総裁記者会見は予想よりもハト派色
日本銀行は6月17日の金融政策決定会合で、金融政策の現状維持を決めた。想定を上回る規模でのトランプ関税の発表と4月の金融市場の混乱を受けて、前回5月1日の金融政策決定会合で、日本銀行は利上げを事実上一時停止する判断を示した。
しかしその後、世界的に金融市場は安定を取り戻している。また、5月には米中貿易合意で相互に課した関税が大幅に引き下げられた。また、主要国で経済が急速に悪化していることを示す経済指標は出ていない。前回会合以降、このような変化があったものの、利上げに慎重な日本銀行の姿勢は変わらず、想定以上にハト派であることが会合後の総裁記者会見からも感じ取ることができた。
植田総裁の記者会見のトーンは、会合毎に大きく振れる傾向がみられるが、今回はそうではなかった。想定以上にハト派の姿勢の背景には、今月の都議選や夏の参院選など、政治的な要因もあるかもしれない。
しかしその後、世界的に金融市場は安定を取り戻している。また、5月には米中貿易合意で相互に課した関税が大幅に引き下げられた。また、主要国で経済が急速に悪化していることを示す経済指標は出ていない。前回会合以降、このような変化があったものの、利上げに慎重な日本銀行の姿勢は変わらず、想定以上にハト派であることが会合後の総裁記者会見からも感じ取ることができた。
植田総裁の記者会見のトーンは、会合毎に大きく振れる傾向がみられるが、今回はそうではなかった。想定以上にハト派の姿勢の背景には、今月の都議選や夏の参院選など、政治的な要因もあるかもしれない。
利上げ再開は年末、年明けといった時間軸となるか
対外公表文にも記載され、総裁もなんども発言している、いわばキーワードが「海外の経済・物価動向を巡る不確実性は極めて高く」という言葉だろう。これはトランプ関税がもたらす影響を意味しているが、こうした慎重な言葉が使われている間は、追加利上げは視野に入っていないことが示唆されている可能性がある。そのため、この表現がいつ修正されるかに、今後は注目しておきたい。
植田総裁は、センチメントを示す経済指標には弱いものが見られるが、ハードデータはしっかりしているとしている。センチメントの指標に先行性があるとすると、その悪化が遅れてハードデータに表れてくることから、それを見極めるまでには時間がかかる。また、日米関税協議が合意に達し、関税が引き下げられても、それ以前の関税の経済への影響を見極める必要があることから、関税協議の合意が利上げの条件になる訳ではないとの説明もしている。
植田総裁は、トランプ関税の影響が顕在化し、その程度を見極められるのは年後半とのニュアンスで話していたように感じられる。そうであれば、関税の悪影響がそれほど深刻なものでないことが見極められるとしても、利上げを再開するとしても、年末か年明けといった時間軸になるのではないか。
植田総裁は、センチメントを示す経済指標には弱いものが見られるが、ハードデータはしっかりしているとしている。センチメントの指標に先行性があるとすると、その悪化が遅れてハードデータに表れてくることから、それを見極めるまでには時間がかかる。また、日米関税協議が合意に達し、関税が引き下げられても、それ以前の関税の経済への影響を見極める必要があることから、関税協議の合意が利上げの条件になる訳ではないとの説明もしている。
植田総裁は、トランプ関税の影響が顕在化し、その程度を見極められるのは年後半とのニュアンスで話していたように感じられる。そうであれば、関税の悪影響がそれほど深刻なものでないことが見極められるとしても、利上げを再開するとしても、年末か年明けといった時間軸になるのではないか。
金融政策はビハインドザカーブに陥っていない
記者からは、足もとでの物価上昇率を上振れが金融政策判断に与える影響についても質問があった。日本銀行の金融政策がビハインドザカーブになってしまうリスクについても質問がなされた。
植田総裁は、コメの価格高騰やその他食料品、エネルギー価格高騰はコストプッシュ型の一時的なインフレであり、持続的でないとの見方を示した。また、それらも先行き次第に減衰していくとの見方も示した。足もとでの物価上昇率の上振れを理由に利上げを急ぐことはないだろう。ただし、コストプッシュ型の一時的な物価上昇率の上振れであっても、それが賃金やインフレ期待を通じて基調的な物価上昇率に影響を与えるという2次的効果には注意するとするが、その見極めにも時間がかかることを総裁は示唆している。
こうした説明を踏まえると、日本銀行が近い将来、利上げを再開する可能性は低いのではないか。
植田総裁は、コメの価格高騰やその他食料品、エネルギー価格高騰はコストプッシュ型の一時的なインフレであり、持続的でないとの見方を示した。また、それらも先行き次第に減衰していくとの見方も示した。足もとでの物価上昇率の上振れを理由に利上げを急ぐことはないだろう。ただし、コストプッシュ型の一時的な物価上昇率の上振れであっても、それが賃金やインフレ期待を通じて基調的な物価上昇率に影響を与えるという2次的効果には注意するとするが、その見極めにも時間がかかることを総裁は示唆している。
こうした説明を踏まえると、日本銀行が近い将来、利上げを再開する可能性は低いのではないか。
国債買い入れ減額ペースの縮小は将来の金利の不安定さを未然に防ぐ措置
今回の会合では、長期国債買い入れの減額計画について、2026年4月以降の方針を示した。減額は今まで通りに維持するが、買い入れ額の減額ペースは現状の四半期ごとに4,000億円から2,000億円に縮小する。
足もとでは超長期の金利が大きく上振れたことから、それが日本銀行の新たな長期国債買い入れの減額計画にどのような影響を与えるかが注目された。その影響を日本銀行が深刻に捉えるのであれば、現時点での買いれ減額ペースを修正していたと思うが、それはなかった。現在ではなく将来の減額ペースの修正を決めたことについて植田総裁は、「将来の金利の不安定さを未然に防ぐ措置というのが基本的な考え方」と説明している。
植田総裁は、金利は市場で形成されるべきというのが基本的な考え方である一方、日本銀行が保有する国債の残高削減を通じた市場機能の改善と、急速に国債買い入れを減額する場合の市場を不安定化させてしまうリスクのバランスで今回の措置を決めたと説明している。
買い入れ額の減額ペースを、2026年4月以降は四半期ごとに4,000億円から2,000億円に縮小することを決めたことは、足もとでの超長期の金利上昇に配慮した措置、との受け止められ方が多いが、実際には当初からの既定路線だったのではないか。四半期ごとに4,000億円減額規模を拡大すると、当初は減額規模の拡大ペースはわずかだが、時間が経つに従って減額規模は膨らんでいき、国債残高の削減ペースが加速度的に高まってしまうからだ(コラム「日本銀行は予想通りに国債買い入れ減額計画の継続と減額ペースの縮小を決定:国債市場の機能回復と安定維持の両立を目指す」、2025年6月17日)。
なお、主たる金融政策手段は短期金利の調節であり、国債買い入れ減額や国債残高の削減は金融政策ではない、との考えが変わらないことを、総裁は改めて強調した。
足もとでは超長期の金利が大きく上振れたことから、それが日本銀行の新たな長期国債買い入れの減額計画にどのような影響を与えるかが注目された。その影響を日本銀行が深刻に捉えるのであれば、現時点での買いれ減額ペースを修正していたと思うが、それはなかった。現在ではなく将来の減額ペースの修正を決めたことについて植田総裁は、「将来の金利の不安定さを未然に防ぐ措置というのが基本的な考え方」と説明している。
植田総裁は、金利は市場で形成されるべきというのが基本的な考え方である一方、日本銀行が保有する国債の残高削減を通じた市場機能の改善と、急速に国債買い入れを減額する場合の市場を不安定化させてしまうリスクのバランスで今回の措置を決めたと説明している。
買い入れ額の減額ペースを、2026年4月以降は四半期ごとに4,000億円から2,000億円に縮小することを決めたことは、足もとでの超長期の金利上昇に配慮した措置、との受け止められ方が多いが、実際には当初からの既定路線だったのではないか。四半期ごとに4,000億円減額規模を拡大すると、当初は減額規模の拡大ペースはわずかだが、時間が経つに従って減額規模は膨らんでいき、国債残高の削減ペースが加速度的に高まってしまうからだ(コラム「日本銀行は予想通りに国債買い入れ減額計画の継続と減額ペースの縮小を決定:国債市場の機能回復と安定維持の両立を目指す」、2025年6月17日)。
なお、主たる金融政策手段は短期金利の調節であり、国債買い入れ減額や国債残高の削減は金融政策ではない、との考えが変わらないことを、総裁は改めて強調した。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。