EUは米国への報復関税を検討へ
トランプ米大統領は2月10日、すべての鉄鋼、アルミニウムの輸入品に25%の関税を課す大統領令に署名した(コラム「トランプ政権は鉄鋼・アルミニウム輸入品に25%の関税:例外・除外規定を廃止する方針」、2025年2月12日)。トランプ大統領は第1次政権下の2018年3月に、主要国から輸入する鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課した。
ただし、米国で製造することが難しい鋼材などは、関税対象から除外された。また、メキシコ、カナダは早期に適用が除外され、またバイデン前政権が、一定量まで鉄鋼・アルミへの追加関税を免除する「関税割当制度」を導入し、それが欧州連合(EU)、英国、日本に適用されたことで、事実上この関税は骨抜きとなった。
トランプ大統領はこのバイデン前政権の対応に反発し、再び鉄鋼、アルミニウム関税の実効性を回復することを狙っている。欧州委員会のフォンデアライエン委員長はこの措置を「誠に遺憾だ」とし、「EUに対する不当な関税は見過ごせない。断固として相応の対抗措置を発動する」と発言している。EUは米国への制裁関税を検討しているとみられるが、2018年にトランプ大統領が鉄鋼、アルミニウムに関税を課した際には、ハーレー・ダビッドソンのオートバイなど、政治的にセンシティブな企業を標的にして米国に報復関税を課した。
カナダの革新・科学・産業相も、「カナダの鉄鋼・アルミは防衛から自動車まで米国の産業を支えている」と指摘し、関税措置は正当化できないと批判したうえで、他国と協議の上、「明確で的確な対応をする」と報復関税を示唆している。
ただし、米国で製造することが難しい鋼材などは、関税対象から除外された。また、メキシコ、カナダは早期に適用が除外され、またバイデン前政権が、一定量まで鉄鋼・アルミへの追加関税を免除する「関税割当制度」を導入し、それが欧州連合(EU)、英国、日本に適用されたことで、事実上この関税は骨抜きとなった。
トランプ大統領はこのバイデン前政権の対応に反発し、再び鉄鋼、アルミニウム関税の実効性を回復することを狙っている。欧州委員会のフォンデアライエン委員長はこの措置を「誠に遺憾だ」とし、「EUに対する不当な関税は見過ごせない。断固として相応の対抗措置を発動する」と発言している。EUは米国への制裁関税を検討しているとみられるが、2018年にトランプ大統領が鉄鋼、アルミニウムに関税を課した際には、ハーレー・ダビッドソンのオートバイなど、政治的にセンシティブな企業を標的にして米国に報復関税を課した。
カナダの革新・科学・産業相も、「カナダの鉄鋼・アルミは防衛から自動車まで米国の産業を支えている」と指摘し、関税措置は正当化できないと批判したうえで、他国と協議の上、「明確で的確な対応をする」と報復関税を示唆している。
日本は関税の適用除外をトランプ政権に働きかける
他方、トランプ政権に関税の適用除外を働きかける国もある。オーストラリアはトランプ大統領に対して、関税の適用除外を働きかけている。トランプ大統領は、この関税に例外はない、と当初強調していたが、オーストラリアに対しては、「米国は(オーストラリアに対して)貿易黒字がある。多くの航空機を買ってもらっている。大いに検討する」と例外措置の導入を示唆したのである。2024年に米国はオーストラリアに対して179億ドルの貿易黒字(財)となっている。
トランプ大統領がこの関税の発効日を3月12日と1か月先に設定したのは、相手国次第、条件次第で例外を認めるディールを行う意図があったのだろう。
オーストラリアが関税措置から除外される可能性が出てきたことを受けて、同様に除外を求める国が出てきている。
今週はインドのモディ首相の訪米が予定されているが、その際に、関税の適用除外を求めることが予想される。そして日本政府も、トランプ政権の関税策を強く批判したり、また、報復関税を実施することを検討するのではなく、適用除外を求めて既にトランプ政権に働きかけている。
トランプ大統領がこの関税の発効日を3月12日と1か月先に設定したのは、相手国次第、条件次第で例外を認めるディールを行う意図があったのだろう。
オーストラリアが関税措置から除外される可能性が出てきたことを受けて、同様に除外を求める国が出てきている。
今週はインドのモディ首相の訪米が予定されているが、その際に、関税の適用除外を求めることが予想される。そして日本政府も、トランプ政権の関税策を強く批判したり、また、報復関税を実施することを検討するのではなく、適用除外を求めて既にトランプ政権に働きかけている。
USスチールの株式を100%買い入れる買収計画はより困難に
しかし2024年に米国は685億ドルの対日貿易赤字(財)を抱えており、関税の適用除外は容易に受け入れられないとみられる。今後は日本側から具体的な代替策を示す形で、両国間で交渉が進められるだろう。
この鉄鋼関税を巡る日米交渉には、日本製鉄によるUSスチールの買収計画が関わってくるだろう。先日の日米首脳会談で、日本製鉄によるUSスチールの買収計画を修正し、投資拡大の計画にすることを石破首相が提案し、トランプ大統領がそれを受け入れたとされる。
日本製鉄がUSスチールの株式を100%買い入れる買収計画の断念を決めたのかどうかは未だ明らかでないが、仮に当初の買収計画を維持する場合には、外国企業によるUSスチールの買収を認めない、過半数の株式保有は認めないとするトランプ大統領がそれに強く反発し、日本が鉄鋼関税の適用除外となる可能性は大きく低下してしまうのではないか。あるいは、鉄鋼にとどまらず、日本経済により大きな影響を与える対米自動車輸出への制裁関税へと発展していく恐れもある。
このように、今回の鉄鋼関税と日本製鉄によるUSスチールの買収計画は深く関連することになり、USスチールの買収はさらに難しくなってきた。日本政府も、トランプ政権との関係悪化を避ける観点から、今や、日本製鉄によるUSスチールの買収計画の大幅修正を望んでいるのではないか。
この鉄鋼関税を巡る日米交渉には、日本製鉄によるUSスチールの買収計画が関わってくるだろう。先日の日米首脳会談で、日本製鉄によるUSスチールの買収計画を修正し、投資拡大の計画にすることを石破首相が提案し、トランプ大統領がそれを受け入れたとされる。
日本製鉄がUSスチールの株式を100%買い入れる買収計画の断念を決めたのかどうかは未だ明らかでないが、仮に当初の買収計画を維持する場合には、外国企業によるUSスチールの買収を認めない、過半数の株式保有は認めないとするトランプ大統領がそれに強く反発し、日本が鉄鋼関税の適用除外となる可能性は大きく低下してしまうのではないか。あるいは、鉄鋼にとどまらず、日本経済により大きな影響を与える対米自動車輸出への制裁関税へと発展していく恐れもある。
このように、今回の鉄鋼関税と日本製鉄によるUSスチールの買収計画は深く関連することになり、USスチールの買収はさらに難しくなってきた。日本政府も、トランプ政権との関係悪化を避ける観点から、今や、日本製鉄によるUSスチールの買収計画の大幅修正を望んでいるのではないか。
プロフィール
-
木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。