4月2日に自動車関税導入か
トランプ大統領は13日に、米国の輸出品に高い関税率をかける相手国の製品に同率の関税率を課す「相互関税」導入の大統領覚書に署名した。そして、商務省と米通商代表部(USTR)に対して、調査・検討するように命じた。手続き完了には数週間から数か月かかるとされる。ラトニック商務長官候補は、調査は4月1日までに終わるだろうと話しており、4月の発効となる可能性も考えられる。
翌14日になってトランプ大統領は、自動車に対して4月2日ごろから関税を課すことを検討している、と明らかにした。関税政策についてのトランプ大統領の発言は常に不規則で不明確である。13日に発表した相互関税とこの自動車関税の関係は不明確であるが、相互関税の一部をハイライトしたのがこの自動車関税案と考えられるのではないか。相互関税の狙いは米国の貿易赤字の削減であり、その貿易赤字を作り出している主力輸入品が自動車であるからだ。想定される実施時期についても、4月と一致している。
米商務省によると、2024年の乗用車の輸入額は2,140億ドルと輸出額の581億ドルを大幅に上回った。輸入額の1位はメキシコ(487億ドル)、2位が日本(399億ドル)、3位が韓国の373億ドル、4位はカナダ、5位はドイツである。ただし、日本を含め海外企業はメキシコやカナダの工場で乗用車を製造し、ほぼ無関税で米国に輸出しているため、日本車の輸入額や順位はこれよりもさらに高い可能性が考えられる。
翌14日になってトランプ大統領は、自動車に対して4月2日ごろから関税を課すことを検討している、と明らかにした。関税政策についてのトランプ大統領の発言は常に不規則で不明確である。13日に発表した相互関税とこの自動車関税の関係は不明確であるが、相互関税の一部をハイライトしたのがこの自動車関税案と考えられるのではないか。相互関税の狙いは米国の貿易赤字の削減であり、その貿易赤字を作り出している主力輸入品が自動車であるからだ。想定される実施時期についても、4月と一致している。
米商務省によると、2024年の乗用車の輸入額は2,140億ドルと輸出額の581億ドルを大幅に上回った。輸入額の1位はメキシコ(487億ドル)、2位が日本(399億ドル)、3位が韓国の373億ドル、4位はカナダ、5位はドイツである。ただし、日本を含め海外企業はメキシコやカナダの工場で乗用車を製造し、ほぼ無関税で米国に輸出しているため、日本車の輸入額や順位はこれよりもさらに高い可能性が考えられる。
日本の自動車が関税の対象となる可能性
こう考えると、日本が自動車関税の対象になる可能性は高いと言えるのではないか。相互関税では、当初日本への影響は大きくないと考えられていた。日本が米国から輸入する工業製品は、ゼロ関税の自動車も含めて関税率が低く、米国の相互関税の対象にはならないとされていた。
他方、農産物については比較的高い関税率となっているが、日本が米国に輸出する食料品は2024年に対米輸出全体のわずか1.0%、2,131億円に過ぎない。さらにその中心は加工食品とみられ、農産物の輸出額はかなり小さいと考えられる。そのため、仮に報復的に関税率が引き上げられても、経済全体への影響は限られると考えられた。
ところが13日に相互関税が発表されると、事態は変わってしまった。トランプ政権は、相手国の関税率だけでなく、不公平な補助金・規制、付加価値税(VAT)、為替レート、知的所有権保護の不備など、米国の貿易を制限する「非関税障壁」も対象とする方針であることを打ち出しためだ。
トランプ大統領は、制裁の対象となる非関税障壁の例として、欧州連合(EU)のVAT等を挙げている。他方、ホワイトハウス高官によれば、米国を不当に利用しており制裁の対象となりえる国として、日本と韓国を名指ししているという(コラム「トランプ相互関税導入へ:非関税障壁も対象となり日本の対米輸出自動車に追加関税の可能性も」、2025年2月14日)。
他方、農産物については比較的高い関税率となっているが、日本が米国に輸出する食料品は2024年に対米輸出全体のわずか1.0%、2,131億円に過ぎない。さらにその中心は加工食品とみられ、農産物の輸出額はかなり小さいと考えられる。そのため、仮に報復的に関税率が引き上げられても、経済全体への影響は限られると考えられた。
ところが13日に相互関税が発表されると、事態は変わってしまった。トランプ政権は、相手国の関税率だけでなく、不公平な補助金・規制、付加価値税(VAT)、為替レート、知的所有権保護の不備など、米国の貿易を制限する「非関税障壁」も対象とする方針であることを打ち出しためだ。
トランプ大統領は、制裁の対象となる非関税障壁の例として、欧州連合(EU)のVAT等を挙げている。他方、ホワイトハウス高官によれば、米国を不当に利用しており制裁の対象となりえる国として、日本と韓国を名指ししているという(コラム「トランプ相互関税導入へ:非関税障壁も対象となり日本の対米輸出自動車に追加関税の可能性も」、2025年2月14日)。
外国貿易障壁報告書で指摘された日本の自動車市場の非関税障壁
米国が日本の米国からの輸入品について、何が非関税障壁と考えているかについては、USTRが昨年3月に公表した、2024年の外国貿易障壁報告書(2024 National Trade Estimate Report on FOREIGN TRADE BARRIERS)から推し量ることができる。同報告書によれば、日本の平均関税率は2022年に3.9%、うち農産物が13.4%、非農産物で2.4%だった。
そして自動車については、「米国は、米国の自動車メーカーが日本の自動車市場にアクセスできないことに強い懸念を表明している。さまざまな非関税障壁が日本の自動車市場へのアクセスを妨げており、その結果、米国自動車および自動車部品の日本における総売上高は依然として低い」としている。
米国は長らく、日本での自動車の安全基準、環境基準が米国の基準よりも厳しいことを、非関税障壁として批判してきた。これに加えて同報告書では、「独自の基準と試験プロトコル、短距離車両通信システム用の独自の周波数割り当て、規制策定プロセス全体を通じて関係者の意見を反映する機会の欠如、流通およびサービスネットワークの開発に対する障害などが含まれる」としている。
さらに、日本政府による燃料電池電気自動車 (FCV)への補助金も非関税障壁と位置付けている。同報告書によれば、FCVには、車両のサイズに応じて最大255万円(約1万7000ドル)の補助金が与えられているが、それは日本でFCV市場を独占しているトヨタ1社への補助金になっており、それが、外国車の日本市場への参入の障害になっていると指摘している。それ以外にも、停電時に車両が蓄電した電力を家庭に送り返すことができる給電技術を搭載した車両に対する補助金も、ほぼ日本車に対する補助金であり、非関税障壁の一つと位置付けられている。
トランプ政権による関税政策は始まったばかりであるが、早くも日本経済に甚大な影響を与え得る、本丸の自動車をターゲットに捉え始めている。
(参考資料)
“2024 National Trade Estimate Report on FOREIGN TRADE BARRIERS”, USTR
「アメリカの自動車関税、日本対象ならメーカーや関連企業への悪影響懸念…米国への輸出額3割が自動車」、2025年2月15日、読売新聞速報ニュース
そして自動車については、「米国は、米国の自動車メーカーが日本の自動車市場にアクセスできないことに強い懸念を表明している。さまざまな非関税障壁が日本の自動車市場へのアクセスを妨げており、その結果、米国自動車および自動車部品の日本における総売上高は依然として低い」としている。
米国は長らく、日本での自動車の安全基準、環境基準が米国の基準よりも厳しいことを、非関税障壁として批判してきた。これに加えて同報告書では、「独自の基準と試験プロトコル、短距離車両通信システム用の独自の周波数割り当て、規制策定プロセス全体を通じて関係者の意見を反映する機会の欠如、流通およびサービスネットワークの開発に対する障害などが含まれる」としている。
さらに、日本政府による燃料電池電気自動車 (FCV)への補助金も非関税障壁と位置付けている。同報告書によれば、FCVには、車両のサイズに応じて最大255万円(約1万7000ドル)の補助金が与えられているが、それは日本でFCV市場を独占しているトヨタ1社への補助金になっており、それが、外国車の日本市場への参入の障害になっていると指摘している。それ以外にも、停電時に車両が蓄電した電力を家庭に送り返すことができる給電技術を搭載した車両に対する補助金も、ほぼ日本車に対する補助金であり、非関税障壁の一つと位置付けられている。
トランプ政権による関税政策は始まったばかりであるが、早くも日本経済に甚大な影響を与え得る、本丸の自動車をターゲットに捉え始めている。
(参考資料)
“2024 National Trade Estimate Report on FOREIGN TRADE BARRIERS”, USTR
「アメリカの自動車関税、日本対象ならメーカーや関連企業への悪影響懸念…米国への輸出額3割が自動車」、2025年2月15日、読売新聞速報ニュース
プロフィール
-
木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。