日本は引き続き「監視対象国」
米財務省は5日に、主要な貿易相手国・地域の為替政策を分析・評価した、半期に一度の外国為替政策報告書を公表した。日本や中国を引き続き為替政策の「監視対象国」としたうえで、新たにアイルランドとスイスを加え、計9か国とした。他には韓国、台湾、シンガポール、ベトナム、ドイツがある。制裁の検討対象となる「為替操作国」の認定はなかった。
監視対象リストへの追加や為替操作国・地域の認定については、以下の3つの基準をもとに判断される。
1) 過去12か月間の対米財・サービス貿易黒字額が150億ドル以上
2) 過去12か月間の経常収支対名目GDP比率が3%以上
3) 過去12か月間に8か月以上の為替介入が行われ、かつその実施額がGDPの2%以上
米財務省はこの3つの基準のうち2つ当てはまる場合などに、その国を監視対象としている。日本は、経常黒字のGDP比率と対米貿易黒字額が基準を上回ったことで、監視対象となった。
中国に対しては、為替介入の実績開示などで不透明さが際立つと批判した。「為替介入の証拠が将来見つかった場合に(為替操作国に)指定することを排除しない」と指摘した。
報告書は、日本の為替政策の運用については透明性が高いと評価している。一方で「介入は適切な事前協議を経た上で、極めて例外的な状況に限定されるべきだ」と指摘した。
監視対象リストへの追加や為替操作国・地域の認定については、以下の3つの基準をもとに判断される。
1) 過去12か月間の対米財・サービス貿易黒字額が150億ドル以上
2) 過去12か月間の経常収支対名目GDP比率が3%以上
3) 過去12か月間に8か月以上の為替介入が行われ、かつその実施額がGDPの2%以上
米財務省はこの3つの基準のうち2つ当てはまる場合などに、その国を監視対象としている。日本は、経常黒字のGDP比率と対米貿易黒字額が基準を上回ったことで、監視対象となった。
中国に対しては、為替介入の実績開示などで不透明さが際立つと批判した。「為替介入の証拠が将来見つかった場合に(為替操作国に)指定することを排除しない」と指摘した。
報告書は、日本の為替政策の運用については透明性が高いと評価している。一方で「介入は適切な事前協議を経た上で、極めて例外的な状況に限定されるべきだ」と指摘した。
公的年金基金を通じた事実上の円安誘導を牽制
日本についての記述で見逃せないのは、「大規模な公的年金基金など政府系投資機関は、リスクを加味した収益や分散投資のために海外に投資すべきで、競争力を念頭に為替相場を目的にすべきではない」とした点だ。
日本については、為替介入を通じて円安誘導を図っているとの明確な批判はしていないが、公的年金基金の海外投資を通じて、事実上円安誘導をしているとの批判をやんわりと伝えている。
日本については、為替介入を通じて円安誘導を図っているとの明確な批判はしていないが、公的年金基金の海外投資を通じて、事実上円安誘導をしているとの批判をやんわりと伝えている。
日銀の金融引き締め政策による円安是正効果を評価
さらに注目されるのは、「日銀の金融引き締め政策は、日本経済の成長率やインフレ率を含むファンダメンタルズ(基礎的条件)に応じて継続的に進められるべきで、これによりドルに対する円安の正常化や必要とされている両国貿易の構造的再均衡化を後押しすることになる」との記述を新たに加えたことだ。これは、日本銀行の追加利上げを通じて円安修正が進むことを、米国政府が期待していることを示すものだ。
現在、日米関税協議と並行して行われている日米為替協議では、日本に対して、円安是正やドル安政策への協力を明確に求めるようなことを、トランプ政権はしていないとみられる。しかし、日米為替協議を続けていることは、トランプ政権が日本に対して、将来的に何らかの対応を為替に関して求める狙いがあるのではないか。
現在、日米関税協議と並行して行われている日米為替協議では、日本に対して、円安是正やドル安政策への協力を明確に求めるようなことを、トランプ政権はしていないとみられる。しかし、日米為替協議を続けていることは、トランプ政権が日本に対して、将来的に何らかの対応を為替に関して求める狙いがあるのではないか。
トランプ政権は関税策からドル安へと経済政策の軸足を移していく可能性
米中貿易合意にも表れているように、関税政策は米国経済や金融市場に打撃を与えており、米国の貿易赤字の削減や米国経済の活性化を狙った関税策には行き詰まりがみられている。それがより明確になった時点で、トランプ政権は関税策からドル安へと、政策の軸足を移す可能性がある(コラム「トランプ関税の次はドル安政策か:トリフィンの流動性ジレンマとミランの『マールアラーゴ合意』」、2025年5月8日)。今回の為替報告書の記述には、その布石が盛り込まれているとの解釈も可能ではないか。
日本に対しては、為替介入に加えて、日本銀行の追加利上げを通じて円安修正を進め、あるいは米国のドル安政策への協力を求める可能性があるだろう。実際には、日本銀行がトランプ政権の求めに応じて追加利上げを進める可能性は低いが、日本銀行自体は追加利上げに前向きであり、金融市場ではトランプ政権の要請も一部受け入れて日本銀行は追加利上げを進める、との観測が広がり、それがドル安円高を後押しする可能性があるのではないか。
日本に対しては、為替介入に加えて、日本銀行の追加利上げを通じて円安修正を進め、あるいは米国のドル安政策への協力を求める可能性があるだろう。実際には、日本銀行がトランプ政権の求めに応じて追加利上げを進める可能性は低いが、日本銀行自体は追加利上げに前向きであり、金融市場ではトランプ政権の要請も一部受け入れて日本銀行は追加利上げを進める、との観測が広がり、それがドル安円高を後押しする可能性があるのではないか。
ベッセント財務長官が次期FRB議長に指名されるとの観測が浮上
他方、トランプ政権も、ドル売りの為替介入に加えて、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げを通じてドル安政策を進めることを既に検討している可能性がある。
トランプ大統領はパウエル議長に対して利下げ実施を強く要求しているが、パウエル議長はそれに応じていない。トランプ大統領はそうしたパウエル議長を解任することは、法的ハードルが高いことから断念したとみられる。
しかし、パウエル議長の任期は2026年5月と既に1年を切っている。トランプ大統領は早めに利下げに前向きな人物を後任に充てる人事を発表する考えを示しているが、それにはパウエル議長に圧力をかける狙いに加えて、金融市場で利下げ観測を強めることを通じて、ドル安誘導を行う狙いもあるのかもしれない。
ところで、トランプ大統領がパウエル議長の後任にベッセント財務長官の起用を検討しているとの報道が出ている。その真偽は定かではないが、ベッセント財務長官の起用が早めに発表されれば、ベッセント財務長官が「影のFRB議長」として、金融政策に影響を与えることができる可能性があるだろう。
ベッセント財務長官はトランプ政権の関税策で欠かすことができない人物であるが、その人物をFRB議長に起用するのであれば、トランプ政権が経済政策の重点を関税から金融緩和を通じた景気浮揚とドル安政策に移すことを狙っているためであるとも考えられる。
パウエル議長の後任には今までウォルシュ元FRB理事が有力とされていたが、彼はFRB時代にタカ派とされていた。トランプ大統領が金融緩和を通じた景気浮揚とドル安政策を進めるのであれば、ウォルシュ氏よりもベッセント財務長官の方が適任であるかもしれない。
パウエル議長の後任人事についてはまだ流動的であるが、トランプ大統領が、ドル安政策に本格的に着手するのであれば、その大きな転換の時期は、パウエル議長が任期を終える2026年5月となる可能性があるのではないか。そして、トランプ大統領が、パウエル議長の後任人事を早めに発表することで、政策転換をそれ以前から徐々に進めることを狙うことも考えられるだろう。
(参考資料)
「米為替報告、日銀の引き締め継続が「円安是正後押し」と新たに言及」、2025年6月6日、ロイター通信ニュース
「米財務省、日中の為替監視を継続ー「操作国」指定はなし」、2025年6月6日、共同通信ニュース
「米政府、中国の為替操作国の指定「排除せず」 為替報告書」、2025年6月6日、日本経済新聞電子版
トランプ大統領はパウエル議長に対して利下げ実施を強く要求しているが、パウエル議長はそれに応じていない。トランプ大統領はそうしたパウエル議長を解任することは、法的ハードルが高いことから断念したとみられる。
しかし、パウエル議長の任期は2026年5月と既に1年を切っている。トランプ大統領は早めに利下げに前向きな人物を後任に充てる人事を発表する考えを示しているが、それにはパウエル議長に圧力をかける狙いに加えて、金融市場で利下げ観測を強めることを通じて、ドル安誘導を行う狙いもあるのかもしれない。
ところで、トランプ大統領がパウエル議長の後任にベッセント財務長官の起用を検討しているとの報道が出ている。その真偽は定かではないが、ベッセント財務長官の起用が早めに発表されれば、ベッセント財務長官が「影のFRB議長」として、金融政策に影響を与えることができる可能性があるだろう。
ベッセント財務長官はトランプ政権の関税策で欠かすことができない人物であるが、その人物をFRB議長に起用するのであれば、トランプ政権が経済政策の重点を関税から金融緩和を通じた景気浮揚とドル安政策に移すことを狙っているためであるとも考えられる。
パウエル議長の後任には今までウォルシュ元FRB理事が有力とされていたが、彼はFRB時代にタカ派とされていた。トランプ大統領が金融緩和を通じた景気浮揚とドル安政策を進めるのであれば、ウォルシュ氏よりもベッセント財務長官の方が適任であるかもしれない。
パウエル議長の後任人事についてはまだ流動的であるが、トランプ大統領が、ドル安政策に本格的に着手するのであれば、その大きな転換の時期は、パウエル議長が任期を終える2026年5月となる可能性があるのではないか。そして、トランプ大統領が、パウエル議長の後任人事を早めに発表することで、政策転換をそれ以前から徐々に進めることを狙うことも考えられるだろう。
(参考資料)
「米為替報告、日銀の引き締め継続が「円安是正後押し」と新たに言及」、2025年6月6日、ロイター通信ニュース
「米財務省、日中の為替監視を継続ー「操作国」指定はなし」、2025年6月6日、共同通信ニュース
「米政府、中国の為替操作国の指定「排除せず」 為替報告書」、2025年6月6日、日本経済新聞電子版
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。