日米関税協議では両国の間になお溝
4回目の日米関税協議が、米国時間の30日にワシントンで行われた。具体的な協議の中身は明らかにされていないが、両国は、合意に向けた議論が進展していることを確認した、と説明している。また両国は、来月のG7サミットでの日米首脳会談の前に、再び協議を行うことで一致した。
赤沢大臣は協議後に、「パッケージ全体として合意が成り立つかが重要」「国益を守りながら早期の合意に全力で取り組んでいく」と従来の考えを繰り返し述べた。また、一連の関税措置の見直しがかなわなければ、合意することは困難である、との考えを改めて強調した。
日本側は自動車の25%等を含むすべての追加関税の見直しを求めているが、米国側は現時点でそれに応じる姿勢は見せていないとみられる。この点から両者の溝はなお大きい。また、赤沢大臣は限定的な範囲で合意する暫定合意、部分合意には反対の姿勢とみられる。この点からも、日米関税協議の合意は全く見えていない状況だ。来月のG7サミットでの日米首脳会談は一つの節目となるだろうが、そこで協議がどの程度進むかは依然として見通せない。
今回の協議では、日本側から中国が輸出を規制したレアアースの確保、半導体のサプライチェーンでの両国で協力などが米国側に新たに示されたとみられる。日米関税協議が、中国を念頭に置いた経済安全保障の連携強化に重点がやや移っている印象だ(コラム「日米首脳電話会談と第4回日米関税協議:関税協議は中国を念頭に置いた日米の経済安全保障政策の連携強化が新たな焦点に」、2025年5月30日)。
赤沢大臣は協議後に、「パッケージ全体として合意が成り立つかが重要」「国益を守りながら早期の合意に全力で取り組んでいく」と従来の考えを繰り返し述べた。また、一連の関税措置の見直しがかなわなければ、合意することは困難である、との考えを改めて強調した。
日本側は自動車の25%等を含むすべての追加関税の見直しを求めているが、米国側は現時点でそれに応じる姿勢は見せていないとみられる。この点から両者の溝はなお大きい。また、赤沢大臣は限定的な範囲で合意する暫定合意、部分合意には反対の姿勢とみられる。この点からも、日米関税協議の合意は全く見えていない状況だ。来月のG7サミットでの日米首脳会談は一つの節目となるだろうが、そこで協議がどの程度進むかは依然として見通せない。
今回の協議では、日本側から中国が輸出を規制したレアアースの確保、半導体のサプライチェーンでの両国で協力などが米国側に新たに示されたとみられる。日米関税協議が、中国を念頭に置いた経済安全保障の連携強化に重点がやや移っている印象だ(コラム「日米首脳電話会談と第4回日米関税協議:関税協議は中国を念頭に置いた日米の経済安全保障政策の連携強化が新たな焦点に」、2025年5月30日)。
トランプ大統領は関税政策の維持、強化の姿勢を崩さず
他方、関税率を互いに115%引き下げた電撃的な5月12日の米中貿易合意を受けて始まった米中関税協議について、トランプ大統領は30日に、「中国は米国との合意を完全に破った」と強く批判した。関税交渉を担うベッセント財務長官も29日に、米中関税協議は「少し停滞している」と話していた。米通商代表部(USTR)のグリア代表も30日に、「中国が合意の履行を遅らせている。まったく受け入れられない」と批判している。中国が合意を破った、あるいは履行を遅らせているとの彼らの発言が具体的には何を指しているかは明らかではない。
トランプ大統領は、高い関税によって「中国は深刻な経済危機に陥った」とし、その中国を助けるために関税率の大幅引き下げを認めたにもかかわらず、その後中国は合意を破り、いわば「恩を仇で返した」と批判しているが、米中貿易合意で米国が中国を助けたと考える向きは少ないだろう。高い関税に耐えられなくなったトランプ政権が中国に関税率の引き下げを呼びかけた、というのが実態だろう。
ただし、トランプ大統領のこうした中国批判は、関税策を巡る先行きの見通しのリスクを高めるものだ。5月12日の米中貿易合意でトランプ関税は最悪期を過ぎた、との見方も一時広がったが、その後、関税協議が進まない欧州連合(EU)に対して50%の関税、アップル社のiphoneに対して25%の関税を課す考えを示している。
また、30日にトランプ大統領は、輸入鉄鋼の関税を25%から50%に引き上げる考えを突然明らかにするなど、関税政策を継続、あるいは強化する強気の姿勢を維持している。トランプ関税による世界経済や金融市場へのリスクは、なお大きく残されたままだ。
トランプ大統領は、高い関税によって「中国は深刻な経済危機に陥った」とし、その中国を助けるために関税率の大幅引き下げを認めたにもかかわらず、その後中国は合意を破り、いわば「恩を仇で返した」と批判しているが、米中貿易合意で米国が中国を助けたと考える向きは少ないだろう。高い関税に耐えられなくなったトランプ政権が中国に関税率の引き下げを呼びかけた、というのが実態だろう。
ただし、トランプ大統領のこうした中国批判は、関税策を巡る先行きの見通しのリスクを高めるものだ。5月12日の米中貿易合意でトランプ関税は最悪期を過ぎた、との見方も一時広がったが、その後、関税協議が進まない欧州連合(EU)に対して50%の関税、アップル社のiphoneに対して25%の関税を課す考えを示している。
また、30日にトランプ大統領は、輸入鉄鋼の関税を25%から50%に引き上げる考えを突然明らかにするなど、関税政策を継続、あるいは強化する強気の姿勢を維持している。トランプ関税による世界経済や金融市場へのリスクは、なお大きく残されたままだ。
プロフィール
-
木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。