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商品券問題で石破政権の支持率が大幅に低下

石破政権の支持率が大幅に低下している。日本経済新聞社とテレビ東京が3月21~23日に実施した世論調査では、石破内閣の支持率は35%で、2月の前回調査と比べ5%ポイント低下した。2024年10月の政権発足以来、初めて4割を割り込み最低水準を更新している。
 
さらに、産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が22、23日に実施した世論調査では、石破内閣の支持率は30.4%と、2月の前回調査から13.9%ポイントも下落し、やはり2024年10月の政権発足以来最低となった。一方、不支持率は同12.9%ポイント上昇の63.0%となり、政権発足以降で初めて6割を超えた。石破首相が衆院議員1期生に商品券を配布した問題が、このような支持率の一段の下落をもたらした可能性が考えられる。
 
また、この問題が、政府・与党が目指す年度内の予算成立の新たな障害となっている。野党側は商品券問題について、さらなる審議を求めている。

石破首相が「強力な物価高対策」に言及

こうした混乱した政治情勢の中、石破首相は、支持率回復、政権浮揚を視野に入れて、「強力な物価高対策」に言及した。石破首相は25日に、公明党の斉藤代表と会談し、2025年度予算成立後に強力な物価高対策を打ち出す考えを伝えた。斉藤氏は、対策を打ち出す時期について、「予算が成立すれば間を置かずに、という趣旨だと理解した」と記者団に説明している。
 
その後林官房長官は、以下のように発言している。「石破総理の発言は新たな予算措置を打ち出すということを申し上げたものではなく、6年度補正や7年度予算に盛り込んだあらゆる政策を総動員し、物価動向やその上昇が家計や事業活動に与える影響に細心の注意を払いつつ、物価高の克服に取り組んでいくという決意を申し上げたものであると承知をしております」
 
林官房長官は、新たな物価高対策が予算案の再修正や2025年度補正予算で賄われるとの観測を打ち消したのである。新たな予算措置が必要となれば、野党からさらなる審議が求められ、2025年度予算の成立が一段とずれ込むことを警戒したとみられる。
 
ただし、石破首相が支持率回復、政権浮揚を狙って新たな物価高対策の実施を掲げれば、それは野党に新たな議論の機会を与え、予算審議を長引かせることになる可能性は否定できない。その結果、予算の成立がずれ込むと、国民からの批判も高まり、逆に支持率低下につながってしまうリスクもあるのではないか。

コメの価格安定に向けて政府備蓄米の追加放出も辞さない考え

国民民主党の玉木雄一郎代表は25日の記者会見で、電気料金の引き下げなどを柱とする新たな経済対策を、28日にも取りまとめる方針を示している。今夏は猛暑が予想されることから、「(電気料金に上乗せされる)再生可能エネルギー賦課金をやめる」と述べた。さらに経済対策には、早ければ6月にガソリン税の暫定税率を廃止することや、所得税の課税最低ライン「年収103万円の壁」を178万円に引き上げるという従来からの国民民主党の案も盛り込まれるという。 
 
現時点で、石破首相が考える物価高対策の具体案については明らかではないが、石破首相は24日の自民党役員会で、コメの価格高騰をふまえ、政府備蓄米の追加放出も辞さない考えを示している。今週2回目の入札を予定しているとした上で、「必要ならば、躊躇なくさらなる対応を行う」と述べた。
 
1月の消費者物価統計で、コメ類の価格は、前月比+6.6%と2か月連続で上昇率を高めた。前年同月比は+80.9%と1月の+70.9%を大きく上回り、過去最大の上昇率を記録している。コメ類の価格上昇は、CPIを前年同月比で+0.5%押し上げている。コメの価格高騰は、足もとの物価の上振れと消費マインドの悪化の主要な要因の一つになっていると考えられることから、政府がコメの価格安定に向けて積極的な対応を講じることは望ましい。

ガソリン暫定税率の議論が進む可能性も

さらに、新たな物価高対策となれば、エネルギー価格の安定に向けた補助金制度の拡大も選択肢となるだろう。自民党の松山参院幹事長は25日の記者会見で、政府のガソリン補助金について「さらなる補助金のかさ上げも含めて国民生活を少しでも楽にする必要がある」と指摘した。
 
政府は、全国レギュラーガソリンの平均価格が1リットル175円になるように補助金を調整していたが、昨年年末から補助金の削減を2段階で進め、現在は1リットル185円程度としている。補助金を再び増額することで、ガソリンの平均価格を引き下げることが、今後検討される可能性があるだろう。
 
さらに、ガソリン暫定税率の議論が進む可能性も考えられる。石破首相は、国民民主党と合意しているガソリンの暫定税率廃止を履行する考えであるが、財源確保が実施の条件であることを強調している。暫定税率を廃止すれば、年間約1.5兆円の税収減となるためだ。そのうえで、ガソリン税の暫定税率の廃止を決める時期については、「今年12月をめどとするのは一つの見識」との考えを示してきた。2026年4月の暫定税率廃止を想定した発言と考えられる。
 
2026年度の予算案、税制改正案を成立させるための野党との取引の一つにこの暫定税率の廃止を利用する狙いがあるのではないか(コラム「ガソリン暫定税率の廃止は来年4月か:世帯当たりのガソリン費負担は年間9,670円減少」、2025年3月6日)。しかし、新たな物価高対策実施を明言するなかでは、国民民主党の要求を受け入れて、これよりも前倒しで暫定税率を廃止する可能性も考えられるだろう。

少なくとも参院選挙までは財政拡張策は続くか

衆院で少数与党の自民党及び政府は、新たな国民の支持率低下に見舞われている。支持率回復と政権浮揚、そして国会での安定した法案審議を行うためには、野党の主張を受け入れて、財政拡張的な経済政策をさらに進めることを強いられている。
 
野放図な財政拡張には、経済の潜在力を削ぎ、いずれは金融市場の安定を大きく損ねるリスクがある。石破政権は、このような問題点は認識しているものと考えられるが、少なくとも7月の参院選挙までは、そうした状況を政府・自民党が変えることは難しいだろう。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。