野党7党は11月1日にガソリン税の暫定税率を廃止する法案を提出
ガソリン税の暫定税率廃止を巡り、与野党6党は7月30日に、秋の臨時国会を念頭に必要な法案を成立させ、年内のできるだけ早い時期に廃止することで合意した。さらに8月1日に召集された臨時国会で野党7党は、ガソリン税の暫定税率を11月1日から廃止する法案を衆院に提出した。また、同日に与野党の初回の実務者協議を国会内で開き、代替財源の確保を含む制度設計の検討を始めた。
税制改正は、与党が12月に党の税制大綱をまとめ、年明けの通常国会に関連法案を提出して成立させるのが今まで通例だった。年内に減税が実現すれば異例なことであり、与党が衆参両院で過半数の議席を失い、政策実現の主導権を大きく低下させたことを象徴することとなる。
ただし、ガソリン税の暫定税率廃止を巡る与野党間の協議が今後順調に進むかどうかは分からない。与党は地方財政への影響も踏まえ、代替財源の確保を廃止の前提と考えているのに対して、野党は代替財源の確保を必ずしも前提としていないと考えられる。
代替財源の確保がないままガソリン税の暫定税率の廃止が決まれば、積極財政傾向が一段と高まるとの見方が強まるだろう。暫定税率の廃止は参院選後の財政政策を占う重要な試金石となり、その行方は金融市場にも大きな影響を与えるだろう。
財政健全化の姿勢をアピールする立憲民主党が与野党間での議論の橋渡し役を果たし、議論の着地に大きく影響するのではないか。
税制改正は、与党が12月に党の税制大綱をまとめ、年明けの通常国会に関連法案を提出して成立させるのが今まで通例だった。年内に減税が実現すれば異例なことであり、与党が衆参両院で過半数の議席を失い、政策実現の主導権を大きく低下させたことを象徴することとなる。
ただし、ガソリン税の暫定税率廃止を巡る与野党間の協議が今後順調に進むかどうかは分からない。与党は地方財政への影響も踏まえ、代替財源の確保を廃止の前提と考えているのに対して、野党は代替財源の確保を必ずしも前提としていないと考えられる。
代替財源の確保がないままガソリン税の暫定税率の廃止が決まれば、積極財政傾向が一段と高まるとの見方が強まるだろう。暫定税率の廃止は参院選後の財政政策を占う重要な試金石となり、その行方は金融市場にも大きな影響を与えるだろう。
財政健全化の姿勢をアピールする立憲民主党が与野党間での議論の橋渡し役を果たし、議論の着地に大きく影響するのではないか。
ガソリン税の暫定税率廃止で世帯当たりのガソリン費負担は年間9,670円減少
ガソリン税は、正式には国税の揮発油税と地方税の地方揮発油税で、石油から製造されたガソリンが出荷される際にかかる税金だ。本来の税額(本則)は1リットル当たり28.7円でそれに暫定部分の25.1円がかかり合計で53.8円となる。
野党が衆院に提出したガソリン税の暫定税率の廃止法案では暫定税率廃止に伴う減収を年約1兆205億円と見込んでいる。一方政府は、暫定税率の廃止により、年約1兆5千億円の税収減になると見積もっている。
両者の差は、ガソリン税と同様の仕組みで暫定税率が上乗せされている軽油引取税を対象に含めるかどうかの違いと考えられる。軽油引取税は地方税であり、暫定税率の廃止による地方財政への影響に配慮して、野党案はそれを対象から外していると考えられる。
ガソリン税の暫定税率が廃止され、その分ガソリン価格が低下する場合、世帯当たりのガソリン費負担は年間9,670円減少し、これが実質GDPを0.1%程度押し上げると試算される(コラム「ガソリン暫定税率の廃止は来年4月か:世帯当たりのガソリン費負担は年間9,670円減少」、2025年3月6日)。
野党が衆院に提出したガソリン税の暫定税率の廃止法案では暫定税率廃止に伴う減収を年約1兆205億円と見込んでいる。一方政府は、暫定税率の廃止により、年約1兆5千億円の税収減になると見積もっている。
両者の差は、ガソリン税と同様の仕組みで暫定税率が上乗せされている軽油引取税を対象に含めるかどうかの違いと考えられる。軽油引取税は地方税であり、暫定税率の廃止による地方財政への影響に配慮して、野党案はそれを対象から外していると考えられる。
ガソリン税の暫定税率が廃止され、その分ガソリン価格が低下する場合、世帯当たりのガソリン費負担は年間9,670円減少し、これが実質GDPを0.1%程度押し上げると試算される(コラム「ガソリン暫定税率の廃止は来年4月か:世帯当たりのガソリン費負担は年間9,670円減少」、2025年3月6日)。
ガソリン価格の引き下げよりも食料品価格の安定により注力すべき
ただし、1リットルあたり10円を支給する政府のガソリン補助金の効果もあり、ガソリン価格は現在、比較的低位で安定している。7月28日時点の全国レギュラーガソリン価格の平均は、1リットル約174円と、ロシアによるウクライナ侵攻前の2022年1月に補助金制度が導入された際の価格に近いものだ。こうした中、ガソリン税の暫定税率廃止が物価高対策として最優先の施策であるかについては疑問もある。
暫定税率廃止によるガソリン価格引き下げには、ガソリン消費を促し、政府の脱炭素政策と矛盾するという面や、代替財源を確保できない場合には、財政環境を一段と悪化させてしまうという問題がある。代替財源の確保に最大限努めるべきだ。
さらに、足もとでの予想外の物価上昇率の上振れは、コメを含む食料品価格の高騰が主因であり、物価上昇を抑えるという意味での物価高対策であれば、ガソリン価格の引き下げよりも食料品価格の安定により注力すべきだろう。
暫定税率廃止によるガソリン価格引き下げには、ガソリン消費を促し、政府の脱炭素政策と矛盾するという面や、代替財源を確保できない場合には、財政環境を一段と悪化させてしまうという問題がある。代替財源の確保に最大限努めるべきだ。
さらに、足もとでの予想外の物価上昇率の上振れは、コメを含む食料品価格の高騰が主因であり、物価上昇を抑えるという意味での物価高対策であれば、ガソリン価格の引き下げよりも食料品価格の安定により注力すべきだろう。
低所得層に対象を絞った給付金を
また、物価高によって生活を圧迫された人を支援するという意味での物価高対策という観点からも、暫定税率廃止によるガソリン価格引き下げは必ずしも適切とは言えない。富裕層を含むすべてのガソリン購入者に一律に恩恵が及ぶ政策となってしまい、バラマキ的な性格があることが否めない。
物価高によって生活を圧迫された人を支援するという意味での物価高対策であれば、低所得層に絞った給付金が第1に考えられる。秋の臨時国会では、与党は参院選で公約に掲げた給付金を補正予算で実施することを目指すだろう。同じく給付金を公約に掲げた立憲民主党の協力が得られれば、それは実現する可能性がある。
ただし与党が公約に掲げた給付金は一人当たり一律2万円が基本となっている。それではバラマキの側面が強く、物価高で大きな打撃を受ける低所得層を支援するという所得再配分機能も働かない。低所得層に対象を絞った給付金の実現を目指すべきだ。
物価高によって生活を圧迫された人を支援するという意味での物価高対策であれば、低所得層に絞った給付金が第1に考えられる。秋の臨時国会では、与党は参院選で公約に掲げた給付金を補正予算で実施することを目指すだろう。同じく給付金を公約に掲げた立憲民主党の協力が得られれば、それは実現する可能性がある。
ただし与党が公約に掲げた給付金は一人当たり一律2万円が基本となっている。それではバラマキの側面が強く、物価高で大きな打撃を受ける低所得層を支援するという所得再配分機能も働かない。低所得層に対象を絞った給付金の実現を目指すべきだ。
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。