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日本株の急落は世界に波及したがパニック状態は日本に限定

8月5日の日経平均株価は4,451円安と、1987年のブラックマンデー時(10月20日)の3,836円安を超える過去最大の下落幅となった。下落率では-12.4%とブラックマンデー時の-14.9%には及ばない。さらにブラックマンデー時との大きな違いは、米国発の世界規模での株価急落ではなく、日本を震源地とする株価下落である点だ。

1987年10月19日のブラックマンデーの際には、ダウ平均株価は-22.6%の急落となった。現時点では、米国株あるいはその他地域の株価はそのような急落とはなっていないことから、当時と比べて深刻の程度は大きくない。

5日は日本を震源地とする株価の下落が世界に波及した。しかし、日本を上回るような下落率を記録した国はない。アジア市場では、日本経済との関係が深い韓国と台湾の株価は一部2桁の下落率となったが、その他の市場の下落率は1%台~4%台にとどまった。

また同日の欧州地域でも、各市場の下落率は1%台~2%台にとどまった。米国のダウ平均株価は一時1,200ドルの下落、終値でも1,000ドル超えの下落となったが、下落率は2%台にとどまった。

日本発の株価下落は確かに世界に波及したが、世界規模で見るとパニック状態には至っていない。現時点で「グローバル金融危機」再来と考えるのは悲観的過ぎるだろう(コラム「 日本株は過去最大の下落幅もグローバル金融危機の再来ではない 」、2024年8月5日)。

安定回復の鍵を握るのは米国経済:日本の円高株安の連鎖はいったん落ち着く

日本を含めて世界の株式市場の動揺が続くかどうかの鍵を握るのは、米国経済だ。米国経済が景気後退に向かうとの見方が強まれば、日本及び世界の株式市場の動揺はさらに深まる可能性がある一方、米国経済が失速を免れるとの見方が広がれば、株式市場は安定を取り戻してくるだろう。

米国経済を占う観点から注目された5日の米7月ISM非製造業指数は51.4と、4年ぶりの低水準となった前月の48.8から持ち直した。事前予想の中央値は51程度だった。サービス業の雇用指数は1月以来初めて拡大を示し、昨年9月以来の高水準となった。

この指標だけで、米国経済の安定を確認できたとは言えないが、景気後退懸念がやや緩和されたことは確かだ。そのため、米連邦準備制度理事会(FRB)の大幅利下げ、早期利下げの観測が幾分後退し、これがドル安円高に歯止めをかけた。ドル円レートは5日に一時141円台まで円高が進んだが、同日の海外市場では145円程度まで円安に振れた。これを受けて、6日の日本の株式市場は少なくともいったんは持ち直すと見られる。現時点での先物市場は、日経平均株価で2,000円程度の寄り付きの上昇を示唆している。

市場の不安定な動きはなお続く

ただし、これで円高株安の流れに歯止めがかかったと考えるのは早計だろう。足もとでの円高・株安は日本銀行による金融緩和が生み出した「円安・株高バブル」の崩壊過程と考えることができるが、行き過ぎた分の調整が終わったとは言えないからだ。

株価とドル円レートは、2024年年初の水準まで戻り、2024年に生じた行き過ぎの調整は一巡した感もある。しかし、2023年に進んだ円安・株高の調整はまだ残っているのではないか。この先、2023年に生じた行き過ぎの調整がなされるとすれば、日経平均株価は2023年年初の2万6,000円程度まで17%程度の調整余地があることになる。ドル円レートは1ドル130円程度まで戻る余地があるとも考えられる。

米国経済が失速を免れるのであれば、そこまでの調整にはならないだろうが、米国経済が失速し、さらにそれに伴う金融面での問題が米国発で世界に広がる事態となれば、それ以上の調整となる可能性もあるだろう。

いずれにせよ、短期間で株価が急落した後は、投資家の心理的動揺はしばらく続き、金融市場が信頼を取り戻すまでには少なくとも数週間程度の時間を要するのではないか。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。