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近年、新NISA制度の導入等を背景に個人の資産形成への関心が高まっている。しかし、この3月に公表された「金融リテラシー調査(2025年)」の時系列データや分野別データを詳細に確認すると、全体の正答率は低下傾向にあり、とくに若年・中年層における特定の基礎分野での低下が顕著となっている。また、客観的な知識レベルと本人の自己評価との間には乖離(ギャップ)が見られ、その背景には、個人が自身の金融知識を評価する際、投資や経済の知識ばかりを重視するといった評価基準の偏りが存在することが統計的アプローチから示唆された。

本コラムでは、調査データが示す4つの客観的なファクトを提示するとともに、今後の金融経済教育および金融ビジネスに向けた示唆として、投資手法や経済動向の知識提供にとどまらず、自身の知識の偏りを客観的に認識させる働きかけや、「家計管理」「生活設計」といった基礎分野の知識定着を促すアプローチが不可欠であることを提起する。 

なお、本コラムで取り上げる「金融リテラシー調査(2025年)」は、金融経済教育推進機構(J-FLEC)が2026年3月27日に公表したものであり、18~79歳の個人30,000人を対象に個人の金融リテラシー(お金の知識・判断力)の現状を把握するため、2016年から3年ごとに実施されている大規模な定点観測データである。コラム内で用いている「継続24問に関する時系列・年代別・分野別の詳細データ」、および「自己評価と正答率の重回帰分析結果」は、金融経済教育推進機構の公開資料等に基づき、独自に集計・分析したものである。

1. 金融リテラシー問題の正答率は2019年をピークに低下傾向

2025年調査における正誤問題全体の正答率は53.8%となり、前回(2022年)の55.7%から1.9ポイント低下した。 この傾向をより正確に把握するため、今回の調査によって一部変更された設問(生活設計に関する1問)(注1)を除外し、2016年から継続して出題されている「24問」の正答率に注目して時系列推移を確認する(図表1参照)。継続24問の正答率は、2016年が56.0%、2019年が57.0%と推移した後、2022年には56.1%(前回比マイナス0.9ポイント)、そして今回の2025年には53.4%(同マイナス2.6ポイント)となった。この結果から、正答率は2019年をピークとして低下傾向に転じており、直近3年間で低下幅が拡大していることが確認できる(注2)。
 
図表1 正誤問題の正答率の時系列推移(2016~2025年)

2. 正答率の低下は50代以下の年齢層で顕著

時系列での正答率の低下を年代別に比較すると、世代間によって傾向が異なることがわかる。継続24問の正答率について2019年と2025年を比較した結果、正答率の低下は主に50代以下の年齢層で顕著に見られた(図表2参照)。 具体的には、30代の低下幅が最も大きく(マイナス6.5ポイント)、次いで40代(マイナス5.6ポイント)、50代(マイナス5.0ポイント)、18-29歳(マイナス4.1ポイント)となっている。一方で、60代の低下幅はマイナス2.2ポイントにとどまっており、70代に関してはプラス0.5ポイントと微増している。このように、ライフイベントを控えて資産形成を行う人の割合が高まっている現役世代において、客観的な知識水準の低下が進んでいる状況がデータから読み取れる。
 
図表2 正誤問題(継続24問)の年代別正答率(2019年対2025年の比較)

3. 正答率低下の要因は「家計管理」や「生活設計」などの基礎分野

全体の正答率を押し下げている要因を特定するため、金融庁の研究会が最低限身に付けるべき金融リテラシーを体系的にまとめた「金融リテラシー・マップ(注3)」の8分野ごとの正答率の変化を確認する。 継続24問の分野別正答率(2019年対2025年)を比較すると、「金融・経済の基礎(マイナス0.8ポイント)」や「資産形成(マイナス1.9ポイント)」といったマクロ経済や投資に関する分野の低下幅は相対的に小幅にとどまっている(図表3参照)。 一方で、「生活設計(マイナス6.3ポイント)」、「ローン・クレジット(マイナス6.2ポイント)」、「家計管理(マイナス5.5ポイント)」といった分野において、正答率の明確な低下が確認された。このことから、昨今の投資への関心の高まりを背景に「資産形成」関連の知識は一定水準が保たれているものの、その前提となる日常的な金銭管理や負債に関する基礎的な知識が低下していることが示唆される。
 
図表3 正誤問題(継続24問)の分野別正答率(2019年対2025年の比較)

4. 回帰分析が示唆する自己評価の歪み

J-FLECの調査では、客観的な正誤問題の正答率と、回答者が主観的に認識している自己評価の差を「金融リテラシーギャップ」と定義している。自己評価が客観的評価を上回る(ギャップのマイナス幅が大きい)層においては、金融トラブル経験者の割合が高い傾向があることも報告されている。
 
この自己評価と客観的評価の乖離がなぜ生じるのかを検証するため、個人の詳細な回答結果(個票データ)を用いたミクロ分析に代わり、公開されている2025年調査の「都道府県別集計データ」を用いた統計分析を実施した。各都道府県には、分野ごとの正答率や自己評価スコアに地域差(ばらつき)が存在する。この地域ごとのばらつきを利用し、「どの分野の正答率が高い地域ほど、自己評価が高くなりやすいのか」を確認することで、自己評価を押し上げやすい知識分野のマクロ的な傾向が確認できる。 具体的には、「自己評価のスコア」を目的変数とし、8つの「分野ごとの正答率」を説明変数とする重回帰分析(回答者数による重み付き最小二乗法)を行った。
 
分析の結果、都道府県別の自己評価のばらつきの約6割をこの8分野の正答率で説明できることが確認された(決定係数 R²=0.606)。各分野の影響をみると、都道府県レベルの自己評価スコアに統計的に有意な正の影響を与えていたのは「金融・経済の基礎(1%水準で有意)」および「資産形成(10%水準で有意)」の2分野のみであった。とりわけ「金融・経済の基礎」は偏回帰係数が0.477と突出して大きく、自己評価を形成する上で極めて高いウエイトを占めていることが示された。対照的に、「家計管理」や「ローン・クレジット」などの分野については、統計的に有意な影響が見られなかった(いずれも10%水準で有意ではない)。
 
この結果は、個人が自身の金融知識を評価する際、「経済や投資に関する知識があること」を高く評価基準に組み込む一方で、「家計管理やローンの知識」については評価の判断材料としてほとんど反映していない可能性を示唆している(注4)。結果として、基礎分野の実力が低下していても自己評価が下がりにくく、主観と客観のギャップが維持・拡大されやすい構造の存在が推察される。
 
図表4 自己評価に対する各分野の影響度(都道府県別データに基づく重回帰分析結果)

5. 政策的示唆

本調査データおよび分析結果から、現在の日本の現役世代において、資産形成等の知識は維持されている一方で、家計管理や生活設計といった基礎的な金融リテラシーが低下傾向にあることが確認された。さらに、都道府県別データの分析からは、個人が自己の金融知識を評価する際に基礎分野が軽視されやすい構造があることも統計的に示唆されている。自己評価が先行し客観的な知識が伴っていない状態は、想定外の金融トラブルや過度な負債を抱えるリスクを高める要因となり得る。今後の金融経済教育および金融ビジネスにおいては、投資手法や経済動向の提供にとどまらず、自身の知識の偏りを客観的に認識させる働きかけや、「家計管理」「生活設計」といった基礎分野の知識定着を促すアプローチを並行して進めることが求められる(注5)。土台となるリテラシーの再構築は、安定した資産形成を促進し、金融トラブルを未然に防ぐ観点からも不可欠な課題であると言える。
 
参考 金融リテラシー調査(2025年)における正誤問題
 

(注1)2025年調査では、それまでの「人生の3大費用」に関する設問が「生活設計(ライフプランニング)」に関する設問に変更されている。それ以外の24問については、2016年の初回調査から表現の微修正が行われているものの、設問内容に大きな変更はない。

(注2)なお、全体の平均正答率が低下している背景として、金融リテラシーの「二極化」の進行を指摘する見方もある。アセットマネジメントOne未来をはぐくむ研究所の分析(坂内卓「【調査を読み解くシリーズ】金融リテラシーは二極化が進んでいるのか?|金融リテラシー調査(2025年)より①」)によれば、得点分布の時系列推移において中間層(41~80点)が減少する一方で、低得点層(0~20点)の割合が大きく増加しており、これが全体の平均を押し下げる一因となっていると指摘されている。

(注3)「金融リテラシー・マップ」は金融庁が設置した金融経済教育研究会によって、2013年4月に取りまとめられ、その後、金融経済教育推進会議(事務局:金融経済教育推進機構(J-FLEC))によって2023年6月に改定されている。

(注4)ただし、本分析は個票データではなく都道府県別の平均値等を集計したマクロデータに基づいているため、集団レベルの傾向がそのまま個人の思考構造に当てはまるとは限らない(生態学的錯誤の可能性がある)点には留意が必要である。

(注5)なお、昨今の投資知識への偏重に対する警鐘や、「家計管理」や「生活設計」を基盤として「金融リテラシー・マップ」に沿った体系的な学びを進める必要性については、第一ライフ資産運用経済研究所のレポート(鄭美沙「改めて、金融リテラシーとは何か~金融リテラシー・マップにもとづく体系的な学びの推進~」2026年3月6日)などでも同様の指摘が行われている。また同レポートが引用している金融庁「金融経済教育研究会」報告書(2013年)においても、一人の社会人として経済的に自立し、より良い暮らしを送っていく上で、最も基本となるのが「家計管理」と「生活設計」の習慣であると位置付けられている。

プロフィール

  • 金子 久のポートレート

    金子 久

    金融イノベーション研究部

    

    1988年入社、システムサイエンス部及び投資調査部にて株式の定量分析を担当。1995年より投資情報サービスの企画及び営業を担当。2000年より投資信託の評価やマーケット分析のためのデータベース構築、日本の資産運用ビジネスに関する調査、個人向け資産形成支援税制、投信に関する規制などを担当。その間2005年から1年間、野村ホールディングス経営企画部に出向し、アセットマネジメント部門の販路政策などを担当。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。