2月18日に開かれる103万円の壁対策を巡る自民、公明、国民民主3党の協議で、自民党は低所得者の課税最低限を150万円超に引き上げる案を示す、と報じられている。
国民民主党は現行103万円の所得税の課税最低限(非課税枠)を178万円に引き上げることを一貫して主張してきた。他方で与党は、昨年末に2025年度税制改正大綱で123万円までの引き上げ案を示した。
両者の差は大きかったが、足もとでは国民民主党内で、東京23区の単身者への生活保護支給額を基準とする156万円案も浮上してきていた。さらに今回、自民党が課税最低限を150万円超に引き上げる案を示す見通しであり、両者の差は次第に縮小してきている(コラム「『103万円の壁』対策の議論がいよいよクライマックスに」、2025年2月14日)。
ただし、政府・自民党の今回の修正案は、所得制限付きである。年収200万円を目安に、低所得者については課税最低限を150万円超に引き上げる。他方、年収200万~500万円の所得の人は、150万円を下回る水準までの課税最低限引き上げ、さらに年収500万円を超える場合は、与党の当初案通りに123万円に据え置く案と考えられる。
自民党は、課税最低限について、国民民主党に譲歩して引き上げ幅を上方修正する一方、所得制限を設けることで、減税の恩恵を低所得層がより大きく受ける設計にしたのである。「103万円の壁」解消では、労働供給を促すことと、物価高で圧迫された低所得層の生活を支え、さらに労働時間の増加を通じて所得増加の道を開くことが最も重要な点と考える。この点に照らせば、減税の恩恵を低所得層がより大きく受けるように制度を見直すことは適切だろう。
しかし、国民民主党は、すべての所得層について一律課税最低限を引き上げることにこだわってきた。ただしその案では、高額所得層の減税規模がより大きくなり、所得格差を拡大させてしまうという大きな問題が生じる。与党と国民民主党の意見の隔たりは縮小してきているものの、国民民主党がこの与党の修正案をそのまま受け入れることは難しいのではないか。
与党が2025年度税制改正大綱で示した123万円までの引き上げ案では、約7,000億円の税収減になると試算された。国民民主党の当初案の7~8兆円の10分の1以下である。与党は、1995年以降の物価高による実質所得の減少を補うという観点から、この約7,000億円については新たな財源確保を求めないとした。他方123万円を超える課税最低限引き上げとなれば新たな財源確保が必要となることから、それ以上の課税最低限引き上げを求めるのであれば、財源案を示すように与党は国民民主党に迫った。
所得制限付きで課税最低限を150万円超まで引き上げる今回の与党案では、税収減は数兆円に及ぶ可能性があるのではないか。仮にこの与党案で両者が折り合うとした場合、財源はどうなるのか。財源議論が後回しにされて、減税策のみで両者が合意することになれば、その穴埋めは新規国債発行でなされ、財政環境は一段と悪化してしまう可能性が出てくる。減税案と財源案とは一体で議論を進めることが重要だ。
国民民主党は現行103万円の所得税の課税最低限(非課税枠)を178万円に引き上げることを一貫して主張してきた。他方で与党は、昨年末に2025年度税制改正大綱で123万円までの引き上げ案を示した。
両者の差は大きかったが、足もとでは国民民主党内で、東京23区の単身者への生活保護支給額を基準とする156万円案も浮上してきていた。さらに今回、自民党が課税最低限を150万円超に引き上げる案を示す見通しであり、両者の差は次第に縮小してきている(コラム「『103万円の壁』対策の議論がいよいよクライマックスに」、2025年2月14日)。
ただし、政府・自民党の今回の修正案は、所得制限付きである。年収200万円を目安に、低所得者については課税最低限を150万円超に引き上げる。他方、年収200万~500万円の所得の人は、150万円を下回る水準までの課税最低限引き上げ、さらに年収500万円を超える場合は、与党の当初案通りに123万円に据え置く案と考えられる。
自民党は、課税最低限について、国民民主党に譲歩して引き上げ幅を上方修正する一方、所得制限を設けることで、減税の恩恵を低所得層がより大きく受ける設計にしたのである。「103万円の壁」解消では、労働供給を促すことと、物価高で圧迫された低所得層の生活を支え、さらに労働時間の増加を通じて所得増加の道を開くことが最も重要な点と考える。この点に照らせば、減税の恩恵を低所得層がより大きく受けるように制度を見直すことは適切だろう。
しかし、国民民主党は、すべての所得層について一律課税最低限を引き上げることにこだわってきた。ただしその案では、高額所得層の減税規模がより大きくなり、所得格差を拡大させてしまうという大きな問題が生じる。与党と国民民主党の意見の隔たりは縮小してきているものの、国民民主党がこの与党の修正案をそのまま受け入れることは難しいのではないか。
与党が2025年度税制改正大綱で示した123万円までの引き上げ案では、約7,000億円の税収減になると試算された。国民民主党の当初案の7~8兆円の10分の1以下である。与党は、1995年以降の物価高による実質所得の減少を補うという観点から、この約7,000億円については新たな財源確保を求めないとした。他方123万円を超える課税最低限引き上げとなれば新たな財源確保が必要となることから、それ以上の課税最低限引き上げを求めるのであれば、財源案を示すように与党は国民民主党に迫った。
所得制限付きで課税最低限を150万円超まで引き上げる今回の与党案では、税収減は数兆円に及ぶ可能性があるのではないか。仮にこの与党案で両者が折り合うとした場合、財源はどうなるのか。財源議論が後回しにされて、減税策のみで両者が合意することになれば、その穴埋めは新規国債発行でなされ、財政環境は一段と悪化してしまう可能性が出てくる。減税案と財源案とは一体で議論を進めることが重要だ。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。