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国民医療費の4兆円の削減と現役世代の医療保険料6万円の負担軽減

自民、公明両党と日本維新の会は、2月21日に高校授業料無償化と国民医療費削減などの社会保障改革の2本柱で実質合意した。政府はその内容を反映させて2025年度予算案を修正する。日本維新の会の協力で2025年度予算が年度内に成立する見通しとなった(コラム「与党と日本維新の会は高校授業料無償化で合意に近づく:年度内に予算成立の方向」、2025年2月20日)。
 
日本維新の会は与党との3党協議で、高校授業料無償化と社会保障改革を2本柱に位置付けていた。日本維新の会は当初、私立高への支援金について、2025年度からの最大63万円への増額を主張していた。この63万円は大阪で実施されている支援金の金額だ。現状は、年収590万円未満の世帯の私立高校の高校生に上限39万6,000円が支援されている。両者ともに歩み寄り、「2026年度から45万7,000円」とすることで合意した。
 
他方で日本維新の会は、国民医療費の4兆円の削減と現役世代の医療保険料の一人当たり6万円の負担軽減を主張した。与党側は「4兆円の根拠が不明」として合意文章に明記することに難色を示したが、最終的には日本維新の会が譲歩し、国民医療費の4兆円の削減と現役世代の医療保険料の一人当たり6万円の負担軽減の目標について、「念頭に置く」との表現とすることを受け入れた。

OTC類似薬の保険適用外の検討

社会保障改革については、以下の4点が柱となる。
(1)OTC類似薬の保険給付の在り方の見直し
(2)応能負担の徹底
(3)医療DXを通じた効率的で質の高い医療の実現
(4)医療介護産業の成長産業化
 
(1)のOTC(Over The Counter)医薬品とは、医師の処方箋なしでも調剤薬局やドラッグストアなどで購入できる医薬品のことだ。これに近いOTC類似薬を保険適用から外し、患者自身の負担で購入するようにすることが検討されている。保険適用外の市販品は全額患者負担だが、病院で処方箋をもらって薬を購入する場合には、自己負担は1~3割であり、残りは公費や保険料から賄われることになる。
 
風邪薬などOTC類似薬を保険適用外とすることで、公的医療保険の支出額を減らし、公費の抑制、保険料の引き下げにつなげることができる。
 
ただし、OTC類似薬の保険適用外については、医療機関への受診控えによる健康被害、経済的負担の増加などの弊害が生じるとして、日本医師会は強く反対している。

応能負担の原則拡大で財政支出削減と現役世代の保険料引き下げ

また、(2)の応能負担の徹底は、主に金融資産を多く持つ高齢者の保険料の自己負担比率の引き上げが主に想定されている。現状で高齢者の自己負担比率は所得を反映して決まるが、所得が少なくても金融資産を多く持ち、負担能力が高い高齢者の自己負担比率を1~2割から2~3割などに引き上げることで、公的医療保険の支出額を減らし、公費の抑制や現役世代の保険料の引き下げにつなげることができる。
 
ただし、これには、個人の資産額を把握する仕組み作りが必要となり、実現には時間がかかる。
 
OTC類似薬を保険適用外とすることや、高額金融資産を持つ高齢者の保険料の自己負担比率の引き上げなどの応能負担原則の拡大は、従来から政府・自民党が検討してきたものであり、与党としても、目標数値の明記以外は大きな抵抗なく受け入れられるものだったのではないか。
 
こうした施策を通じて公的医療保険の支出削減を実現できれば、公的医療保険への公費削減を通じた財政健全化や、現役世代、低所得層を中心とする国民の医療保険料負担の軽減につなげることができるだろう。自民、公明両党と日本維新の会は、是非、議論を積極的に進めていって欲しい。

(参考資料)
「自公維、社保改革で歩み寄り 維新「医療費4兆円減」」、2025年2月22日、日本経済新聞電子版
「自公維の合意文書案要旨」、2025年2月21日、時事通信ニュース

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。