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日本銀行は12月23日に、初回となる気候変動対応オペ(通称グリーンオペ)を実施した。貸付日は2021年12月24日から2023年1月30日までとなる。オペの対象先から報告された気候変動対応関連の投融資額は、2021年9月末時点で2兆4,761億円であった。これを貸付限度額として、実際には2兆483億円の資金が日本銀行から銀行に供給される。

気候変動対応オペは成長基盤強化オペの後継と位置づけられているが、初回時点での気候変動対応オペの残高(資金供給規模)は、成長基盤強化オペの現時点での規模の7.6兆円と比べて見劣りする。さらに、貸出増加支援オペの54.2兆円、コロナオペの78.6兆円と比べて格段に規模が小さい。

日本銀行が対象先と認める条件は、十分な開示を行っていることだ。具体的には 気候関連財務情報開示タスクフォース( TCFD)が提言(2017年6月)した4項目(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)および投融資の目的・実績を開示していることだ。このように参加の要件が厳しめに設定された気候変動対応オペで、初回の規模としては概ね事前予想を上回ったと言えるのではないか。

オペに参加する金融機関は、その名前が公表されることから、参加自体が気候変動対応に積極的との姿勢を対外的にアピールできる好機と捉えた機関もあったのではないか。

他方で、地方銀行(地銀+第2地銀)全99行のうち、このオペの対象先となったのは、28行と全体の28%しかない。やはり、中小の金融機関にとっては、同オペの対象先となることのハードルは高かったのである(コラム「 日銀が気候変動オペを開始:小さく産んで大きく育てる 」、2021年12月7日)。

日本銀行としては対象先の条件をもっと緩くすることもできただろうが、それよりも、時間をかけて、より高次な情報開示ができるよう金融機関に促す道を選んだのである。

一方、来年3月以降、制度融資分のコロナオペのインセンティブを引き下げたことにも表れているように(コラム「 日銀がコロナオペを延長、正常化に動く海外中銀との政策姿勢の違いが明確に 」、2021年12月17日)、コロナへの危機対応としてオペの残高、そしてマネタリーベースを無理に高水準に維持する必要がないとの判断も、この気候変動対応オペの厳しめの要件設定に反映されたのではないか(コラム「 気候変動対応オペで日本銀行のリスク回避姿勢 」、2021年7月19日)。

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。