FOMCで初めての利上げ幅縮小も予想通り
米連邦準備制度理事会(FRB)は12月14日に、米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.5%の利上げ(政策金利引き上げ)を決めた。政策金利であるフェデラル・ファンズ(FF)金利の誘導目標は、今回の決定で4.25%~4.5%となった。前回のFOMCまで4回連続で0.75%の異例の大幅な利上げが実施されており、現在の利上げ局面では今回が初めての利上げ幅縮小となったが、これは事前予想通りの結果である。
前日13日に発表された11月消費者物価統計(CPI)が予想を下回る上昇率となったことで、来年のFRBの政策金利の見通しが下方修正され、ドル安や株価上昇が生じた。金融市場は、来年2月、3月のFOMCで0.25%の利上げが実施され、政策金利は5.0%でピークとなる、との見通しを主に織り込んだ。さらに来年9月以降には、年内合計で0.5%程度の利下げが実施される、との見通しが織り込まれたのである(コラム「 米国利上げの終着点を捉え始めた金融市場(米国11月CPI) 」、2022年12月14日)。
他方、FOMCの結果は、声明文、経済・物価・政策金利見通し、パウエル議長の記者会見ともに、事前予想の範囲内であり、金融市場に与えた影響は限られた。つまり、11月CPI発表後に金融市場が織り込んだ来年の政策金利の見通しは、ほぼ修正されなかったのである。
FRBは来年の利下げを織り込む金融市場をけん制
注目されていたFOMC参加者のFF 金利見通し(中央値)は、2023年末で5.1%と前回9月の4.6%から引き上げられたが、これもほぼ予想通りであった。2024年末のFF金利見通し(中央値)は4.1%となり、2024年に1%程度の利下げが実施される見通しが示されている。
パウエル議長は、今回利上げ幅を縮小させたものの、「なお幾分か道のりは残っている」として、積極的な利上げ策は終了に近づいておらず、来年も利上げを続ける姿勢を示した。FOMC声明文でも「継続的な誘導目標レンジの引き上げが適切になると見込む」と記述された。
またパウエル議長は、「物価上昇率が持続的に2%の物価目標値に向けて低下していると確信するまで、利下げが検討されることはない」、「物価安定を回復させるには、景気抑制的な政策スタンスをしばらく維持する必要がある」などと発言した。さらに、2023年については、利下げを織り込む金融市場をけん制するかのように、「利下げを検討していない」と明言した。
FOMCの2023年の成長率見通し(中央値)は、前回9月の+1.2%から+0.5%へと大きく下方修正された。これは景気後退含みの見通しである。2023年については、政策金利の見通しを引き上げる一方、成長率見通しを大きく下方修正したということは、FRBが景気後退を覚悟のうえで、物価上昇率の一段の抑制のために利上げを続ける姿勢を示している。
FRBと金融市場の先行き見通しの乖離は今後も続く
金融市場が利上げの打ち止めと来年の利下げの可能性を織り込んだことに対して、FRBがそれをけん制するタカ派的なメッセージを送ることは十分に予想できた。早すぎる利上げ打ち止め、あるいは利下げ観測で長期金利が低下し、株価が上昇すれば、FRBの金融引き締め効果が削がれ、インフレリスクを高めてしまうことをFRBは警戒しているためである。しかしそれを受けて、金融市場が来年の政策金利の見通しを変えることはなかった点が注目される。
FRBの金融政策が、外部環境に関わらずFRBの意志によって決まる局面では、金融市場が当面の金融政策を予想する際にFRBが打ち出すメッセージを最も重視する。しかしFRBの政策が経済指標次第で決まるような局面になると、FRBが金融市場に比べて先行きの経済、物価動向を正確に予想できる訳ではないため、金融市場は先行きの金融政策を巡って、当事者であるFRBの見通しを素直に受け入れるのではなく、それに挑むようになるのである。今後もFRBの先行きの政策見通しと金融市場の見通しとの乖離は続くことになるだろう。
金融市場が次の利上げ幅が0.25%と確信した時点で長期金利はより明確に低下し、またドル安が進んで円安ドル高のトレンドは明確に反転すると予想される。そうした大きな金融市場転換点にあと一歩まで近づいているのが現状だろう。
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