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国民民主党は外貨準備の含み益の活用を主張

国民民主党は11月30日に、外国為替資金特別会計(外為特会)から23兆円を一般会計に繰り入れる法案を参議院に提出した。円安で生じた含み益を活用し、国民1人当たり10万円の「インフレ手当」給付などに充てるとしている。

国民民主党は、以前より外貨準備の含み益の活用を主張している。10月6日の衆議院代表質問で国民民主党の玉木代表は、円安の進行を受けて、1月と10月初めの為替レートを比べて外貨準備高に「約37兆円」の含み益が出ていると指摘し、経済対策の財源としてそれを活用する考えを提案していた。かつての民主党政権時の「埋蔵金」の議論を彷彿とさせるものだ。

ちなみに、外貨準備の含み益を経済対策の財源にするとの議論は、現在政府が検討している外為特会の剰余金を防衛費増額の財源の一部に充てる、との議論とは全く別のものであり、両者を混同してはならない(コラム「 問題先送りの公算が高まる防衛費増額の財源確保 」、2022年11月30日)。内外金利差の拡大や円安進行による剰余金の増加分を、一般会計に繰り入れて財源とすることは可能である。

日本では一般会計も特別会計も簿価ベースで管理されている。円安が進めば円建てで計算した外貨準備の額は増えることになり、これを含み益と考えることはできる。しかしそれは決算には全く影響しない。つまり、そのままでは財源とはならないのである。

外貨準備を売却する為替介入しか手段はない

外貨準備の含み益を実現益に替え、政府の歳入とするためには、外貨準備を売却する以外に手段はない。それは、政府の為替介入に他ならない。政府は9月22日からドル売り円買いの為替介入を実施しているが、それは為替の過度な変動への対応という位置づけで、米国など他の主要国からなんとかギリギリ理解を得ているものだ。

他方、国内経済対策のための財源確保の狙いで政府が為替介入を実施する場合、それは他国の理解を得ることができるとは思えない。為替相場を不当に操作したとして、米国は日本を為替操作国に認定するのではないか。

また、23兆円を一般会計に繰り入れるために外貨準備を取り崩せば、外貨準備は一気に14%も減ってしまう計算だ。円買い介入の原資が大きく減ることは、先行きの為替介入の持続性への期待を低下させ、円安を後押ししてしまう可能性もあるだろう。

外貨準備の含み益は使うことができない「埋蔵金」

一方国民民主党は、外貨準備を取り崩さずにその「評価益」を償還の裏付けとした政府短期証券(FB)の発行も提案している。しかし、「評価益」を実現益にすることができないのであれば、それは何ら裏付けとはならず、単なる新規の国債発行と変わらなくなる。為替の変動を受けて、評価益の金額自体も常に大きく変動してしまうのである。

このように、円安で膨らんだ外貨準備の含み益は、決して使うことができない「埋蔵金」なのである。

(参考資料)
「外貨の含み益、財源に? 円安で「37兆円」、財務省は反論 為替介入のため保有」、2022年11月1日、朝日新聞

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。