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政府が10月28日に閣議決定する経済対策の概要が、次第に明らかになってきた。現時点での報道に基づいて、以下では、経済対策の経済効果の試算値をアップデートした(コラム「 電力・ガス料金支援策と大型経済対策の問題:繰り返される数字ありきの経済対策、英国同様に円安加速のリスクも 」、2022年10月24日、「 物価高対策の経済効果試算アップデート:年間GDP+0.5%、経済対策全体では+1.7% 」、2022年10月26日)。

10月27日の朝日新聞の記事( 経済対策、第2次補正予算案29.1兆円程度に 異例の規模 )によると、政府・与党は、経済対策の規模を財政支出ベース(国費、地方政府支出分、財政投融資)で39.0兆円程度、その裏付けとなる2022年度第2次補正予算案を一般会計で29.1兆円程度とする方針を固めた。国費(一般会計)の規模は、報道されるところでは20兆円程度、25兆円程度、29.1兆円と段階的に切り上がってきた。大型経済対策を求める自民党内の声が反映されたものだろう。新たに1兆円規模の「ウクライナ情勢経済緊急対応予備費」(仮称)を創設することなどが加えられた。経済対策は4本柱で構成されており、財政支出の内訳は、以下の通りとなる。
1)電気代などの負担軽減や企業の賃上げの後押しに12.2兆円程度
2)円安をいかした観光振興や企業の輸出拡大に4.8兆円程度
3)学び直しなど人への投資や少子化対策、脱炭素など新しい資本主義の加速に6.7兆円程度
4)防災や公共事業、経済・食料安保に10.6兆円
5)今後の備えに4.7兆円程度

電気代の負担軽減策については、従来から報道されていたように、家庭の料金を2割ほど引き下げ、平均的な家庭で月2千円程度安くなるようにする。子育て対策では、来年1月1日以降に生まれる新生児1人あたり計10万円分のクーポンなどを支給する。自治体への妊娠届と出生届の提出後にそれぞれ5万円分を支給する。財源の大半は赤字国債の発行で賄われる。

現時点での報道に基づいてアップデートした経済対策の経済効果の試算値によると、物価高対策(電力・ガス・ガソリン代支援策)の財政支出は11.1兆円、年間名目GDP押し上げ効果は0.51%となった(図表1)。総合経済対策全体では、年間名目GDP押し上げ効果は2.39%となった(図表2)。

電力・ガス・ガソリン代支援策及び経済対策全体の評価については、既に発行したコラムを参照されたい(コラム「 電力・ガス料金支援策と大型経済対策の問題:繰り返される数字ありきの経済対策、英国同様に円安加速のリスクも 」、2022年10月24日、「 物価高対策の経済効果試算アップデート:年間GDP+0.5%、経済対策全体では+1.7% 」、2022年10月26日、「 円安加速のリスクを高める大型経済対策と金融緩和維持の日本型ポリシーミックス 」、2022年10月27日)。

図表1 物価高対策の経済効果試算

図表2 総合経済対策の経済効果試算

 

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。