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米連邦預金保険公社(FDIC)は1日、経営危機に直面していたファースト・リパブリックバンクの預金とほぼすべての資産をJPモルガン・チェースが継承する、との提案を受けれると発表した。

同行の支援策を巡って大手銀行や金融当局による協議が長引く中、先週には同行の決算発表を機に株価が急落していた(コラム「 再び注目される米国地銀の経営問題:資産リストラの経済・不動産市場への悪影響に注意 」、2023年4月27日)。そこで、FDICが同行を事実上管理下に置いた上で、入札を通じて売却先を探したとみられる。入札にはPNCファイナンシャル・サービシズ・グループやシチズンズ・フィナンシャル・グループも参加したという(コラム「 ファースト・リパブリックバンク破綻の見通し:破綻は3行目でリーマン・ショック後最大規模 」、2023年5月1日)。提示した購入額が最も高かったことが、JPモルガンの提案受け入れの決定打となったようだ。

JPモルガンは1日、ファースト・リパブリックバンクの「預金保険の対象外も含めてすべての預金と実質的にすべての資産を引き取る」とカリフォルニア州金融保険イノベーション局(DFPI)に発表した。

米銀最大手のJPモルガンは、全米の預金量に占める割合が10%を上回る数少ない銀行の一つだ。そのため、規制によって他の銀行を買収することは基本的にはできない。今回は、当局が特例として認めることになると考えられる。

FDICは当初、米国時間の4月30日、日本時間の5月1日の朝、つまりアジア市場が開く前に売却を決める予定であったが、調整が難航し、米国時間の5月1日の早朝、つまり米国市場が開く直前のタイミングで何とか買収案がまとまった形である。

それに失敗していれば、FDICはファースト・リパブリックバンクの業務を停止し、完全に管理下に置いたうえで、時間をかけて買収先を探すことを強いられていたはずである。そうした混乱が回避され、史上2番目の資産規模の無秩序な破綻を免れたことは、好ましいことである。

ただし、実質的にはこれは破綻処理に近いものであり、FDICにも相応の負担が生じたものと考えられる。JPモルガンがどのような条件の下で買収を決めたかについては、今後明らかになるだろう。

ファースト・リパブリックバンクの買収、および事実上の破綻は、3月に生じた米国の銀行不安がなお終わっていないことを裏付けるものだ。この先、米国経済が減速を強めていけば、銀行が保有する貸出債権、あるいは証券の価値が下落することで、再び資本不足懸念から預金流出傾向が高まり、銀行経営不安が本格的に再燃する可能性があるだろう。

(参考資料)
"If JPMorgan Wins First Republic, OCC Standing By for Key Nod (1)", "First Republic Regulators Rush to Fix Crisis as Banks Make Bids", "If JPMorgan Wins First Republic, OCC Standing By for Key Nod (1)", Bloomberg, May 1, 2023

 

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。