リブラ計画は修正のうえ継続
英紙フィナンシャルタイムズは、フェイスブックが主導するデジタル通貨「リブラ」が、2021年1月にも発行される可能性がある、と報じている。スイス・ジュネーブにある運営団体・リブラ協会の事業計画を審査するスイス金融当局が認可すれば発行となる。
2019年6月に発表されたリブラ計画は、当初、2020年前半の発行を目指していた。しかし突然発表されたこの計画は、リブラがマネーロンダリングに利用される、金融政策に悪影響を与える、金融システムを不安定化する、など、金融当局からの強い批判を一斉に浴びた。ただし、こうした問題は、各国が中銀デジタル通貨(CBDC)を発行しても同様に起こり得るものばかりだ。
金融当局からの強い批判を受けて、フェイスブックはリブラ計画の軌道修正を余儀なくされた。それが、4月16日にリブラ協会が発表した「Libra2.0」である(コラム「 軌道修正で生き残るリブラ計画 」、2020年4月17日)。
金融当局に計画を完全に潰されるよりも、とりあえず、金融当局に受け入れられる形へと軌道修正することで、生き残る道をフェイスブックは選んだのである。そこでは、金融当局の意見を取り入れてLibra決済システムの安全性を高める措置が新たに講じられた。
「Libra2.0」で単一通貨連動のリブラの発行を先行
ただし、最も大きな修正は、単一通貨に連動するデジタル通貨、つまりステーブルコインの発行を先行させる点だ。当初、リブラはドル、ユーロ、円など主要通貨のバスケットで価値が決まる、「グローバル・ステーブル・コイン」として発行する予定だった。
フェイスブックは、世界中で27億人が利用しているとされるフェイスブック関連アプリ上で利用でき、銀行口座を持たない人、いわゆるアンバンクトも金融サービスにアクセスできるようにする、という金融包摂を理念に掲げていた。さらに、コストが高く、時間もかかる国際銀行送金に代わる便利な国際送金サービスの提供も目指したのである。
しかし、主要国通貨に結び付けることで価値を安定させ、またフェイスブック関連アプリ上で広く利用できる「グローバル・ステーブル・コイン」のリブラは、ひとたび発行されれば世界中で利用が広がり、マネーロンダリングに利用されるなど、大きな問題を生むことを金融当局は強く懸念した。
そこで、「Libra2.0」では、単一通貨に結び付いたリブラの発行を新たに計画に加え、その発行を先行させることにしたのである。これであれば、国際銀行送金を一気に代替することがないため、金融当局は「Libra2.0」を受け入れたのだ。
デジタル人民元封じにも利用できるか
その第一弾となるドル連動のリブラが、2021年1月にも発行する見通しとなったのである。利用できるのは、米国や中南米の一部の国だという。ただし、ドル連動のリブラが利用できる地域を、果たして厳格に限定できるだろうか。
米国内での利用に限れば、今もあるドルのスマホ決済と変わりはない。他方、ドルの潜在的な需要は世界で高いため、仮に他の地域でもドル連動のリブラのサービスにアクセスできれば、それは国際送金にも利用され、マネーロンダリングのリスクを高めるのではないか。また、自国通貨の信頼性が低い国では、スマホ決済でドルが利用できれば、一気に「ドル化」が進み、その国の金融政策や金融システムに大きな打撃を与えかねない。
他方で、ドル連動のリブラを意図的に広く新興国で利用できるようにすることを米国が認めることで、デジタル人民元の海外での利用拡大を妨げることに利用することも、将来的にはあり得るかもしれない。
中銀デジタル通貨のプラットフォームにも
フェイスブックは、ドル連動のリブラの発行の後には、ユーロ連動のリブラなど、単一通貨の発行をさらに進めるだろう。そしてその後には、主要通貨に連動したリブラを合成したグローバル通貨のリブラの発行を目指す、と見られる。さらに、主要国が中銀デジタル通貨を発行していけば、それらをリブラのネットワークでも利用できるようにし、また、中銀デジタル通貨間の互換性を高める役割を果たすことも考えているようだ。
世界中の人に安価で便利な金融サービスを提供するとの理念を、フェイスブックは捨てていないのである。さらに、主要国で中銀デジタル通貨の発行が増えていけば、そこにもプラットフォームを提供し、公的な決済システムにも深く関与していく狙いではないか。
リブラ計画は、金融当局によって頓挫させられた訳ではない。フェイスブックの野望は、まだまだ続くのである。
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