トランプ大統領の暗号資産支援
米議会では、ドルなどの法定通貨や商品(コモディティ)と価値が連動するように設計された暗号資産(仮想通貨)「ステーブルコイン」の規制整備に関する法案GENIUS法案が上下両院で可決され、7月18日にトランプ大統領が署名して成立した(コラム「米国で進むステーブルコインの規制整備(3):GENIUS法が成立:ドル覇権の維持を狙うトランプ政権」、2025年7月23日)。
6月5日にステーブルコイン発行企業「サークル(Circle)」がニューヨーク証券取引所に上場した。その株価は、初日に3倍近くに急騰し、投資家がいかにステーブルコイン事業に高い関心を持っているかを裏付けた。
同法案は、ステーブルコインを含む暗号資産を支援するトランプ政権の方針に基づいている。他方、トランプ一族が関与する暗号資産プラットフォーム「WLF(ワールド・リバティー・ファイナンシャル)」も、米ドルに連動する独自ステーブルコイン「USD1」を発行している。暗号資産の支援策が、トランプ一族の私財を増やすことになり、深刻な利益相反を生んでいるとの批判も高まっている。
トランプ大統領は昨年の大統領選で「米国を暗号資産の首都にする」と宣言し、それ以前の暗号資産についての懐疑的な見方を一変させ、暗号資産支援の姿勢を明確にした。業界からの資金提供を期待した行動だったと考えられる。
さらに大統領就任後は、同業界に友好的な規制当局者を任命したほか、米国によるデジタル資産の備蓄構想、関連企業に対する訴訟の取り下げや受刑者の恩赦などを次々と打ち出してきた。
6月5日にステーブルコイン発行企業「サークル(Circle)」がニューヨーク証券取引所に上場した。その株価は、初日に3倍近くに急騰し、投資家がいかにステーブルコイン事業に高い関心を持っているかを裏付けた。
同法案は、ステーブルコインを含む暗号資産を支援するトランプ政権の方針に基づいている。他方、トランプ一族が関与する暗号資産プラットフォーム「WLF(ワールド・リバティー・ファイナンシャル)」も、米ドルに連動する独自ステーブルコイン「USD1」を発行している。暗号資産の支援策が、トランプ一族の私財を増やすことになり、深刻な利益相反を生んでいるとの批判も高まっている。
トランプ大統領は昨年の大統領選で「米国を暗号資産の首都にする」と宣言し、それ以前の暗号資産についての懐疑的な見方を一変させ、暗号資産支援の姿勢を明確にした。業界からの資金提供を期待した行動だったと考えられる。
さらに大統領就任後は、同業界に友好的な規制当局者を任命したほか、米国によるデジタル資産の備蓄構想、関連企業に対する訴訟の取り下げや受刑者の恩赦などを次々と打ち出してきた。
暗号資産プラットフォームWLFの株式売却でトランプ大統領が利益か
トランプ大統領は、昨年9月の大統領選終盤にWLFのプロジェクトを発表し、トークン「WLF」を売り出した。このトークンの収益は、運営費用をまかなう3,000万ドルを除いた額の75%が、トランプ大統領とその一族に渡ったとされていた。
実際、2024年12月末時点の財務開示報告書によれば、トランプ一族の中核企業「DT Marks DEFI LLC」は、WLFの75%を保有していたことが明らかになった。WLF公式サイトの記述は6月8日以降にさらに修正され、DT Marks DEFI LLCの持ち分は、それまでの60%から約40%に減少している。これは、トランプ一族が利益確定に動いていることを示していると推察される。
Forbes JAPANによれば、このWLFの持ち分売却によって、トランプ一族は総額1億9,000万ドルを手にし、そのうち約1億3,500万ドルがトランプ大統領個人に渡った可能性があるとする。
実際、2024年12月末時点の財務開示報告書によれば、トランプ一族の中核企業「DT Marks DEFI LLC」は、WLFの75%を保有していたことが明らかになった。WLF公式サイトの記述は6月8日以降にさらに修正され、DT Marks DEFI LLCの持ち分は、それまでの60%から約40%に減少している。これは、トランプ一族が利益確定に動いていることを示していると推察される。
Forbes JAPANによれば、このWLFの持ち分売却によって、トランプ一族は総額1億9,000万ドルを手にし、そのうち約1億3,500万ドルがトランプ大統領個人に渡った可能性があるとする。
深刻な利益相反の問題か
6月13日に、トランプ大統領の2024年資産報告書が公表され、暗号資産やゴルフ・クラブ、ライセンス供与、その他事業で6億ドルを超える収入があったことが分かった。ロイターによると、同報告書に記載された資産総額は少なくとも16億ドルに上る。
今回の資産報告で、トランプ大統領はWLFの売却により5,735万ドルの収入があったことが明らかになった。2025年にはさらにWLFの売却収入を拡大させた可能性が考えられる。
トランプ大統領は、子どもたちなど一族が運営する信託に自身の事業を移管したと説明してきた。しかし今回の報告書では、それらの事業から派生する利益が自身の収入になっているという実態が明らかになった。その結果、特に暗号資産については政策と自らの収益の間で、利益相反が生じている可能性は否定できない。
ステーブルコインの規制整備も含めたトランプ大統領の華々しい暗号資産支援策は、自らの資産と収入の拡大に結びついているという深刻な利益相反の問題、いわば闇の側面を抱えているのではないか。
(参考資料)
「トランプ氏の昨年資産報告書、暗号資産などで6億ドル超の収入」、2025年6月16日、ロイター
「トランプ家、暗号資産事業の持ち分を一部売却か 評価次第で275億円規模」、2025年6月21日、Forbes JAPAN
今回の資産報告で、トランプ大統領はWLFの売却により5,735万ドルの収入があったことが明らかになった。2025年にはさらにWLFの売却収入を拡大させた可能性が考えられる。
トランプ大統領は、子どもたちなど一族が運営する信託に自身の事業を移管したと説明してきた。しかし今回の報告書では、それらの事業から派生する利益が自身の収入になっているという実態が明らかになった。その結果、特に暗号資産については政策と自らの収益の間で、利益相反が生じている可能性は否定できない。
ステーブルコインの規制整備も含めたトランプ大統領の華々しい暗号資産支援策は、自らの資産と収入の拡大に結びついているという深刻な利益相反の問題、いわば闇の側面を抱えているのではないか。
(参考資料)
「トランプ氏の昨年資産報告書、暗号資産などで6億ドル超の収入」、2025年6月16日、ロイター
「トランプ家、暗号資産事業の持ち分を一部売却か 評価次第で275億円規模」、2025年6月21日、Forbes JAPAN
プロフィール
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木内 登英のポートレート 木内 登英
金融ITイノベーション事業本部
エグゼクティブ・エコノミスト
1987年に野村総合研究所に入社後、経済研究部・日本経済調査室(東京)に配属され、それ以降、エコノミストとして職歴を重ねた。1990年に野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年には野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年に野村證券に転籍し、2007年に経済調査部長兼チーフエコノミストとして、グローバルリサーチ体制下で日本経済予測を担当。2012年に内閣の任命により、日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の審議委員に就任し、金融政策及びその他の業務を5年間担った。2017年7月より現職。
※組織名、職名は現在と異なる場合があります。