メキシコ・カナダ向け関税の実施を1か月延期
トランプ氏は1日に、メキシコとカナダに対して25%の関税、中国に10%の追加関税を課す大統領令に署名した。それは、3日の世界の金融市場を大きく動揺させることとなった(コラム「金融市場、産業界へと激震が広がるトランプ関税:日銀追加利上げの制約に」、2024年2月3日)。関税は4日から発効するはずであったが、その直前になって、メキシコ、カナダ向け関税実施の1か月延期が決まった。トランプ大統領に金融市場は連日翻弄されている。
メキシコは、米国側が求めてきた合成麻薬フェンタニルや不法移民の流入対策としてメキシコ側が1万人の警備隊を配置する。これらを条件に、トランプ大統領はメキシコに課す25%の輸入関税を1か月延期することを決めた。カナダも約1万人の警備隊を配備し、国境管理を強化すること、フェンタニル対策の責任者を任命することなどを約束し、トランプ大統領から関税実施の1か月延期を認めさせた。
中国については、日本時間の4日午後2時1分が関税実施の期限となる。トランプ大統領は、合成麻薬フェンタニルの取り締まりについて習近平国家主席と話し合う予定があるとしていることから、中国への関税についても、中国側の一定程度の譲歩を受けて、実施延期を決める可能性があるだろう。
メキシコは、米国側が求めてきた合成麻薬フェンタニルや不法移民の流入対策としてメキシコ側が1万人の警備隊を配置する。これらを条件に、トランプ大統領はメキシコに課す25%の輸入関税を1か月延期することを決めた。カナダも約1万人の警備隊を配備し、国境管理を強化すること、フェンタニル対策の責任者を任命することなどを約束し、トランプ大統領から関税実施の1か月延期を認めさせた。
中国については、日本時間の4日午後2時1分が関税実施の期限となる。トランプ大統領は、合成麻薬フェンタニルの取り締まりについて習近平国家主席と話し合う予定があるとしていることから、中国への関税についても、中国側の一定程度の譲歩を受けて、実施延期を決める可能性があるだろう。
トランプ大統領の強硬な関税政策スタンスは変わらず
しかし、これらの関税実施の延期を受けて、トランプ大統領が関税政策を軟化させた、と考えるのは誤りだ。トランプ大統領は2月18日頃に、半導体、原油、天然ガスなどに関税を課す考えを明らかにしている。また、すべての国に対して一律関税を課すことも引き続き検討している。商務長官候補のラトニック氏は、国ごとに全品目を対象に課す関税について、商務省など関係省庁が各国との貿易赤字の調査を終えた4月以降になると説明をしている。
3か国に対する関税については、1か月の延期の後に撤回される可能性も考えられるだろう。しかしながら、相手国に移民規制、フェンタニル対策を求めることは、半分は関税実施の口実であり、トランプ関税政策の本丸は貿易赤字の削減にあると考えられる。この観点から、米国の輸入額の上位であるこの3か国に対して、一律関税を課すことで、米国の貿易赤字を削減していくトランプ大統領の姿勢は変わらないだろう。
今後、すべての国からの輸入品に一律関税を課すことを検討する中で、この3か国あるいは欧州連合(EU)については、特に大きな幅の税率を適用することを、トランプ政権は検討するのではないか。
また、トランプ大統領は、メキシコ、カナダとの貿易協定USMCAを大幅に見直すことで、両国から大量の製品が無関税で米国に流入することを止めたいと強く考えているとみられる。協定で2026年と規定されているUSMCAの見直しを前倒しで実施し、その中で、両国からの輸入品に大幅な関税を課すことも考えられるところだ。
3か国が仮に移民、フェンタニル対策を強化して今回の関税を撤回することができたとしても、貿易赤字の削減を強く求めるトランプ大統領の関税政策を大きく軌道修正させることは難しいだろう。
(参考資料)
「トランプ関税、対カナダ・メキシコは延期 中国とも協議へ」、2025年2月4日、日本経済新聞電子版
3か国に対する関税については、1か月の延期の後に撤回される可能性も考えられるだろう。しかしながら、相手国に移民規制、フェンタニル対策を求めることは、半分は関税実施の口実であり、トランプ関税政策の本丸は貿易赤字の削減にあると考えられる。この観点から、米国の輸入額の上位であるこの3か国に対して、一律関税を課すことで、米国の貿易赤字を削減していくトランプ大統領の姿勢は変わらないだろう。
今後、すべての国からの輸入品に一律関税を課すことを検討する中で、この3か国あるいは欧州連合(EU)については、特に大きな幅の税率を適用することを、トランプ政権は検討するのではないか。
また、トランプ大統領は、メキシコ、カナダとの貿易協定USMCAを大幅に見直すことで、両国から大量の製品が無関税で米国に流入することを止めたいと強く考えているとみられる。協定で2026年と規定されているUSMCAの見直しを前倒しで実施し、その中で、両国からの輸入品に大幅な関税を課すことも考えられるところだ。
3か国が仮に移民、フェンタニル対策を強化して今回の関税を撤回することができたとしても、貿易赤字の削減を強く求めるトランプ大統領の関税政策を大きく軌道修正させることは難しいだろう。
(参考資料)
「トランプ関税、対カナダ・メキシコは延期 中国とも協議へ」、2025年2月4日、日本経済新聞電子版
プロフィール
-
木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。