「円安・株高バブル」崩壊と米国株の「スイートスポット」終了
8月1日、2日と、日本株は記録的な大幅下落となった(コラム「 日経平均は寄り付き直後1,900円安の暴落:米株はスイートスポットの局面を終える 」、2024年8月2日)。日米金融政策が逆方向に動き始めたことを受けた円高進行が、株安を後押ししている。世界的な物価高騰のもとでも低金利政策を維持した、日本銀行の異例の金融緩和が生じさせた「円安・株高バブル」が崩壊し始めた感がある。日本銀行は金融政策の正常化を進めているが、過去の金融政策の付けが回ってきているのではないか。
こうした傾向を増幅しているのが、米国の株価下落だ。足元までは、物価上昇率の低下傾向や労働需給の逼迫緩和は、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げを促し、ひいては米国経済のソフトランディングの確度を高めるとの楽観的な見方が強まっていた。これは、米国株にもプラスだった。米国の景気は株式市場には最適な状況まで鈍化する、いわば「スイートスポット」にあったのである。
しかし、景気情勢がさらに下振れていくと、景気悪化懸念から、米国の株式市場にも逆風となる。そうした変化が、米国でにわかに生じ、それが、円高・株安傾向を増幅し始めた。
7月米雇用統計で景気後退(R-word)も意識され始める
8月2日に発表された米7月雇用統計は、米国景気悪化懸念をさらに強め、ドル安・円高と米株安をさらに一段と促すことになった。2日の金融市場でダウ平均株価は一時900ドル超安の大幅下落となる一方、ドル円レートは一時146円台前半まで円高が進んだ。
7月の米雇用統計で、非農業雇用者数は前月から11.4万人の増加と、事前予想の17.5万人の増加を下回った。また6月雇用者増加数は前月比20.6万人増から19.9慢人増へと下方修正された。
失業率は4.3%と前月から0.2%ポイント上昇した。4か月連続の上昇だ。さらに、時間当たり賃金は前月比+0.2%と前月の同+0.3%及び事前予想の同+0.3%を下回った。前年同月比では+3.6%と前月の+3.8%を下回り、3年ぶりの低水準となった。
このように今回の雇用統計は、雇用者増加数、失業率、賃金の3つの側面で労働需給の緩和、景気減速を示唆するものであった。雇用統計は、事業者調査と家計調査という別々の調査を合わせていることもあり、強弱入り混じった結果となることの方が多い。今回弱めの方向に主要指標が揃ったことで、金融市場では米国景気の減速がより強く認識された。さらに、景気後退(R-word)が本格的に意識される初めての主要指標になったのではないか。金融市場では、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBが通常の0.25%ではなく0.5%の利下げを実施するとの見方も浮上し始めており、それがドル安円高を後押ししている。
急速な円高・株安は日銀金融政策や国内政治情勢にも影響か
景気後退も意識され始めた2日の米国市場で、米国株の大幅下落とドル安円高が進んだことから、週明けの東京市場も株価の大幅下落の流れが続くとみられる。
今まで日本では、円安傾向が企業収益の追い風となって株高をもたらす一方、円安による物価高懸念が個人消費を悪化させるなど、2極化が生じていた。今後、米国景気減速にも後押しされて円高・株安が緩やかに進行する場合には、個人消費には総じて追い風となり、2極化は解消されていくだろう。
しかし、急速な円高・株安となる場合には、個人消費も含めて日本経済全体に強い逆風となる。米国景気後退懸念が浮上し始めたことで、急速な円高・株安のリスクは徐々に高まってきている。急速な円高・株安となる場合には、今年12月と見込まれる日本銀行の追加利上げの時期が先送りされ、また、政策金利の到達点が、現時点で予想される0.75%を下回る可能性も出てこよう。
そして注目したいのは、株価下落が政治情勢をさらに不安定化させる可能性がある点だ。新NISAで初めて日本株投資に乗り出した個人の中には、株式投資のリスクや投資の自己責任の認識が必ずしも十分ではない投資家も含まれる。今回の株価の大幅下落で、新NISAなどを通じて広く国民に投資を呼び掛けてきた政府へ 不満を持つようになる可能性があるのではないか 。
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