空気管理部品などの領域でも事業機会は拡大している。あまり知られていないがAI時代にツルハシやショベルを売ることで高収益・高成長を実現している企業も登場してきている。(図表3)。

出所)Speedaのデータを元にNRI作成

例えば「受電設備」領域では戸上電機製作所がデータセンターの消費電力急増に伴う高圧受電設備・配電盤・制御盤の新規敷設および老朽化更新需要を機会に成長している。データセンターの発熱を冷却するための「空調や冷却システム」では空調設備のエンジニアリングを行うテクノ菱和、外気冷房空調機や空冷ヒートポンプ式空調機を提供する木村工機、高効率な冷却・空調システム(液浸冷却、壁吹出し空調など)の設計・施工を行う高砂熱学工業、冷却・水処理インフラを手掛ける鶴見製作所などが需要を獲得している。大成建設はデータセンターの建設受託にとどまらず「液浸冷却システム」を自社開発することで冷却にかかる消費エネルギーを90%削減することで差別化を図っている。また、あまり知られていないがデータセンター建設時にサーバーラックや大型UPS等の精密機器を搬入するために大型エレベータを設置する必要がある。そこで機会を得ているのが守谷輸送機工業である。同社は荷物用エレベータで国内トップクラスのシェアであり堅牢性と大容量かつ精密な水平停止が求められるデータセンター建設拡大に伴う需要を獲得している。

総括

AIハイパースケーラーの今年の投資額は過去最大規模の100兆円以上となる見通しであり、その投資は主にデータセンターに向かっている。データセンターは現時点で供給過少であるものの、チップの価値が減価しやすい点と今後エッジAIが主流になるといった技術革新によっては需給バランスが一変するリスクもある。1990年代の“ダークファイバー”の歴史も踏まえるとハイパースケーラーは不確実性もある中でハイリスクハイリターンな投資を行っていると言える。現段階で最も確実に成長の恩恵を享受しているのは、ハイパースケーラー自身ではない。彼らにAI時代の“ツルハシやショベル”を提供する半導体、データセンター建設、電力供給、受配電・電力制御、液冷をはじめとする冷却システム、バックアップ電源、熱・空気管理部品などを手掛ける材料やインフラを提供する企業群であると言えるだろう。

  • 1 Techno-Statecraft 「Cisco, Nvidia, and the Economics of Tech Bubbles」(2025/11/22)
  • 2Reuters 「米アイオワ州の原発再稼働へ、グーグルに電力供給」(2025/10/28)
  • 3NVIDIA Japan「NVIDIA、2026 年会計年度第 4 四半期および通年の業績を発表」(2026/3/12)
  • 4meta 「メタが110億ドルでガス発電所10基を建設、単一AIキャンパスに7.5ギガワットの電力供給」(2026/04/14)
  • 5gusto Insights 「Skilled Trade Workers Are Earning More in America’s AI Data Center Hotspots」(2026/2/11)

プロフィール

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    土橋 和成

    未来社会・経済研究室

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