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8月1日召集の臨時国会では日米関税交渉合意について審議される

林官房長官は7月29日の衆参両院の議院運営委員会理事会で、8月1日に臨時国会を召集することを伝達した。会期について自民党は5日間を提案しているが、野党側は難色を示しており、まだ確定していない。
 
今回の臨時国会は、参院選後の新たな参議院議長など院の構成を決める目的で召集される。参議院議長は自民党の関口氏が続投する見通しであるが、参院の委員長ポストについては、立憲民主党は、与党の参院での議席過半数割れを受けて、国会運営の中核となる予算委員長や議院運営委員長などのポストを野党に譲るように与党に求めている。常任委員長ポストは15人以上の会派に割り当てられるため、参院で15議席を持った参政党もそのポストを獲得する見通しだ。
 
そうした参院での人事に加えて、今回は、実質的な審議として日米関税交渉合意の内容の議論が予定されている。合意内容が明確でないことから、立憲民主党の野田代表は、「トランプ米大統領と合意文書を交わすべきだ」と主張している。8月4日に首相が出席する衆院予算委員会で集中審議を行う。そこでは、関税措置による国内経済への影響と対策が主な論点となる見込みだ。参院も5日に予算委員会を実施し、日米関税合意を受けた審議を行う方向だ。

ガソリン税の暫定税率の廃止が参院選後の財政政策の試金石に

さらに野党はこの臨時国会にガソリン税の暫定税率廃止法案を共同提出する方針を確認した。立憲民主党、日本維新の会、国民民主党など野党8党は29日に、ガソリン税の暫定税率について、11月1日の廃止を目指す方針で一致した。秋の臨時国会での成立を視野に入れている。
 
自民党の坂本国会対策委員長は、「ガソリン税の暫定税率の廃止法案については、財源確保を図ったうえで予算を固めるのが常道なので、年度の途中で税を扱うことは反対だ」とし、審議に応じることに慎重な姿勢を見せている。他方で法案を巡り、速やかに与野党の協議体を作り、秋の臨時国会までに議論を進めていく考えを明らかにしている。
 
ガソリン税の暫定税率の廃止法案は、秋の臨時国会で成立する可能性が高まっているが、年間1.5兆円規模の財源の確保には目処が立っていない。財源を確保することなく、ガソリン税の暫定税率の廃止が決まれば、積極財政の傾向がより明らかとなり、財政リスクを意識して長期国債利回りの一段の上昇などが生じる可能性があるだろう。ガソリン税の暫定税率の廃止が参院選後の財政政策の試金石になる。
 
なお、ガソリン税の暫定税率が廃止されれば、世帯当たりのガソリン費負担は年間9,670円減少し、これが実質GDPを0.1%程度押し上げると試算される(コラム「ガソリン暫定税率の廃止は来年4月か:世帯当たりのガソリン費負担は年間9,670円減少」、2025年3月6日)。

消費税減税議論が年末にかけて本格化していく可能性も

さらに、秋の臨時国会では与党は参院選の公約に掲げていた給付金を、補正予算で実施することを目指す。これは立憲民主党の協力で実現する可能性が考えられるが、これをきっかけに、消費税減税議論が年末にかけて本格化していく可能性があるだろう。
 
参院選挙での与党大敗をきっかけに、積極財政による財政リスクがどの程度高まるか、金融市場は国会審議を注視することになるだろう。

プロフィール

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    木内 登英

    金融ITイノベーション事業本部

    エグゼクティブ・エコノミスト

    

    1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。