日本株は寄り付き直後に1,900円安の暴落
8月2日の日経平均株価は、寄り付き直後に1,900円(5%)安の暴落となった。前日にも一時1,300円の大幅下落となっており、日本の株式市場はパニック的な状況となっている。
株価下落の背景は、前稿で述べた通りであり(コラム「 日銀の金融緩和が生んだ円安・株高バブルは崩壊に向かうか:緩やかな円安修正は日本経済にプラス 」、2024年8月1日)、世界的な物価高騰のもとで日本銀行が生みだした円安・株高のバブルが崩壊過程に入った、と理解できるのではないか。
ただし2日の株価暴落は、前日の米国株式の大幅下落の影響も大きく受けている。米国では、経済、物価市場の下振れを受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)が9月に利下げを実施するとの観測が強まっている。これは、長期金利の低下を通じて、今までは株式市場にもプラスに作用していた。しかし、足もとで発表された雇用関連指標や製造業の景況感指標が予想よりも下振れたことで、米国経済の悪化懸念が生じている。
米国株の「スイートスポット」の局面は終焉か
今までは、経済指標の軟化と物価上昇率の低下は米国経済がソフトランディングに向かう兆候と前向きに受け止められ、FRBの利下げ期待とともに米国株式に追い風だった。米国株式はちょうどよい環境の「スイートスポット」の局面にあったと言える。しかし、経済指標の下振れ傾向がさらに強まる中、金融市場は米国経済のソフトランディングではなく、さらに進んで経済の悪化を懸念し始めたのである。
当面、日本では円高・株安傾向が続くとみておきたい。前稿では、ドル円レートが今年年末に1ドル140円~145円の水準まで円高が進む場合、日経平均株価は3万4千円~3万6千円のレンジまで調整する可能性があるとしたが(コラム「 日銀の金融緩和が生んだ円安・株高バブルは崩壊に向かうか:緩やかな円安修正は日本経済にプラス 」、2024年8月1日)、これは米国経済の悪化懸念を背景とした米国株の下落を含んでいない予測である。この点を考慮に入れれば、株価のレンジはもう少し切り下がるだろう。
急速な円高・株安は日銀追加利上げの制約に
米国の経済指標は、現時点では米国経済の失速を裏付けるほど弱くはないことから、1日の米国株の下落、2日の日本株の下落は、やや行き過ぎの感もあり、目先は値を戻すこともあるだろう。しかし、米国株が「スイートスポット」の局面を終え、米国経済の先行きに懸念を強め始めたとすれば、米国株、日本株の不安定な動きは今後も続くだろう。2日に発表される7月分米雇用統計への注目度が著しく高まっている。
筆者は、日本銀行は今年12月に政策金利を0.5%程度に、来年4月に0.75%程度に引き上げると予想している。今後、米国経済の悪化、日米株価の大幅下落、急速な円高の進展があれば、日本銀行の利上げは後ずれすることが考えられる。しかし、現時点ではその判断は早計だろう。
また前稿では、緩やかな円高は日本経済にプラスと書いたが、年間20円といった急速なペースの円高は日本経済にマイナスである。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。