&N 未来創発ラボ

野村総合研究所と
今を語り、未来をみつめるメディア

1月の実質賃金上昇率は3か月ぶりにマイナス

厚生労働省は3月10日に、1月分毎月勤労統計を発表した。1月の現金給与総額は前年同月比+2.8%と前月の同+4.4%から低下した。基本給に相当する所定内賃金の前年同月比上昇率は前月の+2.6%から+3.1%に高まったが、ボーナスなどの特別に支払われた給与が同+6.2%から同-3.7%へと大きく下振れたことから、現金給与総額の上昇率は低下した。
 
他方、消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は、同+4.7%となったことから、実質賃金上昇率(現金給与総額上昇率ー消費者物価上昇率)は前年同月比-1.8%と3か月ぶりに下落した。また下落幅は昨年3月の同-2.1%以来となった。
 
賃金上昇率の基調的な部分を示し、基本給に相当する所定内賃金上昇率は1月に前年同月比+3.1%であったが、サンプルバイアスを含まない共通事業所ベースで見ると同+2.7%であり、過去3か月の平均値は+2.8%だ。賃金上昇率のトレンドは3%弱とみられる。
 
他方、1月の消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は、前年同月比+4.7%となったが、生鮮食品によって0.8%程度、コメの価格高騰によって0.4%程度一時的に押し上げられているとみられる。さらに、電気・ガスの補助金制度の一時停止によって0.3%程度押し上げられたことが見込まれる(補助金制度再導入の影響は2月分から反映される)。これらの影響を合計すると、消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)の基調的な上昇率は現時点での数字よりも1.5%程度低く、3%程度とみられる。

実質賃金上昇率はしばらく小幅マイナスとなりプラス定着は夏頃か

ところで、今年の春闘での賃上げ率(定期昇給分を含む)は5.2%~5.3%と前年の同+5.1%をやや上回る見通しだ(コラム「3月12日に集中回答日を迎える2025年春闘:賃上げ率は高水準ながらも加速感を欠き、消費の追い風には力不足」、2025年3月7日)。それらの影響が波及する中で、定期昇給分を含まないベアに相当する平均賃金上昇率のトレンドは3%程度あるいは3%強になると予想する。
 
これらを前提に考えると、実質賃金上昇率はしばらく小幅マイナスの状態を続けた後、今夏頃に小幅プラスが定着することが予想される。しかし、実質賃金の改善幅はわずかであり、個人消費の本格回復を後押しするには力不足だろう。
 
図表 2025年実質賃金見通し

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。