今月運営管理機関連絡協議会が公表した「確定拠出年金統計資料(2025年3月末)(注1)」および関連統計に基づき、企業の福利厚生および人的資本経営の観点から確定拠出年金(以下「DC」という)制度の利用状況を分析した。データからは、企業型DCを実施している事業所数が前年比12.1%増と高い伸びを示しており、中堅・中小企業層において導入が進展していることが確認された。また、事業主掛金も増加基調にあり、人材確保やインフレ対応を背景とした処遇改善の動きが見られる。一方で、従業員の自助努力を支援する「マッチング拠出」については、導入企業の割合が伸び悩んでおり、導入企業においても従業員の利用率も頭打ちとなっている。2026年度以降、マッチング拠出と個人型DC(iDeCo)の拠出限度額が一本化され、制度間の比較が容易になる中、企業には制度を導入するだけでなく、従業員の実質的な資産形成に資するよう、制度の有効活用を促す取り組みが求められている。
大企業から中堅・中小企業へ広がる導入の裾野
企業型DCの普及動向において、導入主体の変化が見られる。
「確定拠出年金統計資料」における実施事業所数は前年比12.1%増(約6,300社増)と増加しており、加入者数の伸び率(3.8%増)を大きく上回っている(図表1左図)。これは1事業所あたりの加入者数が減少傾向にあることを示しており、導入の中心が大企業から中堅・中小企業へとシフトしていることを裏付けている。
厚生労働省「就労条件総合調査」(2018年および2023年)を参照しても、この傾向は確認できる(図表1右図)。従業員1,000人以上の大企業における導入率の伸びが10.9%であるのに対し、300~999人規模では16.5%、30~99人規模では18.4%と、中堅・中小企業層においてより高い増加ペースが示されている。もっとも、2023年時点の導入率水準そのものは、大企業の47.3%に対し、300~999人で30.1%、100~299人で16.6%、30~99人に至っては7.3%と、企業規模が小さくなるほど低いのが現状である。
このように、中堅・中小企業ではDC導入率の水準こそ未だ低いものの、その増加ペースは大企業を上回っており、人材不足等を背景に中堅・中小企業における導入の動きが着実に加速していることを示唆している。
「確定拠出年金統計資料」における実施事業所数は前年比12.1%増(約6,300社増)と増加しており、加入者数の伸び率(3.8%増)を大きく上回っている(図表1左図)。これは1事業所あたりの加入者数が減少傾向にあることを示しており、導入の中心が大企業から中堅・中小企業へとシフトしていることを裏付けている。
厚生労働省「就労条件総合調査」(2018年および2023年)を参照しても、この傾向は確認できる(図表1右図)。従業員1,000人以上の大企業における導入率の伸びが10.9%であるのに対し、300~999人規模では16.5%、30~99人規模では18.4%と、中堅・中小企業層においてより高い増加ペースが示されている。もっとも、2023年時点の導入率水準そのものは、大企業の47.3%に対し、300~999人で30.1%、100~299人で16.6%、30~99人に至っては7.3%と、企業規模が小さくなるほど低いのが現状である。
このように、中堅・中小企業ではDC導入率の水準こそ未だ低いものの、その増加ペースは大企業を上回っており、人材不足等を背景に中堅・中小企業における導入の動きが着実に加速していることを示唆している。
図表1 企業型DCの導入状況


人材確保と物価対応を背景とした事業主掛金の増加
企業型DCでの導入企業の拡大に加え、企業による拠出額(事業主掛金)にも変化が生じている。
事業主掛金の平均額は、2024年度に月額1.35万円となり、前年度から増加した。この増加基調は2019年度頃から年率2~3%程度で継続している(図表2)。
この背景には、複合的な要因が推察される。第一に、構造的な要因として、人材確保・定着を目的とした退職給付水準の見直しがある。第二に、直近の要因として、物価上昇に対応するための賃上げ(ベースアップ)の影響がある。社会保険料負担を考慮しつつ、従業員の実質的な手取りを増やすための処遇改善策として、DC掛金の増額が選択されている可能性もある。企業が制度導入という枠組みの整備だけでなく、給付水準の向上に対しても資源を配分している状況がうかがえる。
事業主掛金の平均額は、2024年度に月額1.35万円となり、前年度から増加した。この増加基調は2019年度頃から年率2~3%程度で継続している(図表2)。
図表2 企業型DC加入者の1人あたり平均掛金額(月額)


この背景には、複合的な要因が推察される。第一に、構造的な要因として、人材確保・定着を目的とした退職給付水準の見直しがある。第二に、直近の要因として、物価上昇に対応するための賃上げ(ベースアップ)の影響がある。社会保険料負担を考慮しつつ、従業員の実質的な手取りを増やすための処遇改善策として、DC掛金の増額が選択されている可能性もある。企業が制度導入という枠組みの整備だけでなく、給付水準の向上に対しても資源を配分している状況がうかがえる。
制度環境整備の課題:マッチング拠出採用の伸び悩み
企業主体の取り組みが進む一方で、従業員の自助努力を可能にする環境整備には足踏みが見られる。全加入者における「マッチング拠出採用企業の割合(採用率)(注2)」は48.0%となり、2023年の50.0%をピークに横ばい、ないし若干の低下傾向にある。実施事業所数が急増している中で採用率が伸び悩んでいることは、新規にDCを導入する企業の多くがマッチング拠出制度を採用していないことを示唆している。事務負担の軽減や制度設計の簡素化を優先し、上乗せ拠出については個人のiDeCo利用に委ねる判断をする企業が増えているとも考えられる。しかし、給与天引きによる利便性や全額所得控除による節税効果といったマッチング拠出の利点を提供しないことは、福利厚生制度としての機能を限定的なものに留まらせる要因となり得る。
図表3 企業型DCにおけるマッチング拠出の採用率と利用率の推移


従業員利用率の頭打ちと資産形成支援の必要性
マッチング拠出制度の採用企業における従業員の利用状況を見ても、活性化しているとは言い難い。マッチング拠出制度がある企業の加入者のうち、実際に拠出を行っている人の割合(利用率)は34.1%であった。長期的には上昇傾向にあったものの、ここ数年は34%近辺で横ばい推移となっている。約6割以上の従業員が制度を利用していない現状は、企業による制度周知や投資教育が十分に行き届いていない可能性を示唆している。また、iDeCoやNISAとの併用が可能になったことで、従業員の選択肢が分散し、結果として企業型DC内での行動が停滞している側面もあると考えられる。
今後の展望:制度変更を見据えた企業の役割
2026年度以降、企業型DCのマッチング拠出とiDeCoの拠出限度額等のルールが一本化されることとなった。これにより、従業員は「会社のマッチング拠出」と「個人のiDeCo」を、対等な条件で比較・選択することになる。その際、勤務先のマッチング拠出の利便性や商品ラインナップがiDeCoに見劣りする場合、従業員がiDeCoを選択する動きが加速する可能性がある。それは、企業がコストを負担して運営している企業型DCが、従業員から十分に活用されない制度となるリスクを意味する。企業の制度担当者においては、採用率や利用率の停滞を課題として認識し、2026年の制度変更を見据えて、マッチング拠出の周知徹底や運営管理機関へのサービス改善要求を行うなど、従業員の資産形成を実効的に支援する取り組みが求められる。
(注1)厚生労働省のWebサイトに掲載されている。
(注2)正確には、マッチング拠出採用企業の加入者の割合である。
(注1)厚生労働省のWebサイトに掲載されている。
(注2)正確には、マッチング拠出採用企業の加入者の割合である。
プロフィール
-
金子 久のポートレート 金子 久
金融イノベーション研究部
1988年入社、システムサイエンス部及び投資調査部にて株式の定量分析を担当。1995年より投資情報サービスの企画及び営業を担当。2000年より投資信託の評価やマーケット分析のためのデータベース構築、日本の資産運用ビジネスに関する調査、個人向け資産形成支援税制、投信に関する規制などを担当。その間2005年から1年間、野村ホールディングス経営企画部に出向し、アセットマネジメント部門の販路政策などを担当。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。