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グローバルな株価大幅下落の連鎖が続く

トランプ政権が米国時間の4月2日に発表した相互関税策を受けて、世界の金融市場は大きく動揺している。関税がもたらす世界経済及び米国経済への悪影響を懸念して、3日の米国市場でダウ平均株価は1,600ドルを超える大幅下落となった。これを受けて、4日の東京市場でも日経平均株価は前日に続いて大幅に下落し、3万4千円を下回った。米国での利下げ観測を映して米国の10年国債利回りが4%ちょうどまで低下したことや金融市場のリスク回避傾向の高まりを反映して、ドル円レートは一時145円台までドル安円高が進み、これが日本株の下落を加速させている。
 
日経平均株価は当面3万円台前半で推移する可能性が出てきた。仮に米国が景気後退に陥る可能性が高まれば、ドル円レートは1ドル130円台、日経平均株価は2 万円台にそれぞれ突入の可能性が出てくるだろう。
 
日本でも長期国債利回りの低下が顕著になっており、4日には10年国債利回りは1.2%台まで低下している。米国での長期国債利回り低下と、日本株の下落の影響を受けたリスク回避傾向が背景にある。
 
それに加え、相互関税の規模が事前予想を上回り、世界の金融市場が動揺したことを受け、日本銀行が早期に追加利上げに踏み切る可能性が低下した、との見方も長期国債利回りの低下を促している。4日に植田日銀総裁は、「米国の関税の日本経済・物価への影響を十分注視し金融政策の決定に役立てたい」「関税の日本経済・物価への影響について、会合でしっかり議論する」と慎重なトーンの発言をしており、早期の追加利上げ観測の後退につながっている。

国別実質関税率の杜撰な算出

トランプ大統領は3日、関税について相手国との交渉の余地があるかとの問いに答え、「もし誰かが、何か驚くべきものを提示すると言って、彼らが何か良いものを与えてくれる限りはだ」とコメントした。関税の見直しについて交渉の余地があることを認めたコメントとも解釈できるが、仮にそうであっても「何か驚くべきもの」という表現からは、かなりの高いハードルを感じられる。
 
日本は米国製品に対する実質関税率が46%であり、その半分程度の24%の相互関税を課すことがトランプ政権から発表された。この実質関税率については、米国の対日貿易赤字を日本からの輸入額で割って100を掛けて算出された、とメディアで指摘されている。他の国についても、同様の計算で算出された関税率が実際に発表されたものと一致するとされる。
 
仮にそうであれば、世界経済、企業、金融市場を大きく揺るがす相互関税の税率を、ほぼ根拠がないと言える方法で算出していたことになり、それは許しがたい。

関税率のさらなる引き上げを検討する可能性も

この計算方法の背景にある考え方は、「米国への輸出と同額の輸入を日本が米国から行うのが自然であるなか、実際に輸入額が輸出額に届かずに対米貿易赤字が生じるのであれば、それは関税あるいは非関税障壁の結果である」といったものだろう。これはかなり独善的な考えであるが、トランプ政権がそのように考えている可能性がある。
 
そのもとでは、仮にトランプ政権が日本の非関税障壁とみなしている要因、例えば自動車の環境・安全基準、為替政策などについて改善に取り組む姿勢を、日本政府がトランプ政権に示すとしても、トランプ政権が日本への関税を見直すことにはならないだろう。
 
以上の実質関税の計算は、「貿易赤字額に非関税障壁が反映されている」、「数字がすべてを物語っている」という考えであるから、実際に対日貿易赤字が大幅に減少する、あるいはそれを確実にするような相当思い切った方策を日本が提示しない限り、トランプ政権は関税の見直しに応じないのではないか。これはかなり高いハードルであり、その結果、日本への24%の相互関税は当面維持されることを覚悟しなければならないだろう。
 
トランプ政権は、米国の貿易赤字の解消を強く目指している。そのもとで、実績を重視するトランプ政権は、対日貿易赤字が今後目立って減少しない場合に、関税率をさらに引き上げるなど追加措置を検討する可能性もあるだろう。筆者の計算によると、米国の対日貿易赤字を解消するには、関税率を60%まで引き上げる必要があり、その結果、対日貿易赤字を解消させると、それにより、日本のGDPを直接1.4%押し下げられる計算となる(コラム「日本の対米貿易黒字解消手段を検証:輸出品全体に60%の関税で黒字解消:GDPは1.4%低下」、2025年3月17日)。

プロフィール

  • 木内 登英のポートレート

    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。