「量的引き締め(QT)」観測が浮上
金融市場では、日本銀行が国債買い入れを削減し、国債保有残高の削減を本格的に進める「量的引き締め(QT)」が近いうちに実施されるのではないか、との観測が浮上している。そのきっかけとなったのは、日本銀行が13日実施した定例の国債買い入れオペで、長期債の購入を減らしたことだ。
残存期間「5年超10年以下」の長期国債の購入予定額を4,250億円とし、前回から500億円減らしたことだ。1回あたりの買い入れ額の減額は、昨年12月以来のことである。
3月19日にイールドカーブ・コントロール(YCC)を解除した後は「これまでとおおむね同程度」、つまり月間6兆円程度の買い入れを続ける方針を日本銀行は決めた。そして4月以降は、「5年超10年以下」の買い入れ額を4,000億~5,500億円とレンジで示してきたが、実際には買い入れ額の据え置きを続けていた。
「5年超10年以下」のゾーンで、今後も500億円減額された1回4,250億円の買い入れが続くと仮定すれば、従来からの減額規模は1か月間で2,000億円、年換算では2.4兆円程度となる計算だ。その場合、長期国債の買い入れ額が償還額を下回り、日本銀行が保有する長期国債の残高が減少を始める可能性があるだろう。
この措置を受けて、13日の長期金利は上昇している。2年債利回りは一時0.325%と、2009年6月以来およそ15年ぶりの水準にまで上昇した。また30年国債の利回りは2.03%と、2011年8月以来、およそ13年ぶりの水準まで上昇した。
現状はなお微調整の局面か
ただし、日本銀行が次回6月の会合で、長期国債の保有残高を本格的に削減する、QTを実施するといった市場の観測は、やや行き過ぎなのではないか。
3月の決定会合で、月間6兆円程度の買い入れを続ける方針を決めた際にも、「実際の買い入れは、従来同様、ある程度の幅をもって予定額を示すこととし、市場の動向や国債需給などを踏まえて実施していく」と、柔軟な買い入れを示唆していた。
日本銀行は3月の会合で、マネタリーベースの拡大を約束する「オーバーシュート型コミットメント」は果たされたと説明したことから、マネタリーベースの縮小につながる長期国債の保有額削減はいつでも実施できる。しかし今回の国債買い入れ減額は、まだ、本格的な国債残高の削減、つまりQTではなく、なお状況次第で買い入れ額を増減させる、微調整の範囲内ではないか。その狙いは、長期利回りを上振れさせることを通じた、円安けん制である(コラム「 発言の修正で円安へのけん制を再度強める日銀 」、2024年5月13日)。
しかし、13日に0.95%まで上昇した10年国債利回りが、1%を大きく超える状況になれば、再び日本銀行は国債買い入れを増額する可能性があるだろう。
本格的な国債残高の削減、QTを始める場合には、日本銀行は国債保有残高の削減ペースに明確な目標を設定する可能性が高いだろう。しかし、短期金利の引き上げがまだ途上の中、「金利政策の正常化」と国債保有残高の削減という「バランスシート政策の正常化」を同時に進めることは難易度が高い政策となる。それは、長期国債利回りのボラティリティを高めてしまうからだ。
日本銀行は、短期金利の引き上げが一定程度まで進んだ後に、本格的な国債残高の削減、QTに踏み切ると見ておきたい。そのタイミングは来年になるのではないか。そこまでは、為替動向や株価動向などを睨みつつ、国債の買い入れ額あるいは国債保有残高を柔軟に増減させる微調整を続けると見ておきたい。
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