永久国債は政府にとって割安な資金調達手段か
国民民主党は、2021年の衆院選挙の公約に、「日銀保有国債の一部永久国債化」を掲げていた。現在議論されている103万円の壁対策などの経済対策を実施する際の財源として、国民民主党が再びこの永久国債を持ち出す可能性もあるのではないか(コラム「国民民主党・経済政策の財源問題①:減税は財政赤字を削減させる?」、2024年11月5日)。
2021年の公約では、「積極財政に転換して現金給付や消費税減税などを実施するため、教育国債の創設や日銀保有国債の一部永久国債化などで財源を多様化し、確保する」としていた。
永久国債は、政府が償還することなく、永遠に一定の利払いを行う国債のことをいう。永久国債は英国などで発行されている。元金を償還する必要がない分、他の国債よりも割安に資金調達できるようにも見え、財政負担をより抑えて新たな財源になるようにも見えるが、そう単純ではない。
長期国債の主な買い手である銀行や生命保険会社が、果たして永久国債を持ちたいと思うだろうか。国債は、価格が変動しても、投資家がそれを売却せずに持ち続けて無事償還の日を迎えれば、政府が確実に額面で買い戻してくれる。そのことが大きな魅力となっており、それを前提に時価会計を回避できている面もあるだろう。
償還のない永久国債となれば、そうしたメリットがなくなりリスクが高まる。その分、投資家は通常の国債よりも高いクーポン(利回り)を要求するだろう。その利回り次第では、通常の国債による資金調達よりも割高になってしまう可能性がある。
通常の日本の利付国債であれば、部分償還と借り換えを繰り返しながら60年をかけてすべてが償還される。その間は、発行額の60分の1となる1.7%とクーポン支払いの合計が、その国債発行に関する各年の政府の負担となる。
永久国債に対して投資家が高いクーポンを要求する場合、それが通常の国債の場合の1.7%とクーポン支払いの合計を上回る可能性も出てくるのではないか。
また、現在40年までの超長期国債しか発行していない政府が、永久国債を発行することにはリスクがある。長い国債であればあるほど市場での消化は難しくなる。その入札に失敗すれば、未曽有の発行残高に達している日本国債を市場が消化することの脆弱さを一気に露呈することにもなり、国債市場全体の混乱の引き金になりかねない。
さらに、償還のない永久国債を発行するには、国債を60年で償還するという「60年償還ルール」を修正する法改正も必要となり、発行のハードルはかなり高い(コラム「永久国債の発行は現実味が乏しい」、2021年10月19日)。
日本銀行が国債を保有すれば政府は利払い費を節約できる
ところで、国民民主党は「日銀保有国債の一部永久国債化」としており、民間投資家に永久国債を保有してもらう意図ではないようだ。
国民民主党が「日銀保有国債の一部永久国債化」とする場合、日本銀行がオペを通じて銀行などからそれを買い入れるのか、既に日本銀行が保有する国債を政府が新規に発行する永久国債と交換するのか、あるいは日本銀行に新たに永久国債を直接引き受けさせるのか、その手段は明らかではない。
第1のケースでは、上記のように市場で上手く消化されず、市場を動揺させてしまうリスクがある。そして、財政法により、日本銀行は国債の直接引き受けを原則禁じられていることから、後者の2つのケースではクリアすべき法的ハードルはかなり高くなる。
仮にそれらがクリアされた場合、日本銀行に永久国債を保有させることの狙いは何だろうか。政府が永久債に高い利払いを強いられるとしても、その永久国債が日本銀行に保有される場合には、利払い費を節約できる。政府は日本銀行に利払いをするものの、その多くは国庫納付金として政府に戻ってくるからだ。そうして政府は利払い費を節約することができるが、それは、普通の国債を日本銀行が保有する場合でも同様である。
永久国債構想は悪手
ただし、日本銀行が満期を迎えて償還された国債に代わって新たに国債を買い入れることをやめ、保有国債の残高を減らし始めると話は変わってくる。
政府の債務水準が変わらない中、日本銀行が国債の保有を減らす分、銀行などが国債保有を増やすことが必要となる。そうなれば、政府の利払い負担は実質的に高まることになる。
日本銀行に国債保有を続けてもらうことで、政府は利払い費を節約することはできるが、日本銀行は、大量の国債を永遠に持ち続ける訳ではない。それは2%の物価目標達成のための政策手段の一環として、一時的に保有しているのである。実際、2%の物価目標が視野に入ったとして、日本銀行は今年3月にマイナス金利政策を解除し、7月には保有国債の削減を開始した。これらは、金融政策正常化のプロセスである。
その際、日本銀行が保有する国債が償還のない永久国債に換えられれば、日本銀行は国債保有残高の削減が難しくなる。永久国債の保有を減らすには、市場で売却しなければならないが、その買い手が簡単に見つからず、国債市場を混乱させかねない。
こうした点から、「日銀保有国債の一部永久国債化」は、日本銀行に巨額の国債を保有し続けることを強いることを通じて、政府の利払い費を節約することが狙いのように見える。
しかしそれでは、2%の物価目標が達成した後も、あるいは物価上昇率が過度に高まる状況に至っても、日本銀行は高水準の国債を保有し続けることを強いられることになる。それは過剰な金融緩和を生じさせ、経済や金融市場を大きく不安定化しかねないだろう。
そして、金融緩和策としての大量の国債保有が不要になってもなお、日本銀行に国債の保有を続けさせることが永久国債発行の目的であるならば、それは日本銀行に国債の消化を協力させる財政ファイナンスに他ならない。そうなれば、財政の規律が一段と緩むという懸念や、国債と通貨の信認がともに低下する形で金融市場に悪影響を及ぼしかねないだろう。永久国債構想は決して妙手ではなく悪手なのであり、その実現可能性は低い。
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