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FRBの金融政策は引き続き緩和方向であることを確認

6日の東京市場では、日米金利差縮小の観測が強まり、ドル円レートは一時1ドル151円台と2か月ほど前の水準まで円高が進んだ。
 
米連邦準備制度理事会(FRB)は前回1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げを見送り、長めの利下げ停止期間に入った可能性を示唆した。しかし、利下げ再開への期待が足元でやや強まり、先月4.8%台まで上昇した10年国債利回りは、足もとでは4.4%台まで低下している。
 
5日に発表された1月分ISM非製造業景況感指数は52.8と前月の54.0及び事前予想の54.3程度を下回った。これを受けて、FRBの利下げへの期待が幾分高まり、長期国債利回りが低下している。
 
FRB高官からの発言も、長期国債利回りの低下を促した。リッチモンド連銀のバーキン総裁は、「利上げをする唯一の理由は経済が過熱している場合だが、その兆しはない」との見方を示した。利上げへの転換を否定する発言だ。
 
また、ジェファーソン副議長は4日に、「経済と労働市場が強さを維持する限り、委員会が政策金利の調整に慎重になるのが適切だ」とし、「金利を現水準に当面維持することに満足」と発言した。しかし一方で、「政策金利はなお景気抑制的」とし、金融政策が利下げ方向にあるとの考えを示した。
 
さらにベッセント財務長官は、「トランプ大統領はFRBに利下げを求めていない」とした一方、「10年債利回りを注視している」として、トランプ大統領が長期国債利回りの低下を望んでいることを示唆した。
 
以上のような材料を受けて、米国市場では10年国債利回りが低下し、ドル安円高傾向を後押ししたのである。

政治的要因が日本銀行の追加利上げの障害に

他方日本では、石破首相と植田日銀総裁の間に物価の認識で齟齬はないとした赤沢経財大臣の5日の発言が、政府が日本銀行の利上げを容認するものとの解釈で、日本銀行の追加利上げ観測を生じさせ、ドル安円高を促している(コラム「インフレとデフレを巡る政府と日銀の認識の差が露呈」、2025年2月6日)。
 
また、6日には日銀審議委員の田村氏の講演テキストで、「25年度後半に少なくとも1%程度まで利上げが必要」との発言が伝わると、日銀の追加利上げ観測が強まり、円高の流れを後押しした。
 
ただし、FRBが利下げに動き、日本銀行が利上げに動くのは早くても年央以降と考えられ、そこまでにはなおかなりの距離がある。
 
さらに、田村氏は政策委員会の中で最もタカ派であり、また少数派であることから、同氏の発言がそのまま政策に反映される訳ではない。日本銀行はさらなる利上げを志向していると考えられるが、そこには景気への悪影響やデフレからの完全脱却の障害になることを警戒する政府の意向が一定程度障害になると考えられる。
 
市場で利上げ観測が強まることで足元のように円安が修正されると、物価高懸念が緩和されて、政府はより利上げに慎重なスタンスになるだろう。それは、日本銀行の利上げ時期を遅らせる方向に働く。
 
日米当局ともにトランプ政権の関税策とそれが世界経済、金融市場に与える影響を慎重に見極めている段階であり、金融政策は両国ともに当面は動けない。
 
為替市場が本格的にドル安円高の流れに転じるとすれば、それは、トランプ政権の関税政策の影響で米国経済の下振れリスクが高まる一方、インフレリスクについては限定的、一時的であることが確認され、FRBが利下げ再開により前向きになる時ではないか。それはまだ先のことになる。
 
足もとのドル安円高や日本の長期国債利回り上昇、米国の長期国債利回り低下の動きはやや行き過ぎとみておきたい。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。