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BISのレポートが示す中銀デジタル通貨発行への姿勢

1月21日に、日本銀行を含む6つの中央銀行(カナダ銀行、イングランド銀行、日本銀行、欧州中央銀行、スウェーデン・リクスバンク、スイス国民銀行)と国際決済銀行(BIS)が、中銀デジタル通貨(CBDC)の活用可能性を評価するためのグループを設立することを明らかにした。しかし、このグループの創設が、直ちに各中央銀行が足並みを揃えて中銀デジタル通貨を発行することを意味するものではないということは、本コラムで既に指摘した(「 主要中央銀行が中銀デジタル通貨の知見の共有で連携」、2020年1月22日 )。中銀デジタル通貨発行に向けた姿勢、検討の進展段階、あるいは発行の目的などについては、グループ内の各中央銀行はばらばらの状況にある。

しかしながら、世界全体を見渡すと、中央銀行が中銀デジタル通貨の発行により前向きになってきていることは明らかだろう。それを裏付けているのが、最新のBISのレポート(Impending arrival - a sequel to the survey on central bank digital currency)である。

このレポートは、BISが世界の66の主要中央銀行に対するサーベイ調査をまとめたものだ。調査対象となった66の中央銀行は、世界全体の人口の75%、GDPの90%をカバーしている。66の中央銀行のうち、21が先進国・地域、45が新興国である。

2割の中央銀行は3年以内に発行する可能性を見込む

同調査によれば、中銀デジタル通貨に関連する業務に携わっていると回答した中央銀行は、2017年調査の65%、2018年の70%超から、2019年には80%超へと急速に高まっている。

全体の約40%の中央銀行は、中銀デジタル通貨に関する純粋な調査の段階から、既に実験や概念実証の段階へと進んでいる。さらに約10%の中央銀行は、既に開発、試験を行っているという。

中銀デジタル通貨を発行する狙いについての回答率で、先進国・地域の中央銀行、新興国の中央銀行ともに同程度の高い水準で並んでいるのは、「金融の安定」、「決済の安全性・頑健性」である。他方で、「金融政策の効果を高める」、「金融包摂」、「国内決済の効率性」という狙いについては、新興国の中央銀行の回答率がより高くなっている。

今後の中銀デジタル通貨の発行の見通しについて聞くと、1~3年という短期では、中銀デジタル通貨を発行する可能性が高い(likely)、あるいは可能性がある(possible)との回答は20%強となっている。中央銀行の5つに1つは、短期のうちに中銀デジタル通貨を発行する可能性を見込んでいるのである。1~6年という中期では、この回答比率は40%弱にまで高まる。

新興国の中央銀行は金融包摂の観点からより前向き

調査全体を見ると、世界の中央銀行は中銀デジタル通貨の発行について、前向きの姿勢を徐々に強めていることが確認できる。先進国・地域の中央銀行よりも新興国の中央銀行の方が明らかに前向きである。

それは、銀行口座を持たない人(アンバンクト)の割合が、新興国の方が高いことも関係しているのではないか。民間デジタル通貨の利用が広がり、現金が減少する中、銀行口座を持たずに主に現金で支払いをしてきた人等が困らないように、中銀デジタル通貨の発行で救済するという、金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)を促す必要性が、新興国ではより高いのである。

BISのこの調査では、回答した中央銀行を明らかにしていないが、レポートの中ではケーススタディとして、バハマと東カリブ諸国機構の2つの中央銀行が取り上げられている。今後は中国を皮切りに、新興国での中銀デジタル通貨の発行が相次ぐ展開となるかもしれない。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。