パンデミック緊急資産買入れプログラムの拡充へ
4月27日に、日本銀行がCP・社債の買入れ拡大、金融支援特別オペの拡充などの追加緩和措置を決めたことで、金融市場の関心は今週の米連邦公開市場委員会(FOMC)と欧州中央銀行(ECB)の理事会へと移っている。ECBは30日(木)に理事会を開く。新型コロナウイルス対策のため、日本銀行は、当初2日の予定であった金融政策決定会合を1日に短縮したが、ECBは、今回初めて電話会議で理事会を開く。
ECBの理事会でも、追加緩和措置が発表される可能性がある。ECBは先月開始したパンデミック緊急資産買入れプログラム(PEPP)で、7,500億ユーロを上限に資産の買入れを実施している。今回の理事会では、資産買入れ上限の引き上げが実施される可能性がある。現在のペースで資産買入れを続ければ、9月までに買入れ残高上限に達する計算となるからだ。そのため、仮に今回の理事会で決めないとしても、早晩、1兆ドルなどへ資産買入れ上限の引き上げを決める可能性は高い。
堕天使(Fallen Angel)の問題への対応
それ以外に、今回の理事会で実施される可能性がある追加緩和策は、PEPPの枠組みの中で、投機的格付けのハイイールド債(ジャンク債)を新たに買入れることである。FRBも、ハイイールド債の中で最も高い格付けであるBB格社債を新規に買入れることを、既に決定している。
欧米の当局が特に関心を持っているのは、投資適格の中で最も低い格付けであるBBB格の社債が、企業の信用力の低下と共に投機的格付けであるBB格のハイイールド債に1段階格下げされる、という堕天使(Fallen Angel)の問題である(当コラム、「 堕天使(Fallen Angel)に怯える米社債市場 」、2020年4月9日)。
近年の欧米市場では、投資適格でありながら利回りが比較的高いBB格社債に投資家の需要が高まり、その発行が増加した。それが格下げされて堕天使債となることで、ハイイールド債市場の混乱が助長されているのが現状である。
欧州でのハイイールド債の平均利回りは、2月までは2%台で推移していたが、市場が大きく動揺した3月には8%を上回り、現在でも6%程度と、なお高い水準にある。
ECBがBB格社債を新たに買入れ対象に加えれば、ハイイールド債市場を安定化させ、企業の資金調達やハイイールド債に投資する投資ファンド等金融機関の経営を安定化させることに貢献するだろう。
PEPPの枠組みで、ハイイールド債を買入れ対象に加える措置は、仮に今回の理事会ではなくても、近い将来、決定されるだろう。
"the only game in town"の状況に
ハイイールド債市場の動揺に加えて、経済・財政の悪化を背景に利回りが高止まりしているイタリア国債も、ECBにとっては頭の痛い問題である。注目されていた23日のEU首脳会議でも、イタリア国債の安定につながる復興基金の財源について、コロナ債(欧州共同債)の発行などの具体策で、各国が合意することはできなかった。
翌24日に米格付け大手S&Pグローバル・レーティングは、イタリア国債の格付けを「トリプルB」に据え置くと発表した。事前には、投機的格付けへの格下げも一部に予想されていた。
S&Pは格付けの据え置きを決めた理由を「政府債務は拡大するが、ECBの資産の買い入れに支えられるため」と説明している。格付けの変更の判断を、信用力とは関わりのない、いわば需給要因に求めたことには違和感がある。
しかしいずれにせよ、財政面での支援の枠組みがなかなか決まらない中、イタリア国債の命運もECBによりかかってきた感が強い。実際、PEPPの枠組みで、ECBはイタリアとスペインの国債を既に大量に買入れているのである。
ECBがハイイールド債を新たに買入れ対象に加えれば、イタリア国債と同様に、社債の格下げの流れを食い止めることになるのかもしれない。ECB以外に対応できる手段がないからECBがやらざるを得ないという、まさに"the only game in town"の状況が続いている。
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