朝日新聞が11日に報じたところでは、自民、公明両党が参院選の公約とし検討している物価高対策のための給付について、所得制限は設けず、全国民を対象に1人あたり現金2万円を給付し、さらに住民税非課税世帯に対して2万円を上乗せする方向で調整しているという(コラム「自民党が1人当たり数万円の給付を検討:3万円でGDP0.16%押し上げ:消費税減税よりは良いが低所得者を対象にすべき」、2025年6月10日)。以下ではその経済効果を試算しよう。
総務省の人口統計によると、5月時点の人口総数は1億2,334万人である。全国民に一律2万円が給付される場合、その総額は2兆4,668億円と計算できる。他方、国民生活基礎調査(令和3年国民生活基礎調査)によると、2021年の全世帯数に占める住民税非課税世帯の割合は23.7%だった。さらに2023年の全世帯数は5,445.2万であったことから、住民税非課税世帯数は1,290.5万と推定される。そこに2万円給付されれば、総額は2,581億円となる。両者の合計は2兆7,249億円である。
この給付金は、実質GDPを1年間で0.12%押し上げる計算となる(図表)。ちなみにこの給付金の規模は消費税率の1%引き下げ分に概ね相当するが、それは実質GDPを1年間で0.12%押し上げる。同じお金を使っても消費税減税の効果の半分程度しかない、という点を野党は指摘するだろう。
しかし、この物価高対策で重要なのは、どの程度景気浮揚を生み出すかではなく、どの程度物価高による国民生活の圧迫を和らげるか、痛みを和らげることができるかにある。消費税減税は仮に一時的な措置として始めても、再び元の水準に戻すことは難しく、結局、恒久減税となりやすい。
その場合、消費税減税は税収基盤を損ね、財税環境を悪化し、国民負担を増加させ、経済の潜在力を低下させてしまうなど弊害が大きい。そうしたコストに見合った経済効果は期待できず、消費税率全体を2%引き下げ、あるいは食料品など軽減税率を0%まで引き下げても、1年間の実質GDPの押し上げ効果は+0.43%程度と試算され、さらに2年目以降は成長率の押し上げ効果は剥落していく。短期間の効果しか期待できないのである。
この点を踏まえると、物価高から国民生活を守る施策としては、野党が揃って主張する消費税減税よりも、与党の給付金の方が妥当と考えられる。
ただし、与党は、住民税非課税世帯など低所得者層に絞って給付すべきだ。物価高でも生活に余裕のある世帯、個人に給付をする必要はないだろう。また、住民税非課税世帯への給付のみにすれば、同じ金額(2兆7,249億円)でも、世帯当たり21万円給付することが可能となり、物価高で苦しむ低所得層をより強く支援することができる。
(参考資料)
「全国民に2万円、住民税非課税世帯に2万円上乗せ 与党の給付案判明」、2025年6月11日、朝日新聞
総務省の人口統計によると、5月時点の人口総数は1億2,334万人である。全国民に一律2万円が給付される場合、その総額は2兆4,668億円と計算できる。他方、国民生活基礎調査(令和3年国民生活基礎調査)によると、2021年の全世帯数に占める住民税非課税世帯の割合は23.7%だった。さらに2023年の全世帯数は5,445.2万であったことから、住民税非課税世帯数は1,290.5万と推定される。そこに2万円給付されれば、総額は2,581億円となる。両者の合計は2兆7,249億円である。
この給付金は、実質GDPを1年間で0.12%押し上げる計算となる(図表)。ちなみにこの給付金の規模は消費税率の1%引き下げ分に概ね相当するが、それは実質GDPを1年間で0.12%押し上げる。同じお金を使っても消費税減税の効果の半分程度しかない、という点を野党は指摘するだろう。
しかし、この物価高対策で重要なのは、どの程度景気浮揚を生み出すかではなく、どの程度物価高による国民生活の圧迫を和らげるか、痛みを和らげることができるかにある。消費税減税は仮に一時的な措置として始めても、再び元の水準に戻すことは難しく、結局、恒久減税となりやすい。
その場合、消費税減税は税収基盤を損ね、財税環境を悪化し、国民負担を増加させ、経済の潜在力を低下させてしまうなど弊害が大きい。そうしたコストに見合った経済効果は期待できず、消費税率全体を2%引き下げ、あるいは食料品など軽減税率を0%まで引き下げても、1年間の実質GDPの押し上げ効果は+0.43%程度と試算され、さらに2年目以降は成長率の押し上げ効果は剥落していく。短期間の効果しか期待できないのである。
この点を踏まえると、物価高から国民生活を守る施策としては、野党が揃って主張する消費税減税よりも、与党の給付金の方が妥当と考えられる。
ただし、与党は、住民税非課税世帯など低所得者層に絞って給付すべきだ。物価高でも生活に余裕のある世帯、個人に給付をする必要はないだろう。また、住民税非課税世帯への給付のみにすれば、同じ金額(2兆7,249億円)でも、世帯当たり21万円給付することが可能となり、物価高で苦しむ低所得層をより強く支援することができる。
図表 一律2万円、住民税非課税世帯2万円上乗せ給付の経済効果

(参考資料)
「全国民に2万円、住民税非課税世帯に2万円上乗せ 与党の給付案判明」、2025年6月11日、朝日新聞
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。