前回理事会でECBはタカ派姿勢に転じたが。。。
欧州中央銀行(ECB)は10日(木)に定例の理事会を開く。ECBは金融政策の正常化を緩やかに進めてきており、新型コロナウイルス問題を受けて導入したパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)を今年3月末で終了させ、10月までに債券購入量を段階的に減らしていくことを既に決めている。
前回2月3日の理事会は大きな転機になったと見られていた。ECBは、インフレリスクが増大していることを認めて、年内に利上げに動く可能性を排除しなかった。従来のハト派的スタンスからの転換を鮮明にしたのである(コラム「 予想通りに追加利上げに動いたBOEとハト派スタンスを転換するECB 」、2022年2月4日)。
さらにラガルド総裁は、これまで示してきた年内利上げの「公算は極めて小さい(very unlikely)」という決まり文句を封じた。タカ派からは「債券買い入れ規模縮小の加速を発表するなど、何らかの行動を取るべき」という声も上がったとされた。理事会前には市場は年内0.3%程度のECBの利上げを織り込んでいたが、ラガルド総裁の会見後には、0.4%~0.45%程度まで高まった。
ウクライナ紛争によって金融正常化のスピードが落ちる
しかし、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、ECBの金融政策運営を取り巻く環境は一変した。先進国の対ロシア制裁が、エネルギー供給に支障をもたらすとの見方から、原油、天然ガスの価格が大幅に上昇した。ウクライナ紛争以前からある物価高騰の問題が一層深刻になったのである。他方で、これらは、ユーロ圏経済には大きな打撃となる。物価上振れと景気下振れの双方への対応で、ECBは股裂き状態に置かれているのである。
先進国の対ロシア制裁をきっかけとするエネルギー価格の一段の上昇という供給側の要因に基づく一段の物価高に対して、金融政策では有効な対応をすることはできない。しかし、ECBが金融政策の正常化に動くことで、企業、家計、金融市場のインフレ懸念を抑え、また金融市場の安定に貢献することはできるのである。
この点もあり、ウクライナ紛争によってECBの金融正常化策が頓挫するとの見方は今のところは多くない。しかし、タカ派姿勢に転じた出鼻がくじかれ、金融正常化のスピードが落ちる、との見方が有力となってきているのである。
それは米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策についても同様である。FRBが3月15・16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ(政策金利引き上げ)に踏み切る、との見方には変わりはないが、0.5%という大幅な利上げ観測は後退した。またその後に、連続した利上げを実施するとの見方は揺らいできているのである。
ECBは政策変更見送りか
ユーロ圏の経済・金融は米国以上にウクライナ紛争によって打撃を受けやすい。それは、ロシア産の天然ガスへの依存度が高いことや、ロシア向けの銀行の債権規模が大きいことなどによる。
そうしたもとで、10日のECB理事会では、前回タカ派に転じたECBの姿勢が、再度慎重になるとの見方が現状では多い。ただしそれは、実施が見込まれていた正常化前倒し策が見送られるということであり、結果的に政策変更はされない、との見立てである。
今回は、資産買い入れのペースを縮小させて正常化策を加速させることは見合わせ、判断を数か月先送りする可能性があるだろう。年末時点のECBの政策金利の市場見通しも、0.2%程度まで低下しており、今後の状況次第では、年内の利上げは見送られるとの見方も浮上する余地がある。
10日のECB理事会は、主要中央銀行の中ではウクライナ紛争後で、最も早く開かれる会合である。国・地域によってウクライナ紛争から経済・金融が受ける影響は異なるが、今回の理事会でのECBの決定は、ウクライナ紛争後の主要中央銀行の新たな政策姿勢を占ううえで、試金石の役割を果たすだろう。
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