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米財務省によってドルの支払いは阻まれたためルーブルで支払い

米国財務省は4月4日に、対ロ追加制裁の一環として、ロシアの銀行が米銀の口座に持つドルで、ドル建てロシア国債の償還・利払いを行うことを認めない方針を示した(コラム「 米国政府がロシア国債の償還・利払いを阻止との報道。ロシアはデフォルトか 」、2022年4月5日、「 対ロ追加制裁発動へ。EUのエネルギー関連制裁が日本のサハリン・プロジェクトの命運を握る 」、2022年4月6日)。

当初は、ロシア政府はドル建て国債の償還と利払いで合計21億2,900万ドルを同日に支払う予定であった。ところが、ルーブル建てでの前倒し償還という奇策を用いて、同日の償還額を5億5,240万ドルまで大きく減少することにロシア政府は成功した(コラム「 ロシアがドル建て国債をルーブルで前倒し償還と発表 」、2022年3月30日、「 デフォルト瀬戸際の状態が続くロシア:4月4日の次は5月27日がXデーか 」、2022年4月1日)。ルーブルでの前倒し償還に応じなかったのは、ほとんど外国人とロシア財務省は説明している。利払いと償還の合計額は6億8,140億ドルまで減少したため、ドル不足に直面するロシア政府もそれを履行できる、との見方が事前に強まっていた。しかし、米国財務省の新たな制裁措置によって、支払いは阻まれたのである。

6日になってロシア財務省は、ホームページに声明文を公表し、ロシアは6億4,920億ドル(なぜ6億8,140億ドルでないかは不明)を支払おうとしたが、複数の外国銀行がその処理を拒否した、とを明らかにした。そのため、ロシア政府は国内の銀行を通じ、ロシア連邦証券保管振替機関(NSD)にルーブルで支払うことを余儀なくされた、としている。しかし、「債務返済は完全に履行されたと考えている」とも説明している。

ロシアはデフォルトを否定し続ける

米財務省の制裁措置が解除されない限り、30日間の猶予期間中に、ロシア政府がドルでの支払いを行うことは難しいことから、デフォルト状態が確定するだろう。

ただし、デフォルト認定を行う主要格付機関は、ロシアでの格付け業務を停止する方針を示していることから、30日後に正式なデフォルトの認定はされない可能性が高い。その中で、米国はドル建てのロシア国債はデフォルトしたと主張し、ロシアの国際的な信用力をさらに貶めようとするだろう。他方でロシア政府は、米国の不当な措置によってドルの支払いができなかったものであり、ロシアとしてはルーブルで債務の返済を履行したとして、デフォルトを強く否定し続けるだろう。

ただし、議論は平行線を辿ることになっても、ロシアの国際的な信用力は既に失墜しており、長期間にわたって海外から資金を調達できない可能性が高まったことで、それがロシア経済の大きな制約となることに変わりはない(コラム「 米国政府がロシア国債の償還・利払いを阻止との報道。ロシアはデフォルトか 」、2022年4月5日)。

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。