国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税に違法判決
米国際貿易裁判所は5月28日に、トランプ政権が「国際緊急経済権限法(IEEPA)」を根拠にして発動した中国、メキシコ・カナダへの一律関税と、すべての国に課した相互関税が違法であるとする略式判決を出した。トランプ関税にいよいよ司法の壁が立ちはだかったのである(コラム「国際緊急経済権限法に基づきトランプ大統領はカナダ、メキシコ、中国の3か国に一律関税適用を決定:今後の一律関税拡大は法律の壁など『4つの壁』に阻まれる可能性」、2025年2月3日)。
米国憲法上は、関税引き上げは連邦議会の権限であるが、トランプ政権はその1期目にも、通商法を根拠に、大統領権限で関税策を発動してきた。具体的には国家の安全保障を脅かす場合の制裁関税に通商法第232条、不公正貿易に対する制裁措置の発動を認める通商法第301条の2つである。
しかし2期目の関税は、国ごとに一律に課すものや、すべての国に課すものなど、その対象が劇的に拡大した。この点で、商務省や米通商代表部(USTR)に制裁措置の発動決定前に綿密な調査を求める通商法を根拠とするのは難しかった。そこでトランプ政権が考え出した苦肉の策が、IEEPAだったのである。国の安全保障、外交政策、経済に対する異例かつ重大な脅威を受けて大統領が緊急事態を宣言した場合、大統領にそれに対処する権限を与える法律だ。
ただしこの法律に基づいて関税が実施されたことは今まではなかった。従来、この法律は、海外のテロ国やテロ組織に対して金融制裁を課すことに使われてきた。同法の条文で、大統領が発動できる制裁措置の例示の中に、関税措置は入っていない。この点から、この法律に基づく関税の発動は、裁判所の判断が示すように大統領の権限を逸脱している恐れがあるだろう。
さらにもう一点問題なのは、この法律に基づいて制裁措置を発動する際には、事前に議会と協議することが求められているが、実際にはトランプ政権はその手続きを踏んでいないとみられる。この点も、違法性が強く疑われる。
米国憲法上は、関税引き上げは連邦議会の権限であるが、トランプ政権はその1期目にも、通商法を根拠に、大統領権限で関税策を発動してきた。具体的には国家の安全保障を脅かす場合の制裁関税に通商法第232条、不公正貿易に対する制裁措置の発動を認める通商法第301条の2つである。
しかし2期目の関税は、国ごとに一律に課すものや、すべての国に課すものなど、その対象が劇的に拡大した。この点で、商務省や米通商代表部(USTR)に制裁措置の発動決定前に綿密な調査を求める通商法を根拠とするのは難しかった。そこでトランプ政権が考え出した苦肉の策が、IEEPAだったのである。国の安全保障、外交政策、経済に対する異例かつ重大な脅威を受けて大統領が緊急事態を宣言した場合、大統領にそれに対処する権限を与える法律だ。
ただしこの法律に基づいて関税が実施されたことは今まではなかった。従来、この法律は、海外のテロ国やテロ組織に対して金融制裁を課すことに使われてきた。同法の条文で、大統領が発動できる制裁措置の例示の中に、関税措置は入っていない。この点から、この法律に基づく関税の発動は、裁判所の判断が示すように大統領の権限を逸脱している恐れがあるだろう。
さらにもう一点問題なのは、この法律に基づいて制裁措置を発動する際には、事前に議会と協議することが求められているが、実際にはトランプ政権はその手続きを踏んでいないとみられる。この点も、違法性が強く疑われる。
法律の壁にも阻まれ遠くない将来にトランプ関税は見直しへ
米国際貿易裁判所から違法判断が下されたからと言って、直ぐにトランプ政権の関税策が撤回される訳ではない。トランプ政権は控訴する可能性が高いからだ。また、最終的に違法が確定するとしても、それまでには相当の時間がかかるだろう。
さらに、違法が確定した場合には、IEEPAから、他の法律、例えば巨額かつ深刻な("large and serious")貿易赤字が発生している場合、最大15%の関税賦課を大統領に認める通商法第122条、あるいはスムート・ホーリー関税法(1930年)などを新たに根拠法とすることで、一律関税や相互関税を続けることも可能であるかもしれない。
しかしながら、今後、関税の影響で輸入原材料や製品の価格が上昇すれば、企業や個人の間でトランプ関税への不満が高まり、その結果、訴訟も増えていく可能性もある。そうなれば、トランプ政権も関税策を大きく見直すことが避けられなくなるだろう。今後数か月のうちにもそうした転換点があるものと見ておきたい。
さらに、違法が確定した場合には、IEEPAから、他の法律、例えば巨額かつ深刻な("large and serious")貿易赤字が発生している場合、最大15%の関税賦課を大統領に認める通商法第122条、あるいはスムート・ホーリー関税法(1930年)などを新たに根拠法とすることで、一律関税や相互関税を続けることも可能であるかもしれない。
しかしながら、今後、関税の影響で輸入原材料や製品の価格が上昇すれば、企業や個人の間でトランプ関税への不満が高まり、その結果、訴訟も増えていく可能性もある。そうなれば、トランプ政権も関税策を大きく見直すことが避けられなくなるだろう。今後数か月のうちにもそうした転換点があるものと見ておきたい。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。