「1つの大きく美しい法案(OBBB)」可決で米国財政赤字は10年間で3.4兆ドル拡大
米国の議会下院は7月3日に、トランプ政権の目玉政策である減税恒久化を含む関連法案、「一つの大きく美しい法案(OBBB)」を可決した。同法案は既に上院でも可決されており、大統領の署名を経て4日に発効する見通しだ。上下両院とも、同法案は一部の共和党議員の反対でその可決が危ぶまれたが、トランプ大統領自らの説得工作などによって、目標としてきた7月4日に間に合った。
同関連法案の中核は、2017年のトランプ第1期政権下で発効し、2025年末に期限を迎える大型減税の恒久化措置だ。それ以外に、トランプ大統領が選挙公約に掲げたチップ収入や残業手当への課税免除措置が、2028年末までの時限措置として含まれる。国境管理の強化、次世代ミサイル防衛構想「ゴールデンドーム」の関連支出、米国内で工場を建設する半導体メーカーなどへの税額控除の拡大など盛り込まれた。一方で、財政赤字の拡大を抑える観点から、バイデン前政権がクリーンエネルギー推進のため導入した電気自動車(EV)購入の税制優遇措置の廃止や、低所得者向け公的医療保険「メディケイド」の歳出減なども含まれた。
また、連邦政府の債務上限は5兆ドル引き上げられる。5月にベッセント財務長官は、債務上限が引き上げられない場合には、連邦政府の財政資金が8月に枯渇し、デフォルト(債務不履行)に陥る、と警鐘を鳴らしていた。
債務上限が引き上げられたことと、上院案に当初含まれていた、海外企業や投資家に対して課税を強化する「報復税」が除外されたこと(コラム「『報復税』撤回と国際最低課税合意からの米国除外:減税恒久化関連法案の上院審議は依然難航」、2025年6月30日)の2点は、金融市場にとっては好材料となった。
しかし、同法案成立による財政赤字の拡大は、米国債やドルの信認を損ね、ドル離れや米国金融市場の不安定化リスクを高めるものだ。同法が実行されれば、財政赤字は今後10年間で3兆4千億ドル増えると、米議会予算局(CBO)は試算している。
同関連法案の中核は、2017年のトランプ第1期政権下で発効し、2025年末に期限を迎える大型減税の恒久化措置だ。それ以外に、トランプ大統領が選挙公約に掲げたチップ収入や残業手当への課税免除措置が、2028年末までの時限措置として含まれる。国境管理の強化、次世代ミサイル防衛構想「ゴールデンドーム」の関連支出、米国内で工場を建設する半導体メーカーなどへの税額控除の拡大など盛り込まれた。一方で、財政赤字の拡大を抑える観点から、バイデン前政権がクリーンエネルギー推進のため導入した電気自動車(EV)購入の税制優遇措置の廃止や、低所得者向け公的医療保険「メディケイド」の歳出減なども含まれた。
また、連邦政府の債務上限は5兆ドル引き上げられる。5月にベッセント財務長官は、債務上限が引き上げられない場合には、連邦政府の財政資金が8月に枯渇し、デフォルト(債務不履行)に陥る、と警鐘を鳴らしていた。
債務上限が引き上げられたことと、上院案に当初含まれていた、海外企業や投資家に対して課税を強化する「報復税」が除外されたこと(コラム「『報復税』撤回と国際最低課税合意からの米国除外:減税恒久化関連法案の上院審議は依然難航」、2025年6月30日)の2点は、金融市場にとっては好材料となった。
しかし、同法案成立による財政赤字の拡大は、米国債やドルの信認を損ね、ドル離れや米国金融市場の不安定化リスクを高めるものだ。同法が実行されれば、財政赤字は今後10年間で3兆4千億ドル増えると、米議会予算局(CBO)は試算している。
法案可決はトランプ関税の見直しを後押しするか
この「1つの大きく美しい法案(OBBB)」とトランプ関税とは互いに深く関わる。他国にかける関税は自国民への増税であるため、トランプ関税は米国経済に打撃となる。同法案で減税措置を恒久化することで経済を支え、トランプ関税による経済への悪影響を相殺する狙いがトランプ政権にはある。
他方で、減税措置恒久化による財政悪化を警戒する共和党議員に同法案を賛成させるため、関税引き上げによる政府の収入増加によって減税措置恒久化の財源が確保できる、とトランプ政権は説明してきたという経緯もある。
同法案が成立すれば、トランプ政権は無理に財源確保のために関税策を維持する必要はなくなる。今後、関税による米国経済、物価への悪影響が顕在化し、国民の不満が高まれば、トランプ政権が関税を縮小方向で見直す可能性が出てくる。それを制約する要因が、同法案成立によって一つなくなる。
(参考資料)
「米減税法案、議会を通過―10年間で財政赤字490兆円増」、2025年7月4日、共同通信ニュース
「米減税法案が成立へ、市場で勝ち組選別 半導体・再エネ株に関心」、2025年7月4日、日本経済新聞電子版
他方で、減税措置恒久化による財政悪化を警戒する共和党議員に同法案を賛成させるため、関税引き上げによる政府の収入増加によって減税措置恒久化の財源が確保できる、とトランプ政権は説明してきたという経緯もある。
同法案が成立すれば、トランプ政権は無理に財源確保のために関税策を維持する必要はなくなる。今後、関税による米国経済、物価への悪影響が顕在化し、国民の不満が高まれば、トランプ政権が関税を縮小方向で見直す可能性が出てくる。それを制約する要因が、同法案成立によって一つなくなる。
(参考資料)
「米減税法案、議会を通過―10年間で財政赤字490兆円増」、2025年7月4日、共同通信ニュース
「米減税法案が成立へ、市場で勝ち組選別 半導体・再エネ株に関心」、2025年7月4日、日本経済新聞電子版
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。