ゼロコロナ政策を一気に軌道修正
中国政府は2022年12月に突如、ゼロコロナ政策を大きく軌道修正した。残された主な制限も2023年1月初旬には撤廃される予定であり、中国への渡航者についても入国時の隔離や新型コロナウイルス検査が免除される。これは、中国経済にとっても、そして中国からの観光客を多く受け入れてきた日本など周辺国にとっても朗報のはずだった。
中国政府は2022年12月26日に、新型コロナウイルスの感染症管理を「乙類甲管」から「乙類乙管」に引き下げると発表した。2023年1月8日から発効する。名称も「新型コロナウイルス肺炎」から「新型コロナウイルス感染症」へと変更した。現在の流行がオミクロン株によるもので肺炎を引き起こすリスクは小さい、つまり重症化リスクが低い、との判断が背景にあるのだろう。
さらに中国の出入国管理当局は12月28日に、こうした感染症レベルの引き下げに合わせて、入国者のPCR検査と隔離を2023年1月8日以降は行わない、と発表した。入国者は、48時間以内のPCR検査で陰性であれば入国できるようになる。そして、新規パスポートの申請も2023年1月8日から再開し、中国人の観光目的の海外旅行も徐々に開放するという。
規制緩和を受けた感染急拡大が中国経済に逆風
各国の専門家は、中国の指導部が新体制に移行する2023年3月の全国人民代表大会(全人代)を終えてから、水際対策の緩和を含む経済の本格再開に舵を切ると見ていた。大規模PCR検査や陽性者の隔離をやめると感染者が急拡大することは必至であり、春節休暇(1月21日~)や政治の重要イベントである全人代が終わるまで過度の混乱を避けたいのでは、と見る人が多かったのである。
しかし実際には、規制緩和は前倒しで実施されたのである。規制措置に対する国民からの強い批判が、民主化運動へと発展しかねない情勢であったからだろう。
ただし、政策修正が中国経済に今のところは大きな恩恵を与えていないようだ。12月下旬から中国全土で想定以上のスピードで感染が広がったためである。人口6,500万人の浙江省は12月25日に、新型コロナウイルスの1日あたりの新規感染者が100万人を超えたと発表した。
昨年12月以降の政策転換は、市民のマインドが追いつかないほどに劇的なものであり、その結果、感染が急拡大したことを受けて、繁華街などの人流はむしろ少なくなってしまっているのだ。
日本は中国からの入国者への規制を強化
さらに海外でも、中国の政策転換はまだ大きな経済的恩恵をもたらしていない。規制撤廃後の感染者急増を受けて、中国からの渡航に制限を導入する国が相次いでいるためだ。中国人の旅行先として人気の高い日本や韓国は、すでに対策を講じており、米国も中国からの渡航者に1月上旬からコロナ陰性証明の提示を義務付ける。
日本政府は昨年12月29日に、中国からの入国者に感染検査を義務づけ、陽性で症状がある場合は7日間の隔離措置をとる、と発表した。
2023年のインバウンド需要は3兆5,400億円、GDPを0.53%押し上げ
日本政府は昨年10月に水際対策の緩和を行ったが、その影響によって予想外のペースで海外観光客が増えている。新型コロナウイルス問題が生じる前には中国からの観光客が最も多かったが、昨年11月の中国からの訪日外客数は、2019年同月と比べて2.8%の水準に過ぎない。しかし、他地域からの入国は総じて大きく増加しており、特に韓国からの訪日外客数は、11月に2019年同月と比べて+53.8%増加した。11月の訪日外客数は93.5万人と9月の20.7万人の約4.5倍、10月の49.9万人の約1.9倍に急増している。
この数字を受けて、筆者は2023年のインバウンド需要は3兆5,400億円、 GDPを0.53%押し上げるとし、昨年10月時点での見通しを大きく上方修正した。その前提は、今年後半に、中国からの観光客が本格的に戻ってくるというものだ(コラム「 水際対策緩和後の外国人観光客は予想以上に増加:2023年インバウンド需要予測を3.5兆円に上方修正 」、2022年12月27日)。
コロナ前とは異なるインバウンド需要
中国では海外渡航についてなお制限が残っているが、国際チケットや海外ホテルの検索は既に急増しており、オンライン旅行サイト「去哪児網」によると、特にタイ、日本、韓国の旅行先が検索されているという。春節商戦を狙って、都内で中国人向けイベントを企画する動きも出てきており、ペントアップディマンドはかなり大きくなるだろう。
一方、全国旅行支援の影響もあり、日本国内での旅行は、コロナ前の水準を取り戻しつつある。インバウンド需要についても、2024年2月には、コロナ前の水準を取り戻すと予想する(コラム「 水際対策緩和後の外国人観光客は予想以上に増加:2023年インバウンド需要予測を3.5兆円に上方修正 」、2022年12月27日)。
しかしながら、日本のインバウンド戦略、そして海外観光客の日本での消費行動については、コロナ前の姿に完全に戻るということはないだろう。あるいはそれを目指すべきでもないだろう。中国を中心に海外での感染が拡大すれば、再び厳しい水際対策が取られる「ストップ・アンド・ゴー」政策が、繰り返されるかもしれない。
また、コロナ問題の影響によって、海外観光客の嗜好や行動パターンに変化が生じていることも考えられる。例えば、感染リスクを避けるために、大都市部よりも地方部での旅行のニーズが高まる可能性もあるのではないか。屋内よりも屋外での観光がより選好されるかもしれない。
こうした点を踏まえて、政府は新たな国・地域からの旅行客の受け入れ掘り起こしの努力、旅行業者は新たな形や新たな地域でのインバウンド需要の掘り起こしなどを模索することが求められるだろう。
(参考資料)
"Chinese 'Revenge Travel' Will Lift Tourism in 2023(中国人「リベンジ旅行」、観光業回復のカギに)", Wall Street Journal, December 30, 2022
「感染急拡大でも水際対策緩和。中国人の人気旅行先の日本は期待と不安」、2023年1月3日、Business Insider Japan PREMIUM
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