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7月25日の東京外国為替市場では、円高が急速に進んだ。朝方には一時1ドル152円台を付け、5月以来の円高水準となった。7月11日の1ドル161円台後半から2週間のうちに、10円弱の円高進行だ。

この間、円高の大きなきっかけとなったのは、米国で労働需給の緩和、インフレ率の低下を示す経済指標が発表され、米連邦準備制度理事会(FRB)が9月にも利下げに踏み切るとの観測が強まったことだ。

ただし、前日以来の急速な円高は、7月30・31日の金融政策決定会合で日本銀行が追加利上げを実施する、との観測を金融市場が強めたことが背景にある。閣僚や自民党幹部が、円安阻止の目的で日本銀行に利上げを求める主旨の発言をしたことに加え(コラム「 日米金融政策に政治はどう影響するか 」、2024年7月25日)、前日には、一部メディアが「日本銀行が7月30・31日の金融政策決定会合で追加利上げを検討する」と報じ、利上げ観測がさらに強まった。

金融政策決定会合前に政策決定を報じる観測記事の中で信ぴょう性が高いのは、日本銀行の事務方が市場の地均しを狙って情報の一部に言及したことを受けたものか、会合前日などに、日本銀行が政府に伝えたものが捕捉されたもののどちらかだ。今回の観測記事の情報源は、そのどちらでもないと考えられる。

従って、現時点では、7月30・31日の金融政策決定会合で追加利上げは見送られることを引き続きメインシナリオとしたい。ただし、会合直前の報道には注意を要する。

金融政策決定会合で追加利上げが見送られれば、再び円安方向への揺り戻しが生じるだろう。しかし、FRBの利下げが近いという重要なファンダメンタルズに揺るぎがない限り、1ドル160円まで円安が進む可能性は限られるだろう。2022年以来の歴史的な円安は、終焉を迎えつつあると考えたい(コラム「 連日の為替介入観測、米国利下げ観測で歴史的円安の終わりが見えてきたか 」、2024年7月16日)。

急速な円高を受けて、日本株は大きく下落している。7月25日の朝方に、日経平均株価は1,000円を超える下落となった。円安とともに日経平均株価もピークをつけた7月11日の高値4万2,400円台から10%を超える下落となった。日本株は、為替との強い連動性を再び強めているのである。

日本株の大幅調整は、目先は一巡する可能性も考えられるが、9月のFRBの利下げなどを受けて、ドル円レートが仮に年初の水準に近い145円前後まで進む場合には、日経平均株価は3万5千円程度まで下落するポテンシャルがあるだろう。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。