ライドシェアの全面解禁を巡り小泉氏と高市氏が対立
小泉氏が打ち上げた「解雇規制見直し」の主張が急速にトーンダウンしていく中で、経済政策としての規制改革の議論は、総裁選の争点から次第に外れつつある。
総裁選立候補表明の記者会見で小泉氏は、「聖域なき規制改革」を掲げた。父親の元首相が打ち上げた「聖域なき構造改革」に倣ったスローガンだ。さらに、暗に抵抗勢力を想定する手法も父親譲りである。
しかし、規制改革の目玉として掲げた「解雇規制見直し」を、小泉氏はトーンダウンさせていった(コラム「自民党総裁選での経済政策論争⑥:労働市場改革」、2024年9月26日)。大企業にリスキリングを義務付けるなど、労働市場の規制緩和というよりも、むしろ規制強化の方向に修正していったのである。
その結果、残された本格的な規制改革案は、ライドシェア全面解禁だけとなった。今年4月に一般ドライバーが有償で顧客を送迎する「日本版ライドシェア(自家用車活用事業)」が始まった。しかし、海外のウーバーなどと比べると、なお強い規制が残されている。タクシー会社が運行を管理し、車両不足が深刻な地域や時間帯に絞って限定解禁されたのである。
2024年6月の骨太の方針には、このライドシェアを全国に広げる方針が示された。しかし、当初政府は、アプリ事業者らの新規参入を含む全面解禁の議論を続け、同年6月までに結論を出すとしていたが、結論を出すまでには至らなかった。
タクシー業界などは、全面解禁に反対している。そして、全国ハイヤー・タクシー連合会は、ライドシェア反対派の高市氏を支援している。こうして、ライドシェアの全面解禁の是非は、自民党総裁選の争点の一つとなり、特に推進派の小泉氏と反対派の高市氏の間で意見が戦わされている。
小泉氏は、「ライドシェアについては、日本の中で大きな誤解もある。ドライバーの情報は乗せた回数、客からの評価がわかる。バス不足、タクシー不足、電車のダイヤの不足の現状を解消していくためにはライドシェアの全面解禁に取り組んでいきたい」と述べている。
これに対して高市氏は、「ちゃんと車両が整備されているのか、性犯罪に遭わないか、ストーカーに住所を知られないか、事故が起きたときの責任を誰が担うか、危険な目に遭う可能性がある」などと、問題点を並べ挙げる。
新政権では期待できない大胆な規制改革
河野氏もライドシェアの全面解禁を支持している。河野氏はそれ以外にも規制改革案を提示している。例えば、マイナンバーカード所有者の個人向けサイト「マイナポータル」を活用して、国民の所得データを把握しやすくする。所得に関するデータを国が一元的に管理することを前提に、必要な人に対象を絞って物資や補助金などを支給する「デジタルセーフティーネット」をつくる。
また、「移行期間を経たうえで年末調整を廃止して、すべての国民に確定申告してもらう」とした。これは、米国が実施している「記入済み申告制度」をモデルにしているとみられる。当局が納税者の所得、各種控除や税還付に関する正確な情報を把握し、それをもとに徴税額を試算して納税者一人ひとりに通知する。その内容に間違いがなければ、納税者がオンライン上で承認して申告手続きは簡単に終了する、というものだ。
こうした施策は規制改革と言えるが、仮にそれらが実施されても、新規参入を通じて競争条件が高まり、価格の低下と消費者の利便性が高まる、といった大きな経済効果を生み出す訳ではないだろう。長らく議論されてきた規制緩和、規制改革とはやや異質なものだ。
岩盤と言われた医療や農業などの分野で果敢に規制改革を掲げる候補者は、今のところいない。その結果、新政権のもとでも、規制改革が大きく前進することは期待できないだろう(コラム「自民党総裁選:『小石河』有力3候補の経済政策」、2024年9月9日)。
(参考資料)
「自民党総裁選「金融・成長戦略」発言を追う」、2024年9月21日、日本経済新聞電子版
「総裁候補、規制改革に濃淡 推進派河野・小泉氏の真意は-編集委員 大林 尚」、2024年9月13日、日本経済新聞電子版
プロフィール
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。