自公は秋の補正予算編成で合意
自民党の森山幹事長、公明党の西田幹事長らは13日に、夏の参院選前に策定する経済対策の裏付けとして、秋に補正予算案を編成する必要があるとの認識で一致した。
補正予算編成は先月にも一度検討されたことがある。ただし、その時は物価高対策を中心とし、6月22日までの通常国会期間中に補正予算を編成する計画だった。しかし、本予算成立直後の補正予算編成は異例であり、それを正当化するほどの経済環境の急変は見られなかったと言える。
また当初、政府・自民党内では現金給付が検討されたが、現金給付は効果が薄いとして消費税減税などを求める野党の声が急速に高まった。野党の反対が強ければ、通常国会期間中での補正予算編成は難しくなることから、政府はそれを断念したという経緯がある。
補正予算の裏づけがない場合には、経済対策の規模は限られる。政府は補助金によるガソリンの1リットル当たり10円の価格押し下げと電気・ガス補助金制度の再導入を決めた。
補正予算編成は先月にも一度検討されたことがある。ただし、その時は物価高対策を中心とし、6月22日までの通常国会期間中に補正予算を編成する計画だった。しかし、本予算成立直後の補正予算編成は異例であり、それを正当化するほどの経済環境の急変は見られなかったと言える。
また当初、政府・自民党内では現金給付が検討されたが、現金給付は効果が薄いとして消費税減税などを求める野党の声が急速に高まった。野党の反対が強ければ、通常国会期間中での補正予算編成は難しくなることから、政府はそれを断念したという経緯がある。
補正予算の裏づけがない場合には、経済対策の規模は限られる。政府は補助金によるガソリンの1リットル当たり10円の価格押し下げと電気・ガス補助金制度の再導入を決めた。
与野党内で消費税減税を求める声は収まらない
しかしそれ以降も、消費税減税などの景気対策を求める野党の声は収まらなかった。さらに、公明党や自民党内からも、消費税減税を求める声が強まっていった。参院選で消費税減税を公約に掲げるか否かを巡って、立憲民主党には分裂の危機さえ生じた。同様に、消費税減税を巡る賛否が、自民党や自民党と公明党の連立を揺るがすリスクも意識され始めたのではないか。
自民党の高市・前経済安全保障担当大臣も13日に、「みんなが等しく食べるものについて、税率がゼロというのはハッピーな話だ。本当に困っている人がいる時に国が減税を惜しむことはおかしい」と述べ、食料品を対象とする軽減税率をゼロ%に引き下げるべきだという考えを公然と示した。
連立与党内での消費税減税の主張を抑える狙いもあって、自民党の森山幹事長は秋に補正予算を編成し、相応規模の経済対策を実施することを公明党に約束したのではないかと推察される。
公明党は、減税や現金給付について財源も含めて議論すべき、と主張したが、減税や現金給付の具体策への言及はなかったという。森山幹事長は記者会見で、「すべてを検討対象にして間違いない政策を決めていくことが大事だ」として、経済対策から減税や現金給付を排除しない考えを示した。現金給付や何らかの減税策を盛り込んだ経済対策の実施を掲げて、与党は参院選に臨むことになるのではないか。
ただし秋に補正予算編成を伴う経済対策を実施することは、もはや恒例行事となっている。それを参院選で打ち出すことが、どの程度国民の関心を引くことになるかについては不確実だ。
自民党の高市・前経済安全保障担当大臣も13日に、「みんなが等しく食べるものについて、税率がゼロというのはハッピーな話だ。本当に困っている人がいる時に国が減税を惜しむことはおかしい」と述べ、食料品を対象とする軽減税率をゼロ%に引き下げるべきだという考えを公然と示した。
連立与党内での消費税減税の主張を抑える狙いもあって、自民党の森山幹事長は秋に補正予算を編成し、相応規模の経済対策を実施することを公明党に約束したのではないかと推察される。
公明党は、減税や現金給付について財源も含めて議論すべき、と主張したが、減税や現金給付の具体策への言及はなかったという。森山幹事長は記者会見で、「すべてを検討対象にして間違いない政策を決めていくことが大事だ」として、経済対策から減税や現金給付を排除しない考えを示した。現金給付や何らかの減税策を盛り込んだ経済対策の実施を掲げて、与党は参院選に臨むことになるのではないか。
ただし秋に補正予算編成を伴う経済対策を実施することは、もはや恒例行事となっている。それを参院選で打ち出すことが、どの程度国民の関心を引くことになるかについては不確実だ。
政府と自民党執行部の消費税減税に否定的な姿勢は揺らいでいない
他方で、政府と自民党執行部の消費税減税に否定的な姿勢は揺らいでいない。森山幹事長は13日の記者会見で、「トランプ関税」によって「景気に影響があることが予測されるので、当然対応が必要になる」と経済対策の必要性を訴える一方、消費減税については「社会保障の財源をどこに求めるかと一体でなければ、おかしな議論になる」と否定的な見解を改めて示した。
また国会では石破首相が、野党から示された「国民の暮らしを守るために消費減税が必要」との主張に対して、「社会保障の財源をどうするかということもあわせて、ご議論ください。将来が不安だ、年金はどうなる、医療はどうなる。それがどれほど厳しい状況にあるかを話さず、消費税減税だけの話をするのは無責任な議論だ」、「選挙のためではない、次の時代のために責任を持つのが我々の矜持(きょうじ)であると説いて参りたい」などと語った。これらは全く正論であると感じる。政府と自民党執行部が消費税減税に否定的である中では、消費税減税が実施される可能性は低い。
また国会では石破首相が、野党から示された「国民の暮らしを守るために消費減税が必要」との主張に対して、「社会保障の財源をどうするかということもあわせて、ご議論ください。将来が不安だ、年金はどうなる、医療はどうなる。それがどれほど厳しい状況にあるかを話さず、消費税減税だけの話をするのは無責任な議論だ」、「選挙のためではない、次の時代のために責任を持つのが我々の矜持(きょうじ)であると説いて参りたい」などと語った。これらは全く正論であると感じる。政府と自民党執行部が消費税減税に否定的である中では、消費税減税が実施される可能性は低い。
消費減税には大きなリスクに見合う経済効果は期待できない
仮に消費税率を2%恒久的に引き下げても、それは実質GDPを1年間で0.43%程度押し上げる程度の効果にとどまり、しかも翌年からは成長率の押し上げ効果は急速に萎むことが見込まれる(コラム「自民党が消費税に関する勉強会:政府・自民党が消費税減税を見送る方針を固めたとの報道も」、2025年5月9日)。
他方、社会保障費の財源と位置付けられる消費税収の恒久的な減少には、社会保障制度の安定を損ねてしまうリスクがある。消費税減税の税収減を赤字国債で賄う場合には、現役世代と将来世代との不公平感を強める、将来の需要を前借するため将来の民間需要への期待が後退し経済の潜在力を損ねる、将来的に財政危機のリスクを高めるなど、様々な問題を生じさせる。消費税減税には、こうした大きなリスクに見合う経済効果は期待できないのである。
時限的な減税として始めても、再び税率を上げることは難しくなることから、なし崩し的に恒久減税となり、そのコストが大きく膨らむ可能性が高い。
他方、社会保障費の財源と位置付けられる消費税収の恒久的な減少には、社会保障制度の安定を損ねてしまうリスクがある。消費税減税の税収減を赤字国債で賄う場合には、現役世代と将来世代との不公平感を強める、将来の需要を前借するため将来の民間需要への期待が後退し経済の潜在力を損ねる、将来的に財政危機のリスクを高めるなど、様々な問題を生じさせる。消費税減税には、こうした大きなリスクに見合う経済効果は期待できないのである。
時限的な減税として始めても、再び税率を上げることは難しくなることから、なし崩し的に恒久減税となり、そのコストが大きく膨らむ可能性が高い。
経済対策は、それぞれの特性に合わせた対策を
経済対策は、それぞれの特性に合わせた対策を適切に選びとる必要がある。海外で原油価格が下落し、円安が修正される中では、輸入物価の上昇に根差すエネルギー価格、食料品価格の上昇はこの先沈静化していく可能性が考えられる。そうした環境の下での現在の物価高対策は、コメの価格対策に集中すべきだ。政府備蓄米の買戻し要件がコメの価格の低下を阻む要因になっているのであれば、その見直しを検討しても良いだろう。
一時的な経済の落ち込みに対しては、一時的に需要を創出する対策や、そうした環境のもとで特に打撃を受けやすい低所得層に絞ったセーフティネット強化策を講じるべきだ。トランプ関税の影響は一時的な性格が強いと見られることから、恒久的な消費税減税で対応するのは適当でない。
現時点では、トランプ関税の影響がどの程度であるかは依然として測りがたい。特に不確実性の大きな高まりが、企業や個人の経済活動に与える影響はまだよくわからない。そのため、トランプ関税の影響を把握してから、適切な時期に時限的な経済対策を講じるべきだ。それには、低所得層をターゲットにした所得制限付きの給付金が妥当なのではないか。
他方、日本経済の長期的な低迷への対策としては、需要創出策ではなくサプライサイドの政策が有効であり、経済の生産性、潜在力を高める成長戦略、構造改革を講じるべきだ。
(参考資料)
「自公、秋に補正予算案編成で一致 公明「減税と給付議論を」」、2025年5月13日、日本経済新聞電子版
「石破首相:首相、減税攻勢イラッ 野党に「決めつけるな」 経済対策、議論停滞」、2025年5月13日、毎日新聞
一時的な経済の落ち込みに対しては、一時的に需要を創出する対策や、そうした環境のもとで特に打撃を受けやすい低所得層に絞ったセーフティネット強化策を講じるべきだ。トランプ関税の影響は一時的な性格が強いと見られることから、恒久的な消費税減税で対応するのは適当でない。
現時点では、トランプ関税の影響がどの程度であるかは依然として測りがたい。特に不確実性の大きな高まりが、企業や個人の経済活動に与える影響はまだよくわからない。そのため、トランプ関税の影響を把握してから、適切な時期に時限的な経済対策を講じるべきだ。それには、低所得層をターゲットにした所得制限付きの給付金が妥当なのではないか。
他方、日本経済の長期的な低迷への対策としては、需要創出策ではなくサプライサイドの政策が有効であり、経済の生産性、潜在力を高める成長戦略、構造改革を講じるべきだ。
(参考資料)
「自公、秋に補正予算案編成で一致 公明「減税と給付議論を」」、2025年5月13日、日本経済新聞電子版
「石破首相:首相、減税攻勢イラッ 野党に「決めつけるな」 経済対策、議論停滞」、2025年5月13日、毎日新聞
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。