2020年度第2次補正予算に大企業救済スキーム
5月下旬にも編成される2020年度第2次補正予算に、政府系金融機関を通じて資本性の資金を投入する、大企業救済スキームが盛り込まれる方向となったことを、複数メディアが報じている。
新型コロナウイルス問題で売上が大きく減少した大企業の間では、銀行からの融資枠(コミットメントライン)を設定することで、将来の資金繰りを維持する動きが急速に広がっている(コラム「 増加する大手企業のコミットメントライン要請 」、2020年4月13日)。更に、民間銀行からだけでは十分な資金の調達ができない信用力が低下した企業では、国による実質的な保証を受け政策金融機関である政策投資銀行が資金供給を行う「危機対応業務」の制度を利用して、事実上の政府の信用保証に頼る動きも、航空業界、自動車業界などで見られ始めてきた。
しかし、新規の借り入れを増やすことで、当面の資金繰りは維持できても、売上が回復する目途が立たなければ、債務が増えるだけである。企業の財務体質は悪化し、事業の継続も危ぶまれる状況になってしまう。
そこで事態が悪化した企業が選択する次のステージは、資本性の資金を受け入れるということになる。それを助けようとするのが、今回の政府による大企業救済スキームだ。政府の対策は、中小・零細企業に対する実質無利子・無担保融資と給付金、中堅企業に対する総額1兆円の資本投入の枠組みから、大企業救済へと広がってきたのである(コラム「 日本も大企業救済の局面に入っていくか 」、2020年4月2日)。
まずは劣後ローン、その後に優先株か
大企業救済スキームの詳細はまだ固まっていないだろうが、政策投資銀行、産業革新機構(JIC)が企業に対して劣後ローンを行うことが検討されているという。劣後ローンによる資金調達は資本の増強に近いことから、企業は格付け機関からの評価を高めることができるようになる。また企業の財務の健全性が高まることで、民間銀行から通常融資を受けやすくもなる。
このように劣後ローンは、救済される企業にとっては比較的受け入れやすいものだ。政策投資銀行の「危機対応業務」という制度の延長線上でもある。
これと比較すると、政府から議決権のない優先株での出資を受け入れることには、企業側の抵抗は概して強いだろう。それは、優先株がいずれ普通株に転換されることで、政府からの強い経営関与を受けるようになることを警戒するためだ。その場合には、経営責任もより問われやすくなる。
一種の早期警戒スキームか
しかし、資本不足などが深刻となれば、企業は政府から優先株での資金注入を受け入れざるを得なくなる。従って、企業経営の問題の程度に応じて、劣後ローンから優先株へと、救済のステージが高められていく枠組みとなるのかもしれない。
政府から救済を受け入れることが企業の評判を下げてしまうこと、いわゆるスティグマ(烙印)の問題を怖れる企業は、こうした公的救済を受け入れることに躊躇するだろう。しかし、その結果企業の破綻が防げなくなれば、経済・社会に大きな問題を生じさせる。
そこで、比較的多くの企業に少額での劣後ローンの受け入れを促したうえで、それらの企業群を政府がしっかりと監視し、問題のある企業を見つけたら、優先株でのより巨額な資金投入へと救済のステージを高めていくような狙いがあるのかもしれない。これは、一種の早期警戒スキームである。
世界で進む航空会社の公的救済
米国では、政府が航空会社に対し、従業員の給与として250億ドル(約2兆6千億円)以上を支援した。支援を受ける条件として、航空会社が自社株買いを実施することを禁じられると共に、ワラント(新株引き換え権)を政府に与えた。これは、将来、政府が株式を入手して経営に関与するという圧力を受け続ける、株式の希薄が生じるリスクが株価に織り込まれるなど、既存の株主の利益を損ねるような、かなり厳しい条件だと言えるだろう(コラム「 米政府の航空会社救済策と日本への示唆 」、2020年4月20日)。
米国のみならず、世界中の航空業界で、苦境が広まっている。オーストラリアのヴァージン・オーストラリアや英フライビーが経営破綻したほか、イタリアのアリタリア航空は完全国有化される方向だ。政府が6月初めにアリタリアに100%出資する。フランスとオランダの航空企業連合エールフランスKLMに対し、フランス政府は70億ユーロ(約8,100億円)規模の支援策を実施する。政府の融資保証に加えて、劣後ローンを提供する。ドイツのルフトハンザは政府と約90億ユーロの支援策を巡って交渉している。ルフトハンザは適切な経営のかじ取りができなくなる恐れがあるなどとして政府関与を拒んでいるが、政府が最大25%プラス1株を保有する案も議論の対象となっているという。
大企業救済スキームの構築は長い道のりの入り口
こうした海外での事例を踏まえても、日本での航空業界救済に必要な資金は、1兆円では足りないだろう。国際航空運送協会(IATA)は13日に、新型コロナウイルスの影響で落ち込んでいる国際線の旅客需要が2019年の水準を回復するのは、2024年までかかるとのかなり悲観的な見通しを発表している。航空業界の厳しい経営環境は、相当長く続くことを覚悟しなければならないだろう。
これに、自動車業界、鉄鋼業界などへの公的救済が必要になっていけば、比較的容易に数兆円規模の資金が必要となってくるかもしれない。
2020年度第2次補正予算に政府が盛り込もうとしている大企業救済スキームは、今後長く続くプロセスの未だごく入口だろう。この枠組みのもとで、相当の時間を相当の資金を投じて、大企業の救済を政府は進めていくことになるのではないか。
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