金融政策の基本姿勢に変化が見られなかった点が予想外
米連邦準備制度理事会(FRB)は6月17・18日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)で、大方の予想通りに政策金利を据え置くことを決定した。予想外であったのは、前回5月、あるいは前々回3月のFOMCと比較して、金融政策の基本姿勢に変化が見られなかったことだ。
声明文では、前回会合以降の金融市場の安定回復や関税引き下げでの米中合意を受けて、経済の先行きを巡る不確実性は依然として高いものの、「やや緩和された」との認識が示された。
FOMC参加者による経済・物価見通しについては、今年10-12月期の実質GDP成長率見通しの中央値は前年同期比+1.4%と、前回3月から0.3%ポイント引き下げられた。他方、PCE物価指数上昇率については、+2.7%から+3.0%へと引き上げられた。景気については下方リスク、物価については上昇リスクがそれぞれ高まる形であり、結果として金融政策は従来の様子見姿勢が維持された。
パウエル議長は会合後の記者会見で、「政策スタンスの調整を検討する前に、経済の見通しについてより多くの情報を待てる状況にある」とこれまでと同様の見解を改めて示した。また、利下げの判断には「インフレ率が低下しているという確信が必要だ」と述べている。さらに、関税によるインフレへの影響は今後数か月で顕在化するだろうとも指摘し、「夏にかけて一層表れる」との見通しを示した。金融政策は今後発表される経済・物価指標次第、との姿勢である。
他方、FOMC参加者によるFF金利の見通しによると、年内に想定される利下げ回数の中央値は前回と同様2回だった。ただし、年内利下げを行わないことを予想する数は増えており、金融緩和姿勢はやや後退している。
FRBの利下げ実施は最短で今年9月と考えるが、後ずれする可能性が高まっており、また、年内の利下げ回数は1回あるいは2回と見ておきたい。
声明文では、前回会合以降の金融市場の安定回復や関税引き下げでの米中合意を受けて、経済の先行きを巡る不確実性は依然として高いものの、「やや緩和された」との認識が示された。
FOMC参加者による経済・物価見通しについては、今年10-12月期の実質GDP成長率見通しの中央値は前年同期比+1.4%と、前回3月から0.3%ポイント引き下げられた。他方、PCE物価指数上昇率については、+2.7%から+3.0%へと引き上げられた。景気については下方リスク、物価については上昇リスクがそれぞれ高まる形であり、結果として金融政策は従来の様子見姿勢が維持された。
パウエル議長は会合後の記者会見で、「政策スタンスの調整を検討する前に、経済の見通しについてより多くの情報を待てる状況にある」とこれまでと同様の見解を改めて示した。また、利下げの判断には「インフレ率が低下しているという確信が必要だ」と述べている。さらに、関税によるインフレへの影響は今後数か月で顕在化するだろうとも指摘し、「夏にかけて一層表れる」との見通しを示した。金融政策は今後発表される経済・物価指標次第、との姿勢である。
他方、FOMC参加者によるFF金利の見通しによると、年内に想定される利下げ回数の中央値は前回と同様2回だった。ただし、年内利下げを行わないことを予想する数は増えており、金融緩和姿勢はやや後退している。
FRBの利下げ実施は最短で今年9月と考えるが、後ずれする可能性が高まっており、また、年内の利下げ回数は1回あるいは2回と見ておきたい。
パウエル議長への利下げ要求は続く
FRBによる政策金利据え置きの決定を受けてトランプ大統領は、パウエル議長を「利下げを拒否する男がいる。愚かな人間だ」と改めて痛烈に批判した。
トランプ大統領がFRBに利下げを求める背景には、トランプ関税による米国経済へのマイナス効果を利下げの景気浮揚効果で相殺する狙いがある。
さらにトランプ大統領は、政府債務の利払い負担を減らすためにも利下げをするように訴えている。ただし、インフレリスクが高まるなか、FRBが拙速に利下げを行えば、金融市場の中長期のインフレ期待(予想物価上昇率)は上振れ、その分長期金利が上昇して政府債務の利払い負担を逆に増やしてしまう可能性もある。この点から、トランプ大統領の主張は的を射ていない。
さらに、今後は貿易赤字の削減を狙ったドル安政策の手段として、トランプ大統領はFRBの利下げを利用する可能性もあるだろう。
トランプ大統領がFRBに利下げを求める背景には、トランプ関税による米国経済へのマイナス効果を利下げの景気浮揚効果で相殺する狙いがある。
さらにトランプ大統領は、政府債務の利払い負担を減らすためにも利下げをするように訴えている。ただし、インフレリスクが高まるなか、FRBが拙速に利下げを行えば、金融市場の中長期のインフレ期待(予想物価上昇率)は上振れ、その分長期金利が上昇して政府債務の利払い負担を逆に増やしてしまう可能性もある。この点から、トランプ大統領の主張は的を射ていない。
さらに、今後は貿易赤字の削減を狙ったドル安政策の手段として、トランプ大統領はFRBの利下げを利用する可能性もあるだろう。
FRB議長の後任人事とドル安政策
パウエル議長の任期は2026年5月と既に1年を切っている。トランプ大統領は早めに利下げに前向きな人物を後任に充てる人事を発表する考えを示しているが、それにはパウエル議長に圧力をかける狙いに加えて、金融市場で利下げ観測を強めることを通じて、ドル安誘導を行う狙いもあるのかもしれない(コラム「米国為替報告書は日銀の利上げによる円安是正効果を評価:ベッセント財務長官のFRB議長起用でトランプ政権の政策は関税からドル安に軸足を移すか」、2025年6月13日)。
トランプ大統領がパウエル議長の後任にベッセント財務長官の起用を検討しているとの報道が出ている。その真偽は明らかではないが、ベッセント財務長官の起用が早めに発表されれば、ベッセント財務長官が「影のFRB議長」として、金融政策に影響を与えることができる可能性があるだろう。
ベッセント財務長官はトランプ政権の関税策で欠かすことができない人物であるが、その人物をFRB議長に起用するのであれば、トランプ政権が経済政策の重点を関税から金融緩和を通じた景気浮揚とドル安政策に移すことを狙っているためであるとも考えられるのではないか。
パウエル議長の後任にはこれまでウォルシュ元FRB理事が有力とされていたが、彼はFRB時代にタカ派とされていた。トランプ大統領が金融緩和を通じた景気浮揚とドル安政策を進めるのであれば、ウォルシュ氏よりもベッセント財務長官の方が適任であるかもしれない。
パウエル議長の後任人事についてはまだ流動的であるが、トランプ大統領が、ドル安政策に本格的に着手するのであれば、その大きな転換となる時期は、パウエル議長が任期を終える2026年5月となる可能性があるのではないか。そして、トランプ大統領が、パウエル議長の後任人事を早めに発表することで、政策転換をそれ以前から徐々に進めることを狙うことも考えられるだろう。
トランプ大統領がパウエル議長の後任にベッセント財務長官の起用を検討しているとの報道が出ている。その真偽は明らかではないが、ベッセント財務長官の起用が早めに発表されれば、ベッセント財務長官が「影のFRB議長」として、金融政策に影響を与えることができる可能性があるだろう。
ベッセント財務長官はトランプ政権の関税策で欠かすことができない人物であるが、その人物をFRB議長に起用するのであれば、トランプ政権が経済政策の重点を関税から金融緩和を通じた景気浮揚とドル安政策に移すことを狙っているためであるとも考えられるのではないか。
パウエル議長の後任にはこれまでウォルシュ元FRB理事が有力とされていたが、彼はFRB時代にタカ派とされていた。トランプ大統領が金融緩和を通じた景気浮揚とドル安政策を進めるのであれば、ウォルシュ氏よりもベッセント財務長官の方が適任であるかもしれない。
パウエル議長の後任人事についてはまだ流動的であるが、トランプ大統領が、ドル安政策に本格的に着手するのであれば、その大きな転換となる時期は、パウエル議長が任期を終える2026年5月となる可能性があるのではないか。そして、トランプ大統領が、パウエル議長の後任人事を早めに発表することで、政策転換をそれ以前から徐々に進めることを狙うことも考えられるだろう。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。