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石破首相は22日夜に、5月22日からガソリン価格を段階的に1リットル当たり10円引き下げる考えを明らかにした。185円を起点とした場合、5月29日には180円、6月5日には179円とし、その後は1週間ごとに1円ずつ引き下げ、7月3日には累計で10円下がって175円になるという。

その場合、ガソリン価格は2022年のウクライナ侵攻直後の水準まで下がる。2022年1月にガソリン補助制度を開始した時点では、ガソリン価格の平均は、補助金の影響を除いて1リットル当たり173.4円、補助金の影響を受けた実際の小売価格は170円程度だった。

消費者にとっては、最終的に、現在と比べて1リットル10円程度、購入するガソリン価格が低下することになる。2023年の1世帯当たり(2人以上)のガソリン消費額は7万237円だった。ガソリン価格が平均で約10円低下、現在のガソリン価格で約5.7%低下すると、家計の負担は年間4,004円程度減少する計算となる(コラム「12月19日からの補助金縮小開始でガソリン価格は来年にかけて10円程度上昇:家計に年間4,000円程度の負担増も暫定税率が廃止されれば約9,600円の負担減に」、2024年12月18日)。

自民、公明、国民民主3党が昨年12月11日に、ガソリン税に上乗せされている「暫定税率」の廃止で合意した。これが実現すれば、ガソリン価格は1リットル当たり25.1円安くなる。そうなれば、ガソリン価格は13.6%程度下落し(1リットル185円で計算)、家計の負担は一転して年間9,552円程度減少する計算となる。ただし、暫定税率を廃止する時期は決まっていない。今回の措置は、法改正が必要ですぐには実施できない暫定税率廃止までのつなぎの措置との位置づけだろう。

ただし、トランプ関税の影響を受けた海外での原油価格低下や円高進行の影響で、足もとの輸入原油価格は円換算で急速な低下傾向にある。そのため、4月21日の週のガソリン平均価格は、182.7円と予想されている。この予想価格が政府の目標価格である185円を下回っていることから、4月17日から補助金は実施されていない。これは2022年1月に同制度が始まって以来、初めてのことである。

この先も円高傾向が続き、輸入原油価格の円換算での低下傾向が続けば、政府はガソリン補助金を実施しなくても、ガソリン価格は着実に低下傾向を辿るだろう。この点を踏まえると、今回の補助金によるガソリン価格押し下げ策が果たして必要であるのか、またその実施時期が適切であったのか、という問題は残るだろう。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。