貿易赤字の削減を狙ってトランプ大統領は相互関税を導入
トランプ大統領は13日、「相互関税」導入についての大統領覚書に署名した。そして、商務省と米通商代表部(USTR)に対して、調査、検討するように命じた。
相互関税の導入については、その発表が当初示されていた時期よりもやや遅れた。さらに、当初は即座に発効させることをトランプ大統領は示唆していたが、実際には発効時期は決まっていない。手続き完了には数週間から数か月かかるとされる。また調査は4月1日までに終わるだろうとラトニック商務長官候補は話しており、4月以降の発効となる可能性も考えられる。
相互関税の具体的な設計については依然として明らかではないが、本コラムで示した3つの可能性のうち、最も可能性が高いと考えてきた、個別品目について輸出先国の高い関税率を米国がその国から輸入する同じ品目に適用する、第1の形であることが考えられる(コラム「トランプ相互関税とは何か:日本は対象になるか?」、2025年2月10日)。
ただし、米国からの輸出品に課せられている貿易相手国の高い関税率を自動的に米国の輸入品に課すのではなく、国ごとに対応を検討するようだ。相互関税導入の目的は、米国にとって公平な貿易環境を作り出し、米国の貿易赤字を削減することにあると説明されていることから、米国にとっての大きな貿易赤字国、あるいは輸入先が主な対象となる可能性もあるだろう。ちなみに、日本は米国の貿易赤字の第7位、輸入額で第5位(ともに2024年)と上位であることから、相互関税の対象となる可能性は高いだろう。
相互関税の導入については、その発表が当初示されていた時期よりもやや遅れた。さらに、当初は即座に発効させることをトランプ大統領は示唆していたが、実際には発効時期は決まっていない。手続き完了には数週間から数か月かかるとされる。また調査は4月1日までに終わるだろうとラトニック商務長官候補は話しており、4月以降の発効となる可能性も考えられる。
相互関税の具体的な設計については依然として明らかではないが、本コラムで示した3つの可能性のうち、最も可能性が高いと考えてきた、個別品目について輸出先国の高い関税率を米国がその国から輸入する同じ品目に適用する、第1の形であることが考えられる(コラム「トランプ相互関税とは何か:日本は対象になるか?」、2025年2月10日)。
ただし、米国からの輸出品に課せられている貿易相手国の高い関税率を自動的に米国の輸入品に課すのではなく、国ごとに対応を検討するようだ。相互関税導入の目的は、米国にとって公平な貿易環境を作り出し、米国の貿易赤字を削減することにあると説明されていることから、米国にとっての大きな貿易赤字国、あるいは輸入先が主な対象となる可能性もあるだろう。ちなみに、日本は米国の貿易赤字の第7位、輸入額で第5位(ともに2024年)と上位であることから、相互関税の対象となる可能性は高いだろう。
非関税障壁を理由に日本車に追加関税が課される可能性
日本が米国から輸入している工業製品にはほぼ関税がかけられていない。他方、牛肉、果物、穀物など農産物の一部には高い関税率がかかっている。米国がこの農産物の高い関税を問題視し、日本から輸入している農産物に同じ関税率を課す可能性はあるだろう。
しかし、日本が米国に輸出する食料品は2024年に対米輸出全体のわずか1.0%、2,131億円に過ぎない。さらにその中心は加工食品とみられ、農産物の輸出額はかなり小さいと考えられる。 そのため、日本が相互関税の対象となっても、日本経済への影響は限定的と考えられた。
しかし、実際には大きな影響が生じる可能性が出てきたのである。それは、この相互関税は、相手国の関税だけではなく、不公平な補助金・規制、付加価値税(VAT)、為替レート、知的所有権保護の不備など、米国の貿易を制限する非関税障壁も対象とする方針であることが打ち出されたためだ。
トランプ大統領は、制裁の対象となる非関税障壁の例として、欧州連合(EU)のVAT等を挙げている。他方、ホワイトハウス高官によれば、米国を不当に利用しており制裁の対象となりえる国として、日本と韓国を名指ししているという。
米国政府は長年、米国製自動車の対日輸出が伸びない理由として、車検制度など日本の自動車輸入の非関税障壁を挙げてきた。そのため、今回の相互関税では、米国から日本に輸出される自動車の非関税障壁を問題とし、日本から輸入する自動車への関税引き上げを実施する可能性が出てきた点には注意が必要だ。関税の対象が本丸とも言える対米自動車輸出に及べば、日本経済への影響は大きくなるだろう。
しかし、日本が米国に輸出する食料品は2024年に対米輸出全体のわずか1.0%、2,131億円に過ぎない。さらにその中心は加工食品とみられ、農産物の輸出額はかなり小さいと考えられる。 そのため、日本が相互関税の対象となっても、日本経済への影響は限定的と考えられた。
しかし、実際には大きな影響が生じる可能性が出てきたのである。それは、この相互関税は、相手国の関税だけではなく、不公平な補助金・規制、付加価値税(VAT)、為替レート、知的所有権保護の不備など、米国の貿易を制限する非関税障壁も対象とする方針であることが打ち出されたためだ。
トランプ大統領は、制裁の対象となる非関税障壁の例として、欧州連合(EU)のVAT等を挙げている。他方、ホワイトハウス高官によれば、米国を不当に利用しており制裁の対象となりえる国として、日本と韓国を名指ししているという。
米国政府は長年、米国製自動車の対日輸出が伸びない理由として、車検制度など日本の自動車輸入の非関税障壁を挙げてきた。そのため、今回の相互関税では、米国から日本に輸出される自動車の非関税障壁を問題とし、日本から輸入する自動車への関税引き上げを実施する可能性が出てきた点には注意が必要だ。関税の対象が本丸とも言える対米自動車輸出に及べば、日本経済への影響は大きくなるだろう。
自動車への25%の関税によって日本のGDPは0.2%程度低下する可能性も
現在、対米自動車輸出では、乗用車に2.5%、トラックに25%の関税がかかっているが、仮に25%の関税が上乗せされる場合、モデル計算によると日本の実質GDPは2年間で0.1%程度低下する計算となる(コラム「日米首脳会談①:トランプ大統領は対日貿易赤字削減へ対日関税に言及:日本車に25%の関税は日本のGDPを0.08%押し下げる」、2025年2月10日)。
しかしこのモデル計算は、実際には関税引き上げではなく為替変動(円高ドル安)を通じた輸出品の価格上昇の影響を計算したものだ。円高ドル安は、関税ほどには確実に輸出品の価格が上昇し、実質輸出に悪影響を与える訳ではない。この点を踏まえると、対米自動車輸出に25%の関税が課せられた場合の日本の実質GDPへの影響は、この試算値よりも大きく、-0.2%程度と考えておくのが妥当ではないか。日本の潜在成長率が0%台半ば程度と考えられる中、自動車関税によって仮に0.2%程度GDPが押し下げられるのであれば、それは相応の悪影響と言えるだろう。
しかしこのモデル計算は、実際には関税引き上げではなく為替変動(円高ドル安)を通じた輸出品の価格上昇の影響を計算したものだ。円高ドル安は、関税ほどには確実に輸出品の価格が上昇し、実質輸出に悪影響を与える訳ではない。この点を踏まえると、対米自動車輸出に25%の関税が課せられた場合の日本の実質GDPへの影響は、この試算値よりも大きく、-0.2%程度と考えておくのが妥当ではないか。日本の潜在成長率が0%台半ば程度と考えられる中、自動車関税によって仮に0.2%程度GDPが押し下げられるのであれば、それは相応の悪影響と言えるだろう。
トランプ関税の影響を強い警戒を持って見極めることが必要な局面に
日本は既に、鉄鋼・アルミニウムの追加関税の対象となっている。さらにトランプ大統領は、この相互関税に加えて、自動車、半導体、医薬品にも輸入関税を課すつもりだと語っている。これは、2月18日頃に発表するとしてきた追加関税のことを意味しているとみられる。さらにトランプ大統領は、4月以降にすべての国あるいは多くの国からの輸入品に一律関税を課すことを準備していることを示唆してきた。
このように、トランプ大統領は、この先も追加関税を重ねて実施していく予定だ。その中で日本への関税適用も増えていくだろう。トランプ関税が世界経済、そして日本経済に与える影響については、いよいよ強い警戒を持って見極めることが必要な局面となってきた。
このように、トランプ大統領は、この先も追加関税を重ねて実施していく予定だ。その中で日本への関税適用も増えていくだろう。トランプ関税が世界経済、そして日本経済に与える影響については、いよいよ強い警戒を持って見極めることが必要な局面となってきた。
プロフィール
-
木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。