6月雇用者増加数は予想を下回る
米労働省が7日に発表した6月分雇用統計で、非農業雇用者増加数は20.9万人と事前予想の24万人程度を下回った。失業率は3.6%と前月の3.7%から低下したが、これは予想通りだった。一方、時間当たり賃金は前月比+0.4%、前年同月比は+4.4%と前月の同+4.3%を上回った。事前予想は同+4.2%程度である。
雇用者増加数が事前予想を下回る一方、賃金上昇率は上振れたことから、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では0.25%の追加利上げが実施される可能性が高まった。
事業所調査と家計調査の乖離
6月のFOMCでは、参加者から雇用統計の雇用者増加数(事業所調査)の数字は過大評価されているとの指摘があった(コラム「 利上げへの前傾姿勢が続くFOMC(6月FOMC議事録) 」、2023年7月7日)。他の経済指標に弱さがみられる一方、雇用統計のみが予想外の堅調を維持していることを受けて、民間エコノミストの間でも、雇用統計の雇用者増加数が過大評価されているとの見方が広がってきている。
5月の雇用統計では事業者調査の雇用者前月比は33万9,000人増加する一方、家計調査での就業者数は、前月比-31.0万人(4月は+13.9万人)と急減し、両者の乖離が大きく広がった。この家計調査の就業者の数字の方が、より実態を表しているとの指摘もある。
広く知られていることだが、米国の雇用統計は、事業所調査と家計調査を合わせて公表される。事業所調査の雇用者数と家計調査の就業者数は大きく食い違うことが多い。その理由の一つは、就業者の対象の違いだ。自営業者は事業所調査には含まれないが、家計調査に含まれる。また兼業をしている場合には、事業所調査では二重計上される可能性がある。
他方、事業所調査は12万2,000以上の企業・政府機関に対するサンプル調査に基づいており、約4,200万人の労働者をカバーしている。これは、正式な雇用者全体の約28%にあたる。一方、家計調査はわずか6万の家庭をサンプル調査の対象としている。家計調査の方がサンプル数がかなり少なく振れが大きい。そのため、通常は事業者調査の雇用者数の数字に注目が集まる。
今年8月の改定値、来年2月の確報値に注目
しかし、経済の転換点においては、事業所調査での雇用者数の精度が低下し、家計調査の方が、信頼性が高まる時期がある。現在がそれに当たるかもしれない。
事業所調査には、新たに生まれた企業による新規雇用は反映されない。また、事業閉鎖に伴う雇用者減少も反映されない面がある。そこで、調査に基づく雇用者増加数に、新たに生まれた企業による新規雇用者増加数と事業閉鎖に伴う雇用者減少数を推計して、事業者調査に基づく雇用者増加数というオリジナルデータに調整を施している。
これが暫定的な推計値であり、何四半期も後になって納税データが入手可能になった時点で初めて正式な数字が明らかになる。労働省は、今年8月に2023年3月分までの雇用者数について暫定的な改定値を発表し、来年2月に納税データに基づく確報値をまとめる予定だ。
こうした創廃業に伴う雇用の純増数の推計による雇用増加は、今年5月までの12か月間で、雇用者増加数全体の43%と過去最高水準に達した。しかし、金融引き締めの影響で、経営環境が悪化する現局面では、新規の企業設立による雇用者増加数の推計値は過大評価、事業所閉鎖による雇用喪失数の推計値は、過小評価されている可能性がある。その場合、創廃業に伴う雇用の純増数の推計値で調整した雇用者増加数は、実態よりも上振れることになる。
米連邦公開市場委員会(FRB)は来年2月に確定値が発表されるまで、実態よりも強い雇用統計に基づいて金融政策を決定するのだとすれば、景気を過剰に悪化させてしまうオーバーキルのリスクが高まるのではないか。
(参考資料)
"Labor Market Headfake? Key Report Could Be Overestimating Job Growth(米雇用統計の盲点、就業者数増は過大?)", Wall Street Journal, July 4, 2023
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