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マレーシア、インドネシア、ベトナムなど東南アジアでの感染拡大の影響で現地工場が停止し、半導体やその他自動車関連部品の供給に大きな支障が生じている。8月時点でトヨタ自動車は、8月24日~9月の間、国内で14工場・27ラインの生産を最大で22日間止め、8月単月では3万7千台の減産をする見通しを示していた。さらに9月には約14万台の国内の減産を見込んでいた。またダイハツも8~9月に3万~4万台減産する見通しだった。これらの情報から、7-9月期の国内自動車生産が22万台程度減少すると推察され、それによって同期の国内自動車生産が10.4%減少すると計算された(コラム「 グローバル・サプライチェーンの混乱で国内自動車は一時減産へ:4,457億円の経済損失 」、2021年8月23日)。

ところがトヨタ自動車の減産は、当初見込みよりも格段に大きく広がることが明らかになっている。9月10日にトヨタ自動車が発表したところでは、9月の減産を約7万台分追加し、また10月は当初計画から約33万台(約37%)減産する見通しとなったという。両月で合計約40万台の追加減産となる。2022年3月期の生産台数も、従来見通しの930万台から900万台程度に引き下げる。

トヨタ自動車の追加減産によって、10月にかけての減産は国内自動車全体で22万台程度から62万台程度へと一気に3倍近くに増えることになった。これは、後の挽回生産分を考慮しない場合には、年間の自動車生産額を7.33%減少させる。自動車生産額が製造業の生産額(2015年)に占める比率は15.47%、自動車生産(付加価値ベース)が名目GDP(2019年)に占める比率は、3.17%である。これから、年間7.33%の自動車減産は、名目GDPでみて1兆2,600億円程度の経済損失を生む計算だ。

ちなみに、自動車減産の影響で7-9月期実質GDPは、前期比年率1.73%押し下げられる計算となる。7-9月期の成長率は、拡大と延長を繰り返す第4回緊急事態宣言による5.7兆円の経済損失に加えて、世界的なグローバル・サプライチェーンの混乱による自動車減産の影響を大きく受け、2四半期ぶりのマイナス成長となる可能性が高まっている。

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。