S&Pはロシアの外貨建て国債を選択的デフォルトに
米大手格付機関のS&Pグローバル・レーティングは4月8日に、ロシアの外貨建て国債の格付けを「SD(選択的デフォルト)」に引き下げた。そのうえでS&Pは、ロシア政府、企業が発行する証券の格付け自体を撤回し、格付け業務を停止することを発表した。
4月4日に米財務省は、米銀に対してロシア政府がドル建て国債の償還、利払いを行うことを許可しない方針を突如打ち出した。6日に米政府が発表した対ロシア追加制裁の一部を前倒しで実施したもの、とも言える。同日には6億ドル超の償還、利払いの期限を迎えていたが、この米財務省の措置を受けてロシア財務省はドルの支払いができなくなり、ルーブルで支払うことを余儀なくされたのである。その際にロシア財務省は、「債務返済は完全に履行されたと考えている」と説明していた(コラム「 ルーブルでの支払いを余儀なくされたロシア政府はデフォルトを強く否定 」、2022年4月7日)。
これを受けてS&Pは、ロシアの外貨建て国債の格付けについて、一部デフォルトを意味する「SD(選択的デフォルト)」に引き下げた。ロシア政府が当初の条件であるドルではなくルーブルで支払ったことが、債務の返済を履行したことにならないと判断し、さらに「政府が30日間の猶予期間内に支払いをできるとは思えない」と、格下げの理由を説明した。
正式なデフォルト認定はなされない
さらにS&Pは、ロシア政府、企業が発行する証券の格付け自体を撤回すると発表した。これは予想されていたことだ。対ロ制裁の一環で、EUは3月に、ロシア政府や企業が欧州で資金を容易に調達できないようにするため、格付けの撤回などを格付機関に求めていた。期限は4月15日とされた。今回のS&Pのロシア格付け撤回はこのEUの要求に沿った対応であり、他の大手格付機関ムーディーズ・インベスターズ・サービスやフィッチ・レーティングスは、既に格付けを取り下げていた。
このため、4月4日に期限を迎え、30日後に猶予期間が切れるロシアのドル建て国債の債務返済が履行されなかったことを理由とするデフォルトの認定は、格付機関から正式になされることはなくなったのである。ロシアはデフォルトではないと主張し、米国などはデフォルトと主張し合う不透明な構図が、今後も続くことになろう。
しかし、借りたお金を当初の条件の通りに返済できなかったこと、それに伴い、発行体(債務者)が債権者の信頼性を大きく損ねたこと、新規の発行の道が閉ざされたこと、といったデフォルトの本質的な条件は既に満たされており、ロシアの外貨建て国債はもはやデフォルト状態にあると言えるだろう。その結果、今後のロシア経済の成長は大きく制約されることになる可能性が高い。
ルーブルの安定を受けてロシア中央銀行は利下げを実施
ロシア中央銀行は4月8日に、政策金利を20%から17%に引き下げることを緊急会合で決めた。実施は11日からとなる。
ロシア中央銀行は2月下旬に、政策金利を9.5%から20%へと大幅に引き上げていた。その狙いは、先進国による対ロシア制裁措置を受けて、ルーブルが史上最安値にまで急落したことへの対応だ。先進各国がロシア中央銀行の外貨準備を凍結したことで、為替介入によるルーブル買い支えが難しくなったことがルーブル安に拍車をかけた。そこで、為替介入を封じられたロシア中央銀行は、政策金利を大幅に引き上げることで、ルーブルの安定回復を図ったのである。
ところが、3月下旬以降ルーブルは予想外に上昇に転じ、対ドルでウクライナ侵攻前の水準を概ね取り戻した。ロシア中央銀行は、急激な資本の流出を抑えるために導入した規制の効果により、「当面の間は金融の安定が脅かされるリスクは高まっていない」と、政策金利引き下げの理由を説明している。さらに、「今後、さらに利下げする可能性もある」とした。ロシア中央銀行は、ルーブル防衛から景気配慮へと政策の重点を移しているのである。
ルーブルの安定は長続きしない
ルーブルが安定を取り戻したことは予想外であったが、輸入の減少幅に対してエネルギーを中心とする輸出の減少幅が小さく、貿易収支、経常収支が対ロ制裁後にむしろ改善していること、そのもとで、政府がロシア企業に輸出代金で受け取った外貨の8割をルーブルに転換することを義務付けていることが、ルーブル需要を作り出していると考えられる。それらがルーブル安定の背景にあるのだろう(コラム「 対ロ追加制裁の目玉は石炭輸入の禁止・削減。エネルギー制裁強化がロシア経済とルーブルに打撃 」、2022年4月8日)。さらに、ウクライナ侵攻を受けた対ロ制裁後に、エネルギー価格が上昇していることも、ロシアのエネルギー輸出額を増やす要因となっている。対ロ制裁がむしろロシアを利している面があるのだ。
国際金融協会(IIF)によると、ロシアの3月の経常収支は300億~400億ドルの黒字となり、また2022年通年でも制裁による禁輸がなければ2,500億ドル強と「歴史的な高水準」になる見込みだという。
しかし、欧州や日本は、エネルギー輸入のロシア依存度を急速に低下させる方針だ。今回の対ロ追加制裁措置で決めたロシア産石炭の輸入禁止、段階的削減に加えて、今後の追加制裁措置には、より規模の大きいロシア産原油、天然ガスの輸入禁止、段階的削減が盛り込まれていくことも十分に考えられるところだ。
さらに、各国での脱炭素の取り組みが進む一方、原油の産出量引き上げなども徐々に進む中、エネルギー価格も現状の水準から低下していくだろう。その結果、ロシアのエネルギー輸出額は減少し、貿易収支、経常収支はいずれ赤字に転じて行くと見られる。また、ロシアの物価高騰、経済の低迷は長期化し、それらもルーブルの価値を引き下げていくだろう。 予想外のルーブルの安定回復は一時的な現象であり、その価値は中長期的には低下傾向を辿るものと見ておきたい。
(参考資料)
「ロシア国債「一部デフォルト」・・・S&Pが格付け自体を撤回」、2022年4月10日、 読売新聞速報ニュース
「ロシア「一部デフォルト」 外貨・財政になお余力も」、2022年4月9日、日本経済新聞電子版
「ロシア中銀、17%に利下げ=市場混乱は緩和と判断」、2022年4月8日、時事通信ニュース
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