鉄鋼とアルミニウムの関税は予定通り12日に発動
3月12日にトランプ米政権は、鉄鋼、アルミニウムにそれぞれ25%の関税を発動することを予定している。これに先立ち米鉄鋼大手首脳らは、関税の適用除外を認めぬよう、トランプ政権に要請した。米鉄鋼大手3社、ニューコア、USスチール、クリーブランド・クリフスの各CEO(最高経営責任者)を含む業界首脳9人はトランプ大統領に宛てた7日付の書簡の中で、トランプ政権が1期目の2018年に鉄鋼、アルミニウムに関税を課した際、あるいはその後に多くの適用除外が設けられたことで、関税の効果が削がれ、海外からの鉄鋼輸入の増加を許したと訴えた。書簡では、「いかなる例外や除外の要求にも抵抗し、米国の鉄鋼のために引き続き強く立ち向かうよう要請する」としている。
他方、米国の鉄鋼ユーザー各社や鉄鋼輸出各国などは逆に、ホワイトハウスに対して、鉄鋼の主要貿易相手国に適用除外を認めるようロビー活動を積極化している。彼らは、鉄鋼輸入関税は米消費者にとって物価上昇につながる、と問題点を指摘する。25%の鉄鋼関税の可能性を織り込んで、米国内の鉄鋼価格は過去数週間に急上昇し、輸入品よりも20%余り割高の水準となっている。
しかし、トランプ大統領が1期目に発動した鉄鋼、アルミニウムへの関税を再度発動するのは、その後の適用除外措置、特にバイデン政権のもとでとられた措置によって関税が骨抜きになってしまったことから、関税の有効性を取り戻す狙いがある。そのため、今回は、安易に適用除外措置を認めるとは考えにくい。
ラトニック米商務長官は9日のニュース番組で、鉄鋼とアルミニウムの関税が予定通り12日に発動されるか問われ、「イエス」と答えるとともに、猶予措置を想定していないことを示唆した。
他方、米国の鉄鋼ユーザー各社や鉄鋼輸出各国などは逆に、ホワイトハウスに対して、鉄鋼の主要貿易相手国に適用除外を認めるようロビー活動を積極化している。彼らは、鉄鋼輸入関税は米消費者にとって物価上昇につながる、と問題点を指摘する。25%の鉄鋼関税の可能性を織り込んで、米国内の鉄鋼価格は過去数週間に急上昇し、輸入品よりも20%余り割高の水準となっている。
しかし、トランプ大統領が1期目に発動した鉄鋼、アルミニウムへの関税を再度発動するのは、その後の適用除外措置、特にバイデン政権のもとでとられた措置によって関税が骨抜きになってしまったことから、関税の有効性を取り戻す狙いがある。そのため、今回は、安易に適用除外措置を認めるとは考えにくい。
ラトニック米商務長官は9日のニュース番組で、鉄鋼とアルミニウムの関税が予定通り12日に発動されるか問われ、「イエス」と答えるとともに、猶予措置を想定していないことを示唆した。
鉄鋼に25%の関税で日本のGDP押し下げ効果は0.01%程度
現在、武藤経産相は訪米しており、ラトニック商務長官、米通商代表部(USTR)のグリア代表、国家経済会議(NEC)のハセット委員長らと面会して、鉄鋼、アルミ、あるいは自動車などその他の輸入品への関税から日本を適用除外とするように働きかける。日本時間の11日午前に武藤経産相は記者会見を行い、一連の会談の成果を語る見通しだ。
2024年の対米輸出額で、鉄鋼は3,027億円に対して、アルミニウムは約246億円と計算される。対米輸出全体のそれぞれ1.4%、0.12%である。対米自動車輸出に25%の関税が課される場合、それは日本のGDP(名目及び実質)を0.2%程度押し下げると見込まれるが、鉄鋼への25%の関税の場合には、日本のGDPの押し下げ効果は0.01%程度にとどまると試算される。
2024年の対米輸出額で、鉄鋼は3,027億円に対して、アルミニウムは約246億円と計算される。対米輸出全体のそれぞれ1.4%、0.12%である。対米自動車輸出に25%の関税が課される場合、それは日本のGDP(名目及び実質)を0.2%程度押し下げると見込まれるが、鉄鋼への25%の関税の場合には、日本のGDPの押し下げ効果は0.01%程度にとどまると試算される。
鉄鋼全体への関税適用免除は難しいが品目によっては適用除外を得られるか
トランプ大統領が示唆したオーストラリア以外の対米主要鉄鋼輸出国は、関税の適用を免れることは難しく、日本も対象となる可能性は高い。ただし、国としての適用除外を得るのは難しいとしても、米国での製造が多くない日本の鉄鋼製品については、適用が除外されるものが出てくるだろう。
2020年8月時点の日本経済新聞社の報道によると、2018年3月に発動された鉄鋼とアルミニウムの追加関税について、約7割の日本製品が適用を除外されていることが分かったという。自動車用の高機能な鋼材などの分野については、米国では十分な量を作れず、引き続き日本から輸入に依存しているためだ(コラム「トランプ政権が鉄鋼・アルミ関税導入へ:日本への影響は?」、2025年2月10日)。
米国向け鉄鋼輸出では、「普通鋼」よりも、鋼材に特別な性能を持たせるためにクロムやニッケルなどの材料を特殊配合した「特殊鋼」の割合が高いという特徴がある。米国の自動車メーカーなどの注文に合わせて調整された特殊鋼については、関税の適用を免れる可能性はあるだろう。
2020年8月時点の日本経済新聞社の報道によると、2018年3月に発動された鉄鋼とアルミニウムの追加関税について、約7割の日本製品が適用を除外されていることが分かったという。自動車用の高機能な鋼材などの分野については、米国では十分な量を作れず、引き続き日本から輸入に依存しているためだ(コラム「トランプ政権が鉄鋼・アルミ関税導入へ:日本への影響は?」、2025年2月10日)。
米国向け鉄鋼輸出では、「普通鋼」よりも、鋼材に特別な性能を持たせるためにクロムやニッケルなどの材料を特殊配合した「特殊鋼」の割合が高いという特徴がある。米国の自動車メーカーなどの注文に合わせて調整された特殊鋼については、関税の適用を免れる可能性はあるだろう。
自動車関税回避の見通しは明るくない
他方、武藤経産相の最大のミッションは、鉄鋼・アルミよりも格段に日本経済への打撃が大きい、対米自動車輸出への関税の適用除外をトランプ政権に認めてもらうことだろう。自動車については、トランプ大統領は、4月2日に関税を発動するとしている。日本が自動車関税を免れるかどうかについては、引き続き見通しは明るくない。
(参考資料)
「米鉄鋼大手首脳、関税適用除外を認めぬようトランプ政権に要請」、2025年3月10日、ブルームバーグ
(参考資料)
「米鉄鋼大手首脳、関税適用除外を認めぬようトランプ政権に要請」、2025年3月10日、ブルームバーグ
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。